第7話 悩み
翌週の昼休み。
例のごとく、一年五組の教室で惰性を貪るつもりだった雄一は、学級長の突然の誘いに困惑していた。
「僕と二人で?」
「うん。そう私と、出本君の二人で」
教室という衆人環視の中で、伊櫻は胸を張って、自分とその人出本雄一を指差した。
「あの副会長が呼んでるんだよ~? 断る余地はないよね」
「そう言われても……」
「言われても~?」
次第に顔面を接近してくる伊櫻。
視線を逸らすと、じろりと横目でこちらを睨む紅澄。
副会長といっても、伊櫻からしたら部活の先輩である彼女は友達みたいなものだろう。一人で行くという選択肢はないのだろうか。多方面からの視線がとにかく痛い。
「ど、どうして二人なんだ? 班の話なら全員で話した方が……」
「人数が多いと話がまとまらないでしょ~。それに、話したいこともあるし……」
伊櫻は少しだけ俯き、声量は次第に小さくなっていった。
まるで隠している本心を勿体ぶるみたいに。
「それは……僕と話したいってことか?」
つまり、これはそういうこと……だよな。
「乙女にそんな直球ストレートで聞くかな~、普通」
「いや、ごめん。他意なんてないよな、ごめん」
変な空気は一瞬にして消え去った。
世界よ、これが彼女いた歴0年の勘違いスキルだ。
「嫌なら無理して来なくてもいいよ~。強制はしないから」
二人、しかも雄一と有紗の名指し、班全員の話し合いは求められていない……。
この情報からいくつかの可能性は考えられることができた。
無難なところは、ついに生徒会から一年五組班に下される処分が決まったか。
はたまた、処分を軽くするため仲のいい副会長に交渉を仕掛けるところだったか。
あるいは……。
副会長が僕ら二人を指名して呼んでいるか。
そうとなれば、話は変わってくるだろう。
「今から?」
「そう、いまから」
「このメロンパン食い終わってからでもいいか?」
「もちろん。私も手伝ってあげよっか~?」
副会長が何らかの企みでこちらに呼び出すことは副会長の人柄から見て考えにくい。
「手伝う……? メロンパン食べたいってことか?」
「え……」
「なんだ。お腹空いてるなら購買寄っていくか? 生徒会室からはちょっと遠――」
「冗談だよ~。その冗談も通じないみたいだけど」
人柄の良さが何故分かるのかって? そもそも会議中に知り合い(ほぼ初対面)を見つけて、手を振るような人間を僕は疑うことはできない。
仮に嵌められていたとしたら、副会長は伊櫻とグルで確定だ。
「ん? なにか言ったか?」
「いや、特には。私も今度メロンパン買ってみようかなと思って」
「おう。美味しいぞ、購買のメロンパン」
「何円?」
「百六十五円」
「……意外と高いね」
「その分、美味いよ」
しかし……
こんな和気あいあいとした昼休みを過ごしたのはいつぶりだろう。
なんだか、胸がポカポカした。
教室を出た数分後、
「緊張してる?」
と、横並びに廊下を歩く伊櫻は訊いてくる。
「そりゃ、あの生徒会に呼び出されたとなれば少しは」
「理事長直々の配下みたいなものだもんね~」
配下っていう言い方には少し引っ掛かるが……。
「生徒会は、理事長にそこまで慕われているのか?」
「……出本君は、初霜咲の核はなんだと思う?」
「核……?」
ここで意味する『核』は、初霜咲であるための、初霜咲だからこその、エンジン部分という意味だろうか。
「ギブアップ?」
「まだ数秒しか経ってないと思うけど……」
「率直に言うと、なにをするにしても生徒会が絡むから」
伊櫻はそう言うと、説明口調で話を続けた。
「実行委員会はもちろんのこと、学校行事に関連するすべての情報、無数に存在する部活動の管理等々の仕事は生徒会が取り扱っているの」
「……つまり、下手したら教員より信頼に置かれているってことか?」
「生徒会の会長副会長は、教員同士の職員会議まで参加することが義務付けられている。加えて、意見の優劣は基本的に生徒会側が有利とされている。教師の声よりも生徒の声を大事にしてるんだよ、この学校は」
「噂には聞いてたけど、生徒会ってそんなに身分が高かったのか……」
「出本君の言う通り、教員より立場が上と言えるくらい、生徒会には価値があるかもね」
なら、仮に紅澄が生徒会長になったらこの学校は破滅だな……。
「そんな生徒会の副会長が、呼び出したんだよ? これって重大なことじゃない?」
