第8話 カレーって簡単そうに見えて面倒


『出本君には悪いけど、学級長の代わりに生徒会を手伝ってもらうことになります』


『これが文化祭開催日までに生徒会のやることリスト。で、その日程を組んでください』


『初霜咲の文化祭を盛り上げてくれることを祈って、一緒に頑張りましょう』


 信頼されるのは嬉しいけど、初週からなんでも任せすぎだよな……。

 何度読み返しても、文章に間違いはない。ほんの数週間前まではクラスの端で窓ガラスを眺めていただけの僕が、いまでは生徒会の文化祭日程表づくりを任せられている事実。


「そりゃ、紅澄が怒るのも納得だ」


 ここまで生徒会に貢献することになるとは思いもしなかった。

 紅澄とまともに話したのは十日以上も前な気がする。実行委員会以降、話す機会が取れずにそのままズルズルとここまで来て、そのまま……


『参加するのは一回だけだからな』


 あの言葉が本当なら、明日の実行委員会は四人? いや、


『しばらく参加できません』


 三人の可能性もある。もし処分が加算されるのなら、今度こそ停学……。

 ダメだ、考えても無駄だ。

 それは明日の僕が直面する問題で、

 今日の僕が果たすべき問題は晩御飯の買い出し。


 家でぬくぬくと引き籠っていたかったのに、今日は仕事で両親ともども家を空けるというフィクション的展開……何かの布石だとしても、食事が出されないから不便でしかない。


 まあいい。さっさと弁当でも買って帰ろう。


 そう妥協した雄一は、新鮮な野菜が並ぶ野菜コーナーから、手軽に済ますことのできるお弁当が売っている惣菜コーナーへと直行で向かった。

 だが、ものの数秒後、雄一は隣のアイス什器の中に顔を突っ込むことになる。


 ど、どうして、あいつが……。

 ほんの一瞬、視界に捉えたのは見覚えのある黒ブレザー。


 ……初霜咲女生徒の制服姿。


 時刻は十五時三十分すぎ。いつもならまだ六時間目の授業の時間帯のはず……。

 唇の感覚が消えてきたあたりで、仕方なしにおそるおそる顔を上げる。

 だが、惣菜コーナーにそれらしき人物はいない。


「ふぅ……」


 ひとまず、撒けたみたいだ。

 いつもの自分なら平常通りに見事なスルースキルを披露できるのだが、

 如何せん、

 ①登校していないのにアイロンがけされて、しわ一つ見当たらない整えられた制服姿。

 ②仮に知り合いだった場合、状況的に諸々気まずくなる恐れ。

 と二つのリスクが伴う。これにはさすがの僕も赤面だ。


「アイスの什器は気持ちよかったか?」

「ひんやりしすぎてるな。もう20℃は下げてもいいかも」

「いいや、上げていいと思うぞ。なんせ、制服まで着て学校に来ないバカは頭を冷やした方がいいからな。……ってアタシも人の事言えねーか」

「……あ」


 後ろを振り向くと、髪を後ろで束ねたお団子ヘアにブレザー片手の女生徒が一人。

 最悪の瞬間。

 雄一は言い訳する暇なく、腕を無理やり引っ張られる。


