第3話

 わたし達は、何かあると必ず二人の秘密の場所で集まる。それは小さい時からの暗黙の決まりとなっていた。確か、小学生の時から自然とそうなっていた。

 逸樹とカフェで別れ、すぐに茜音に連絡を入れる。

<今日、久々に会えない?>

<久しぶり! いいよっ、仕事休みだから>

<そしたら、十五時にいつものとこでお願い>

<わかった!>

 すぐに彼女から返事があった。確認してから、急ぎ足で秘密のへ向かう。そこでわたし達は今まで沢山のことを話してきた。泣いたり笑ったり、怒ったり――――。

 だからか、相手の考えていることは何となくだが、手に取るように分かってしまう。

 きっと、茜音には「早く元気になってほしい」というわたしの気持ちが伝わっているだろう。それが重荷になっていたのかもしれない。ふと、そんな風に思った。彼女が無理に笑っていて空元気なのは、自分のせいでもあるのかもしれなかった。そのことに気付いた途端、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 早く茜音に会いたい。会って、謝りたい。

「桜空っ!」

 一足先に茜音が来ていた。いつもの定位置に座って、こちらに向かって手を振っている。

「茜音ちゃん、久しぶり! ごめん、待った?」

「ううん、今来たところ」

 茜音は、そのまま静かに流れる川を見つめた。わたしは何も言わず、横並びで腰かける。何をするでもなく、二人で空を見上げた。何と切り出そうか迷っているうちに、どんどん時間が過ぎていく。

 夕日に照らされて、キラキラと反射している川に視線を移し、やっとの思いで口を開いた。

「茜音ちゃんはそのままでいいよ。茜音ちゃんのペースで、ゆっくり時間ときを進めればいいから」

 いつもと変わらない声で自分の想いを告げる。彼女にとっては唐突すぎただろう。だが、鼻をすする音が隣から聞こえ、慌てる。

「あ、茜音ちゃん!?」

「本当に桜空には敵わないなぁ。何でもお見通しだね」

 茜音は次から次へと溢れる涙を片手で拭い、笑った。その笑顔は夕日に照らされて、とても美しいものだった。

 いつの間にか、表情の翳りが薄くなっている。

「茜音ちゃん……」

「桜空のお陰で、少しずつだけど、前に進めてるよ。仕事も楽しいし」

「そっか、良かったぁ」

 茜音は出版社に勤めている。元々、本が好きで編集者になるのが夢だった。その夢を叶えて、編集者として楽しく仕事をしているらしい。少しほっとする。

「ところで、桜空。他にも言いたいことがあるんじゃない?」

 

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