「確かに」
そう言われると、事の重大さに気づく。ちょっとお腹が痛くなってきた。
「生徒会って、あんなことやこんなこと。今までいろんなことをしてきたからね~」
「その、いろいろが知りたいんだけど……」
実際問題、あれから数日と経過しているのに、未だに学校に登校していない水島を見ると、余計知りたくなる。
「けどさ。もし、違う用件だったら?」
「っていうと?」
「副会長が施しを与えてくれるみたいな、そんなありがたいお話だったら?」
「いくら、知り合いだからといってそれはないと思うけど……」
生徒会の地位を知ってしまった以上、あまり望めなくなってしまったのは事実だろう。
「例えばだよ~。出本君はどうする?」
無益で無価値な情報をそんなに知りたいのか、伊櫻はこちらに迫る勢いで訊いてくる。
「ど、どんな用件でも、建前を破るわけにはいかない……かな?」
「ああ……なるほど」
思ったより、すんなり言葉は出た。
どちらにせよ、僕らは実行委員一年五組班の代表として生徒会室に赴く姿勢だ。
部活の先輩がいる生徒会室に遊びに行くわけではない、上級生にお叱りを受けるかもしれない下級生という心構え。それは心に留めておくべきだろう。
「うんうん、そうだよね~」
伊櫻は嬉しそうに同意してくれた。
紅澄に言ったら『真面目過ぎてつまらない』と言われたが、もしかすると僕の考えの方が一般的だったりするのかもしれない。
というか、絶対にそうだ。
「そろそろ準備しとこっか」
「……うん」
そうこうしているうちに、目的地である生徒会室の扉までたどり着いてしまっていた。
「……トイレ、大丈夫か?」
「乙女に普通、聞くかな。そういうこと」
「ごめん、デリカシーないよな。ごめん」
ここは気を取り直して、冷静に。
伊櫻によると、
『部活中の中崎先輩は、優しくて面倒見がよくてリーダーシップのある先輩』
とのことだが、生徒会副会長という、重く責任感のある責務を果たしている時はどこまで人が変わるのか。僕の見解は大丈夫だと見ているが……。
「わざわざ生徒会室まで出向いてくれてありがとうね。有紗ちゃんに出本さん」
「あ、どうも……」
口ぶりからは、特にこれといった変わりようは見当たらなかった。
やはり、彼女は純粋な聖人だ。
「連れてきましたよ、先輩」
伊櫻の言い方に含みがあることに気づく。
「連れてきた……ってことは副会長が直々に?」
「私が独断で二人を指名してここに呼びました」
雄一はそれを聞くと、ホッとして胸をなでおろした。
どうやら、『わるい』話ではなさそうだ。
「まず、副会長として一つ伝えるべきことがあります」
雄一の眉がびくりと反応する。
「おそらく、あなた方一年五組班には軽いお手伝いをしてもらうことになると思います」
「……軽いお手伝い、というと?」
「その言葉の通りです。具体的な内容は来週の会議にて理事長の前で発表するつもりですが、念のため、先にと思いまして」
「安心させてくれたんですね。わざわざありがとうございます」
改めて言う。やはり、彼女はいいヒトだ。
悪いようにはしないことを事前に伝えてくれるのは非常に助かる。
過去の経験から。
「だから、そうへそを曲げないでもらえますか?」
「へそ?」
意図の読めない発言に思わずオウム返しした雄一だが、
「別に……普通ですよ」
応える相手は違ったらしい。
いつものように積極的に話しかけてくる伊櫻とは、また別人の伊櫻がここにはいた。
生徒会室に入ってから、一向に会話に参加しようとしない伊櫻に違和感を感じていたが、もしかして……
「お腹でも痛いのか? だからトイレは行っとくべきだって……」
「トイレは大丈夫だよ~」
伊櫻はそう切り返すと、真摯な眼差しで副会長と面と向かった。
「先輩が仕組んでくれたんですか?」
「私はなにもしてないよ。会長がそれなりの処分を選んだだけ」
「私たち二人を呼んだのも会長なんですか?」
「それは、私。有紗ちゃんには先に教えてあげようかなって」
「出本君も呼ばれてますよ?」
「……? 二人の方がいいと思ったからだけど」
なんだ、なんだ。
なんなんだこの空気は。
副会長の様子は少なくとも僕と話した時と変わらない気がする。
おかしいのは伊櫻だ。いつものフラットで余裕な素振りがまるで見えない。
やはり、部活内で元エースと現エースの二人の関係にわだかまりがあるのか……?