「アタシも買い物してたんだ。付き合えよ」

 鮭の弁当を持った紅澄木乃葉は、店内の奥へと歩き出した。


「……学校は?」

「アンタが言うか? 三日も休んでたくせに」

「いやちが……」

「どこが違うんだよ、コミュ障になってんじゃねーか」

「そんなこと……あるかも」


 たしかにここ数日はずっと部屋に引きこもりっぱなしで、他人との交流をほとんどしてこなかった。しかし、教室でずっと沈黙決め込んでる奴に言われるのは少々、侵害だ。


「そ、その弁当はどうしたんだよ」

「これか? これはアタシの今日の晩飯だよ」

「いつも惣菜弁当で済ましてんの?」

 あえて小馬鹿にするようなトーンで訊く。


「……あ、アンタには関係ねーだろ。それに人の事言えないんじゃないか?」

 惣菜コーナーに向かおうとしていたことも筒抜けらしい。


「ぼ、僕はちゃんと献立を決めて料理の食材を買いにだな……」

「じゃあ、今日の献立は?」

「……び、ビーフストロガノフ」

 紅澄の瞳は若干揺らぐ。


 でっち上げに嘘っぱち。

 料理なんて両親のいない月一程度にしか作らない上、作れる料理はせいぜいカレーや、シチューレベル。その中で最も、料理人と思わせられる品目を考えた結果が、料理番組で見た見栄を張れそうな小難しい文字列(ビーフストロガノフ)だ。


「へ、へえ~……」

 紅澄は怖気づいたように一歩引き下がる姿勢を見せる。よし、格付け完了……と。


「じゃあ、証明として作ってよ。そしたら料理ができないアタシの非を認めてやる」

「……紅澄の前でか?」

「そうじゃないと照明にならないだろ?」

「別にいいけど、それは……」


 大変なことになった。

 つまり、それはになるかも、ということだ。雄一の言葉に焦りが募る。


「引きこもりが家から出てくるくらい食材がないってことは、買いに行く人もいなかったってことだよな」

 こいつ、変なところで頭が回りやがる……。


「僕の部屋に入らないって約束をするなら、考えなくもない」

 撤回するなら今だぞと言わんばかりに、自分の部屋をアピールするも……

「……? いいけど」

 踵を返した紅澄は、不思議そうな顔で当たり前のように了承した。


 男女二人が誰もいない家に上がることがどんなに深刻なことか、彼女は理解しているのだろうか、いいやしていない。

 紅澄って肝心なところで、なんだかこう、危機意識が足りないというか……。


「いいけど!」

「聞こえてるから! わかったよ」

 耳を覚まさせる大きな声に、雄一は食い気味で返した。


 ひとまず、

「紅澄の知っている料理の方がどのくらい凄いか分かりやすいだろ?」という口実をつけてビーフストロガノフ問題は解決。無難なカレーを作ることに決まった。


「まず、ルーを買わないとだな」

「黄色い香辛料で色付けもしないとな」

「ん……?」

 雄一は思わず、自分の耳を疑った。


「んだよ」

「いや、スパイスは大事だよな……」


 さすがに、カレーの作り方は知ってる……よな?