そんな冷戦状態の空気を打ち破ったのは中崎夏乃の一言だった。
「有紗ちゃんは、まだ彼の事で頭がいっぱいなの?」
「……‼」
伊櫻はあからさまに動揺した。
「別に咎めるつもりはないけど、彼に固執するのはよくないと思うよ」
二言目。
伊櫻はついに黙り込んでしまう。顔を見せようとはしなかった。
もう一言、出てしまえば、伊櫻はこの空気から逃げてしまうかもしれないと思った。
「あの……何の話か――」
「それが、初恋の相手でも」
三言目。
「私、先行ってるね」
という言葉だけ残して、予想通り、伊櫻は生徒会室を後にしていった。
その後ろには「あっ……」と淋しそうに零して後ろ姿を見守る先輩の姿。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。関係のない話を出すのは私の悪い癖です」
夏乃は全力投球で頭を机にたたきつける。
「いえ、仕方ないと思います。伊櫻も悩んでいたみたいだし……」
「どう、悩んでいました?」
雄一はそのままの状態を報告しようと思った。
「テニスボールをただ、見つめていました」
「……? 気に入ったテニスボールを汚したりしたのですか?」
「いや、そういう意味ではなく」
「では、どういう意味でテニスボールを見つめていたのです?」
感性が違うみたいだ、どう説明したら伝わるだろうか……。
「うーんと、こう……どこか想うところがある、みたいな」
「ボールの品質が気に食わなかったのですか?」
ダメだ、話にならない。
「伊櫻はいま、スランプ……なんですよね?」
「……有紗ちゃんはなんて?」
「そこまでは聞いてないです」
僕は表面上の伊櫻有紗しか見ていない。
その事実を思い知らされたみたいだった。
「そう、ですか」
夏乃は残念そうに肩を落とす。
「このあいだも同じことがあったんです。私のお口が勝手に喋り出してしまって……」
「その時も同じように?」
「はい……。先輩失格、ですよね……」
自分の軽率な発言に後悔しているみたいに。
「あの……よく分からないですけど、僕が知っている伊櫻を紹介してもいいですか?」
やるせない気持ちで満たされて、柄にもなく、そんな言葉を吐いてしまう。
「伊櫻はとにかく努力家だなって僕は思います」
二人の言う『彼』が誰を示すのか、何を意味するのかは知らない。
けれど、中崎夏乃は決して、伊櫻にいじわるをしようとしているわけではなかった。
僕の目には後輩を真摯に想って、正直に助言する先輩の姿に見えたから――。
「努力家?」
「学級長に実行委員会に運動部に……それだけの仕事量、僕だったら一ヶ月も経たないうちに全部投げ出してます」
それらを入学して半年もの間、彼女はこなしてきたのだ。
「だから、僕の知らない伊櫻の一面がたとえあったとしても、きっといつものように上手くやってのけてしまうんじゃないかなと思ったり……します」
「そう言える保証は……?」
何事にも全力で。
何事にも積極的で。
完璧主義者な彼女だから。
「ないですけど、大丈夫ですよ。きっと」
一つくらい弱点があっても、納得してもらえるんじゃないかって思うんだ。
「スランプの原因、私じゃないと思うんですけどね」
「ん? なにか音が……」
小声で呟いた夏乃の発言に耳を傾けようとした瞬間、入口付近で聞こえた物音に意識が行く。
「ごめんなさい。そろそろ昼休みも終わりますから……」
「あ、そうですね。長々とすみません」
雄一の意識は即座に吸い寄せられ、物音も小声も空気のように、些細なこととして、頭から抜けていった。
「ありがとうございました。それでは、また来週。実行委員会で」
「はい! またよろしくお願いします」
几帳面な先輩は、微かに微笑みながら少年の後ろ姿を見送った。
「あ、それともう一つ」
「はい、なんですか?」
夏乃は雄一を呼び止めた。感謝の言葉でも言われるのかと期待したが、
「これは生徒会としての意向なのですが、一年五組班にはクリスマス会に加えて、文化祭も実行委員として担当することになったのでよろしくお願いしますねー」
「え……? ええええええええ~⁉」
通告されたのは転勤ではなく、ハードなダブルワークだった。
ケン〇ンショーばりのオチを用意するなよ……。
※ ※ ※
それから数日。
真面目で頼りがいのある僕らの学級長は実に彼女らしくなかった。
副会長が次の実行委員会について説明をしに教室に訪れた時も、
「ごめん、部活があるから」と、ただの一班員である雄一に仕事を押し付けるようにして副会長から逃げ、班員全員が参加しているグループメッセージにも、
『部活で忙しくなるので、しばらく参加できません』と突然の無責任なメッセージ。
数日前までは班長自らが率先して意見を出していたというのに……。
明らかにあの日から避けられている。
これには、さすがの班員も疑問を抱いたのか、
「おまえ、なにかしたのか?」
と二人きりの数日前の呼び出しを知っているせいか、不機嫌そうに訊いてくる男子に、
「え、あたしが休んだせい? 拗ねてる?」
と休んだことを一応申し訳なさそうにする女子。
というか、水島はちゃんと謝ったのだろうか。少なくとも僕の下には頭を下げられていない。
まあ、叱る余裕も時間もいまの僕にはないんだけど。
「それで、わざわざ日曜に何の用? 私も忙しいのよ」
「先生の休日を潰しに来ました」
「もともと仕事で潰れてるわよ」
休日の職員室。
雄一は迷惑を承知で学校にやってきていた。
教員はチラホラと見えるが、どれも血眼になってパソコンと睨み合っている。
こちらもまだ終わりそうにない。
担任は机に溜まった膨大な紙の束をトントンと叩く。
それも既に満身創痍の疲れ切った表情で。
「また帰ってないんですか?」
「今週だけよ。今週が終われば、後は生徒がやってくれるから……へへ」
担任から不気味な笑みがこぼれる。もうとっくに限界だろうに。
「でも、先生ほどの量ではないですよね……?」
「あら、一泊までなら可能よ。毎年、数人はいるのよね……。週末まで残っている生徒」
来週から僕もこの立場に……? 想像するだけで胸やけする地獄絵図だ。
「もしかして、いまやっている実行委員の仕事よりハードになります?」
「いまやってる仕事はなんだったかしら?」
「えーと……実行委員をやるにあたっての意気込み原稿用紙十枚と、文化祭開催日までの計画日程表づくりです」
意気込み400詰め原稿用紙はただの小手調べだから、とりあえず埋めればいいという副会長の助言の下、なんとか終わりを迎えることができそうだが、日程表に至っては……
「今から文化祭までの日程をすべて決めるのは難しい……って?」
担任は僕の心を読んでいるかのように質問の問いを先に応える。
「はい、一日一日の予定を細かく組み立てるのって不可能に近くないですか?」
きっと、いつもの流れで担任は教えてくれる。
こういう甘い部分を生徒は頼るべきだ。
「適当でいいじゃない。そんなもの」
「そんなもの呼ばわり⁉ そんな簡単じゃないから今日来てるんですけど……」
ついでに言うと、文化祭まであと一ヶ月しかない。
進捗を訊こうかとも思ったが、班のグループメッセージの連絡は一昨日から途絶えている。自分から話を振るのは少々躊躇われた。『大した用件でもないのに』、『そんなこともできないの』と思われたらショックだ。
「あー。簡潔に話すと、私に予定を立ててほしいと?」
「そういうことかもしれないです」
「これ見て分からないのかしら。私は今日死ぬほど忙しいの」