     ※ ※ ※


「ただいま……」

「お邪魔しまーす」

 耳元で元気に挨拶する同級生。


「誰もいないよ」

「礼儀だろ」

 そう言うと、紅澄は当たり前のように我が家へ上がっていく。


 まさか初めて家に呼ぶ知り合いが女子になるだなんて……。

 友達連れてきたって言ったら母さん喜んだかな。誰もいないけど。


「意外ときれいにしてるんだな」

 広々としたリビングに入ると、紅澄は辺りを大っぴらに見渡す。


「まあ……な」

 どこか落ち着かない様子で紅澄の動向を追うも、部屋は、机の上に無造作に置かれていた資料の束、床に新聞が一枚一枚散らばっていたことすら忘れてしまうような整頓ぶり。

 朝、掃除機の音がうるさく鳴っていたが、タイムリーで助かったみたいだ。


「なにか、隠してるものでも?」

「な、なんでそんなこと……」

 狼狽えるな雄一。本当にまずいものは自分の部屋にしかない。


「汗でおでこがテカテカだから」

「いや、これは……」

 言い訳を考えようと頭をフル回転……


「って、それは紅澄の荷物持ってたからだろ」


 原因は明白だった。


「持てとは一言も言ってないけど」

「言ってるようなもんだったろ!」

 それは少し前に遡る。


 三十分前。


『おいおい。結構買ったな……』


 会計が終わった後、買い物かごに想像以上に重たいことに気づく。

 中身は、じゃがいもににんじんにたまねぎに豚肉にブロッコリーにピーナッツに大学芋にスルメイカ……って関係ないものまで入ってるじゃん……(ちなみに料金は雄一持ち)。


『腹、空いてるだろ?』

『空いてるけどさ……』


 まあこの際、買いすぎだろとか野暮なことは言うまい。費用は弁当代と大差ない。


『で、エコバッグは?』

『なにそれ? 袋ならそこにあるけど』

 紅澄は素っ頓狂な顔でレジの方を指す。


『いやいや、袋は有料だろ。もしかして、持ってきてないのにこんな買ったのか……?』

『そうだけど……それってアタシが悪いのか?』

『悪いかどうかを聞いているんじゃない。この野菜たちはどう持っていくんだ?』

『だから袋を……』

『またあの長い長いレジを、袋一枚のために紅澄は並ぶのか?』

 そう言うと、紅澄は渋々ほぼ空の通学カバンを差し出す。


『じゃあ、アタシのカバンに……』

『入るか?』

『……たぶん』

『入れるぞ……』

『……うん』

 パンパンに詰め込んだ後、両手でがっしりと掴み、カバンの底を持ち上げる。


『……っ!』

 想像以上の重さに腰が抜けそうになるも、なんとか耐える。


 しかし、既に頭皮から汗が噴き出ている現状。長くは持たなさそうだ……。


『アタシが持とうか?』

『ああ、ちょっと……』


 そこまで言ったところで、雄一の中で迷いが生じた。


 ちょっと待つのは僕だ。

 荷物持ちごときで、助けを求めるのは男の名折れ。

 数多数々の主人公は当たり前のように持っていたじゃないか。


『なんでもない。僕、一人で十分だ』

 ここは意地の張りどころだ。

 雄一は、キリッとした鋭い目つきでそう言い切った。


 柄じゃないと言われても関係ない。僕は理想に近づきたいんだ……。


『そうか、じゃ』

 あっさりした返事をすると、紅澄はブレザー片手にスキップして先を急いだ。


『あ、でもやっぱり半分ずつ……』


 四秒後に出た、僕の弱気な声を掻き消して……。


「辛かったんなら後からでも言ってくれればよかったのに」

「言える雰囲気じゃないだろ……あんな『キリッ』とかやっちゃったら」

「じゃあ、あれはアンタなりの矜持ってわけか」

「そういうことでいいよ。間違ってないし」

 そんな大層なものに見えたんなら、光栄なことだ。


「ちょっと待てよ。つまり、それはアタシを女扱いしたってことか?」

「ほら、早く作ろうぜ。野菜くらい切ってくれよ」

 雄一は急かすように紅澄をキッチンに呼び込む。


「なんだか、透かされた気がするな……」

「久しぶりに人と話すから慣れないだけだ。自意識過剰も大概にな」

「アタシって、自意識過剰……か?」

「あー……かもな」

 紅澄は意外にも雄一の発言を真に受け、ショックを受けているらしかった。


 前のような、張り合いがいはどこに行ったんだか。


「まず、野菜。手始めにじゃがいもの皮を切っていくぞ」

「包丁でやるのか?」

「うちにはこれしかない」

 左手にいもを持ち、右手で包丁を抑えながら、ゆっくりと円形を描くように皮だけを剥いていく。


「身も削れてないか?」

「た、多少は誤差だろ。それに少し不格好の方が味は出る」

「たしかに……」

 紅澄は思慮深くこちらを覗いたままだ。そこ、同意するところか?