担任の声色に冗談は含まれていない。
「もちろん、承知の上です」
怯えることなく雄一は頼み込んだ。
「……いいわよ。私がこの間見た最悪な映像物についての感想話に耳を貸してくれたら、助言を垂れてあげる」
「あざす」
担任は雄一の真摯さに折れた形で、話を始めた。
「私が好きな系統はなにか知ってる?」
「女子一人男子九人の逆ハーレムストーリーですよね」
「ちゃいます。私が好きなのはシンデレラストーリーです」
若干、食い気味になった。図星くさい。
「シンデレラストーリーというと?」
「身分、位の低かった人間が這い上がっていく物語。なろう系と似たり寄ったりかしら」
「先生の口からそんな単語が出てくるなんて意外です。アニメとか観られるんですか?」
「最近は、ドラマよりアニメを観る方が多いかしら。ドラマはほら、長いから」
「たしかにアニメはその半分の時間で済みますしね。けど、どうしてその系統を?」
「何も考えずに観られるから。アニメってそういうものでしょ?」
「あー、確かにそういうのありますよね~」
楽しみ方は人それぞれだ。異論を唱えるような野暮なことをするつもりはない。
「そうそう。けど、冷静に考えると、一つだけ疑問に思ったのよ。どうしてこいつはなにもせずとも幸せそうに暮らしているんだって」
「あの、シンデレラストーリーの話は……」
というか、フィクションに妬んでます?
「歩いているだけで可愛い女の子と出逢っていいことする男。ほんと倫理感の風上にも置けないケダモノね」
「男嫌いなのは分かりましたから、そこらへんで……」
「私は汚くて醜い大人だからハッキリ言うけどね、最初から楽して得られる超つよーい武器なんてそんな都合のいいことあるわけないのよ」
「あの、ただの愚痴になってます」
というか、いい歳して深夜アニメを叩くことでしかストレスを解消できない嫌なレビュアーになり果てた担任教師なんて、この世で一番見たくない人種だよ……。
「という話なんだけど、出本君はどう思うかな? かな?」
「どうと言われても、年齢層が違うとしか言いようが……」
「私が入ってないとでも言いたげかな?かな?」
正論を言えば、そういうアニメは僕くらいの学生が対象とされているアニメだろう。まず、ターゲット層に入っていないことを伝えなければ話にならない。それとその語尾やめてください。喉元も痒くないし、突然叫ばれても周りに迷惑なだけですから。
「嘘ッ……じゃない?」
「本当です。頭空っぽにすれば面白いと思いますよ」
「適当に観ろと?」
「はい、適当で」
「じゃあ、そのノリで日程表も適当でいいと思うわよ」
「えーと……だから、それとこれとは別で……」
「学級長の日程表でもあれば簡単ナンダケドナー」
「……」
担任の言葉に雄一は言葉を詰まらせる。
「……黙秘、ね」
担任は冷たくあしらうように言葉を続けた。
「うちのクラスの学級長の一学期記録を見ようと思って訪ねたのかは知らないけど、私からのアンサーはそういうことだから。さっさとお家に帰って勉強でもしてなさい」
「……いい加減テストの範囲出してくださいよ」
「それはまた今度。また明日、学校で」
職員室の扉を閉めようと、担任の方を振り返る。
帰り際、いつも目で追うだけの彼女が今日は呑気に手を振っていた。
それも化粧もほとんど意味のない疲労が溜まった顔で。
少し迷った後に、
雄一は首を軽く下げてから、扉を閉め切った。
「適当が分からないから、聞きに来たんだけどな……」
家に帰ったあと、雄一は現状を一旦忘れてテレビゲームを夜が更けるまで遊んだ。
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