「私もやってみていいか?」

「いや、ダメだ。紅澄にはこっちのにんじんを切ってもらう」

 まずは基本のきからだ。

 包丁の使い方に慣れていないのならケガをする恐れもある。


「どう、切ればいいんだ?」

「輪切りかな。両端をまず切り落としたら、横から一定の幅で切っていく切り方」

「わかった!」

 紅澄は元気に返事をする。気合が十分なのはいいことだが、


「包丁を使うときは猫の手、これ基本だからな」

「猫……? それじゃあ、包丁を持てないだろ?」

「包丁に沿える左手の話だよ。猫の手をすれば、ケガすることも減るから」

「だから、猫ってどんな手だよ。なら、犬の手じゃダメなのか?」

「犬はこう……少し広がってるだろ。猫の手はこうして丸めるんだよ」

「こ、こうか……?」

「そう、そこで両手を頭の上にあげて」

「あげて?」

「猫の鳴き真似‼」

「にゃんにゃん……こ、こうか?」

 次第に頬を赤らめていく紅澄、事後の沈黙はさらに重みを増していった。


「すまん、それは必要なかった」

 瞬間、重たいアーパーカットを食らった雄一の身体は宙に浮いた。


 罪悪感に耐え切れなかった僕の良心を憎むぜ。


      ※ ※ ※


 一通り野菜を切り終え、具材を鍋で煮込む段階。

「おい、これはいつカレーになるんだ?」

 紅澄はまだ色付けされないのが気になるのか、落ち着かない様子で鍋を覗く。


「まだ時間かかるな。箸で刺した感じ、まだにんじんが固い」

「箸の感覚で時間を測るのか……。アンタ器用だな」

 いや、いつもなんとなくなんだけど……まあ、上に見られるのも悪くない。


「そういえば、実行委員はどうなった?」

「アタシが知ってると思うか?」

 自然な流れで話を振るも、和らいでいた紅澄の口調は気を抜くことなく強張る。


「いや、知らなくていい。だいたいの予想はついてる」

「……副会長は何度か、顔を出してたな」

「教室に?」

「ああ、いないって伝えたら淋しそうな顔をして帰っていったよ」

「そうか……」


 副会長には三日も連絡を取らずに悪いことをしたな。


「紅澄は、僕がどうして休んでいたのか聞かないのか?」

「実行委員の課題を終わらせてたんだろ」

「それは……建前だ」

 雄一は言葉を濁らせながらも、正直に言った。


「その建前で休む理由には十分だろ。聞いたところで、アタシにメリットがあるとは思えない。どうせ、仕方のないことでうじうじ悩んでたんだろうしな」

「いや、まさにその通りなんだけどさ……」


 的確に言い当てられるとぐうの音も出ない。


「副会長の話によると、会長が本を借りた理由は卒業文集のために借りたらしいぞ」

「会長? いきなり何の話を……」

「消失した初霜咲の歴史書物第四巻の話。アンタ部長だろ?」

 雄一の表情は花が開くみたいにぱぁと明るくなる、紅澄はそれをうんざりした表情で、横目で捉えた。


「訊いてくれたのか……?」

「暇だったからな、それと仮入部中だし」

 驚くべきことに、紅澄は自分が思っている以上に入部している自覚があるらしかった。


 仮入部員の成せることじゃないぞ、おい……。


「それで会長は?」

「本は図書館に返したと言ってる。ただ、副会長は会長がなにやら分厚くて難しい本を読んでる姿を目撃したことがあるというだけで、本を返却している姿は確認されていない」

「つまり、本は結局行方知らずってことか」


 白を切っているか、何らかの形で誰かに貸し出したか……。


「それ以上は教えてくれそうになかった。アタシじゃなく、アンタなら話は変わるかもしれないが」

「僕も仲が良いってわけではないからな……」

 届きそうで届かない情報。現状を一発で解決するには、会長に詰め寄るか、何か隠しているかもしれない副会長に詰め寄るしか選択肢がなくなってしまったわけだが……


「もう四巻以外を読破するしかないかなぁ……」


 こうなってしまえば、急がば回れだ。どうして四巻だけ隠されていて、他の巻は何の問題もなく図書館に保管されているのか、理由を知るために一から調べる必要がある。


「そんな時間あるのか?」

「……ないかもな」

 初週の今でも手一杯な状況だ、部活で忙しい伊櫻が戻ってきてくれれば、少しは手が空く可能性もあるが、週が進むごとに忙しくなるのは覚悟しなくてはいけないだろう。

 文化祭にクリスマス会。良かれとこうじた、実行委員になるという案が部活動を止めてしまうことになるとは……。


「悩んでいても仕方ないだろ。好機を待つだけだ」

「そう……だな。今は全力で文化祭やクリスマス会を成功させるしかない」

 そして、伊櫻と中崎先輩が呼んでいた『彼』と呼ばれる男性。

 他人が首を突っ込むのは野暮かもしれないけど、伊櫻と文化祭を成功させるために解決しなければ未来はないだろう。


 それまでは、どうにか僕がバトンを受け継がないと……。


「勝手に頑張れよ~」

 紅澄の気の抜けたやる気ない声が宙を舞う。


「心変わりはない……か?」

「心変わりも何も、アタシはたらい回しにされてる気分だよ」

「たらい回し?」

「ああ。それもここ数週間という短期間の間にいろんな出来事が起き過ぎてるからだ」

「い、言われてみれば、そうかもな……」

「けど、こういう経験も悪くはないのかなって思ったりもする」

「本当か?」

「ああ、本当だ。つーか、どうしてそんなかしこまった様子なんだ?」

「そ、そうか……? べ、別に普通だぞ」

 実行委員会選出に部活仮入部、その他にも勉強会や今日のカレー作り。


『善は急げ』という教訓に従いすぎたところはあるかもな。


「悪役が突然味方になるのは終盤だろ。今はアタシの出番じゃない」

「……どういうことだ?」

 さっぱり理解できなかった。いつものように猛反対されると思ったが……


「まさか、協力してくれる意思はあるってことか?」

「アンタが思ったままに捉えてくれていい。それはそうと、シャワー借りてもいいか?」

「へ?」

 あまりにも飛躍した会話リズムに、雄一は戸惑いの声を漏らす。


「アタシも汗かいてたみたいでさ、気になってんだよ」

「着替えは?」

「ジャージ持ってきた」

「カレーは? そろそろできるぞ」

「もう少しかき混ぜといて」

「別に汗臭くないぞ?」

「そうか? ……って真に受けるアタシもアタシだが、そういうことを平気で言うアンタも……」

「なにかまずいことでも言ったか?」

「いや、なんでもない。それじゃお先いただきまーす」

「おい、ちょ……」

 それだけ言うと、紅澄は颯爽と風呂場へ向かって行った。


 覗く気なんてさらさらないが、そういうリスクは考えたりしないのか。

 そう思い、雄一はひとつため息をついた後、


「どうして、会長は十一~十五年前の資料を貸し出したんだろう……」


 と、考え事をしながら平常心を装うようにカレーを回し続けた。


      ※ ※ ※


 丹精込めて作ったカレーは大好評だった。

 料理の腕をすっかり見込んだ紅澄は、

「来週はシチューで頼んだ」と予約までしてきた。いやいや、うちは店じゃない。


 しかし、それとこれとは話は別。


 翌日の実行委員会には予告通り、紅澄が来ることはなかった。

 想定内だ。少し寂しく感じるかもしれないが、想定内だ。

 昨日の紅澄がどうして無理を押してまで訪問してきたのか。その意図に僕は気づいているつもりだ。

 それにあの発言からするに望みだってゼロではないだろう。信じて待つのみだ。


 ところがどっこい。


「お待たせ~。部活終わったから帰って来たよ~」

 それとは関係なく、大会を控えていたはずの我らの学級長はごく普通に復帰してきた。


「伊櫻⁉ た、大会は?」

「終わったよ~。だから、ここにいるんじゃん」

 近くにいる担任に視線で確認するも、担任は首を縦に振るだけ。


「そうか、終わったのか……」

 雄一は楽しそうに班員と話す伊櫻の横顔をじっと見つめる。


 なんにせよ、これで仕事の負担が減る。図書館にも多少は足を運べるかもしれない。

 しかし、大会が終わってすべて元通りというわけにもいかないだろう。

 あの場にいた僕だから痛感することができる、あれはそんな空気感だった……。


 こうして、それぞれの想いを馳せながら一年五組班は、水島、木原、伊櫻、出本を含む前回の参加人数と同じ四人で、第二回実行委員会に参加するのであった。

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