エピローグ

   第六章 


 ――初霜咲に入学してすぐ。


 私は、過去に自分がどれほどの罪を犯してきたのか、身に持って痛感させられた。

 相槌を打つだけで、簡単に築くことが出来るコンティニューいらずの人間関係。

 入学式に参加した『初期メン』というだけで、三年間は優遇される年間パス付き。


 世界はこんなにも広く受け入れてくれるのだと思った。


『今日の授業は?』

『夕方は雨だ。行くとしても午前までだな』

『そんな当たり前のようにサボられても……』

『仮にアタシが真面目に授業を受けていたら、日本に住む中学生は一人残らず全員が義務教育に縛られることになるだろ。アタシはそんな退屈な国にしたくないんだよ』

『てことは、うちらは比率を少しでも軽くしてやってるってわけか』

『そういうこと。これも社会貢献の一つと考えてもいいくらいだぜ』

『じゃあ、もし、行きたくても行けない奴がいたら?』

『そん時は一緒に行ってやる。アタシは弱い奴の味方をする』


 授業に部活に学校行事に恋愛……それぞれが打ち込みたいものに全力で取り組む初霜咲の姿勢は、私がダチと語っていた夢の学校生活そのものだったんだ。


 アイツが来るまでは……。


「今日からクラスの一員になる元オンライン受講生の出本雄一です。みなさんと思い出、作りに来ました」


 あのとき、私の華々しい学校生活の幕はあっけなく閉じたんだ。


 ※ ※  ※


 文化祭から数ヶ月が過ぎていた。

 忘れられない過去、悔いなき選択、すべてを背負いながら雄一はここ体育館の入り口に立っていた。


「メリークリスマス‼ クリスマス会へようこそ。クリスマス会の受付はこちらでーす。参加する方は整理券をお取りになってから入場してくださーい」

「こんにちはー、サンタさん。私、中央門を跨ぐのはこれで二回目でしてよ」

 お嬢様の風貌を装った女生徒は自慢げに挨拶してくる。


「ほほほ、何回跨いでもは変わらんよ。さあさあ中にお入り」

「まあ、ご冗談がお上手なこと。伝説を知りませんこと?」

「知らんね。サンタは夢を与えることが仕事じゃからのう」

「あら、そう。では失礼しますわ」

 女生徒はつまらなそうな顔をしながら中へと入っていった。


「はーい。行ってらっしゃーい。……ったく、めでたい奴」


 背中越しにボソリと呟いた。雑用をわざわざ自ら請け負い、むさ苦しく暑苦しいサンタクロースの衣装を着てやっているのだ。愚痴の一つや二つ、吐かせてもらわないとこっちもやってられやしない。


「早く終わんねーかな……」

「あのー……」

「はい。なんですか?」

 呆けていた面を覚まし、呼ばれた方向に視線を向ける。

 受付の前に立っていたのは、白いクマの着ぐるみを着た性別不明の人間。


「なんですか? 受付はこちらですけど……」

「いえ、受付ではないんです。ある人からの言伝を受け取っておりまして……」

「言伝?」

 しかし、どこかで聞き覚えのある声だ。


「はい。その人からの言伝によると、早く決着をつけに行った方がいい、と」

「決着? はて、何の話でしょう?」

「わたしも詳しくは……」

「じゃあ、詳しく聞きましょうか。先生」

 確信を持った声色で着ぐるみに問いかける。

 すると、白クマ姿の彼女は降参したように中から顔を出した。


「どうしてわかったのよ……」

 もちろん。汗だくで出てきたのは我らが担任、そして、相談係の朝倉先生だ。


「声と一人称でなんとなくですかね。それで何の話だったんですか?」

「視察に来たのよ。生徒会から離れた出本君が働いているかをね」

「そんなことしなくても、あれだけ貢献した僕がサボると思いますか?」

「サボらないかもね。けど、わたしだったらサボるわ」

「現にサボってますしね」

「外は寒いのよ。どうして教師になってまでこんな雑用をしなくちゃならないのよ……」


「前に、わたしの嫌いな物語を説明したわよね」

「ああ、言ってましたね。あの時は本当に辛かったです」

「今度は、わたしの本当に好きな物語を教えてあげる。それは、過去のお話なのよ」

「過去……?」

「そう。それも、わたしが学生だった頃のノーフィクションのお話」

「それって……」

「詮索はしないで。いつも言ってるでしょ?」

 雄一は察せざるを得なかった。


 これから話すのは、彼女がいつも避けていて、嫌がっていた、あの過去のお話だということを。


「女生徒は普通を愛さず、異常を愛し、初霜咲という絶対領域を作り上げた」


 どこかで聞いたような単語だ。それも、偉い人が自慢げに語っていた。


「それは、いまのわたしから見れば、ひどく悪いことだと思う。聖域と称し、外部を蚊帳の外にして楽園を作る。そんなの楽園でも何でもないのにね」


 嘲笑するように吐き捨てる。けれど、その表情はちっとも怪訝そうには見えなくて。


「悔いても仕方がない過去に、先が見えない未来。そんなものに惑わされる人であるな」


 画面上でも、顔合わせでも、生徒に向き合うその、真摯な瞳。


「きっと、あなたたちは分かり合える。これは、過ちを犯した先輩からのメッセージよ」


 そんなやさしさを、僕は確かに……受け止めた。


「あの、先生ってまさか……」

「恋愛相談はこれで終わり。相談役も飽きたからもういいわ。好きにしたらいいわよ」

 唖然とする雄一に担任はこう、付け足した。


「楽しいクリスマス会を」


 それだけ言うと、教師はそそくさと体育館を後にした。




「雄一君、おつかれー」

「おう。やっと交代か」

 物陰でこっそり給水していると、もう一人のサンタがやってきた。


「残念ながら、まだ交代の時間じゃありませーん。私は様子を見に来ただけだよ」

「なんだよー……とはいえ、生徒会の見回りご苦労様です。伊櫻会長」


 有紗の服装は、サンタ衣装ではお馴染みの赤と白の配色に合わせたコーディネート。

 首元のふわふわや上半身を留める白いボタンからは普段とは違う雰囲気を感じさせる。なんといっても、ポイントは女子限定の丈が膝ほどまであるスカートだろうか。ひらひらとした、ガードが薄そうな隙のあるスカートには、視線が自然と吸い寄せられる男子生徒も少なからずいるはずだ。それに、男と違って顔半分を覆うほどの白髭を着けなくていいのは随分と快適そう……あー、本当にもじゃもじゃして鬱陶しい。


「仮に私が会長だったら、こんな暖房の効いた暑い受付部屋でサンタクロースのコスプレをした生徒を立たせないよ」

「それはごもっともだ。今度言っておいてくれよ」

「暖房はどうにもならないけど、衣装の方はどうにかできないか訊いてみるよ。白髭を好んで着ける人なんていないだろうしね」

「伊櫻、お前ってやつは……」

 雄一は共感の念をありったけの視線で伝えた。


 季節は雪も降り積もるほどの真冬だというのに、どうしてこんな暑い思いをしなくちゃならないんだと疑問に思うだろう。僕もそう思ったのだが、初霜咲クリスマス会の受付は厳重な注意を払うために室内で取り行うのが、何年も前から決まっていることらしい。


 そのため、体育館の暖房を消すわけにもいかずに、こうしてサバンナ体験をしているわけだ。


「しかし、逆に中央門の前で生徒を案内してる守衛さん方は寒いだろうな……」

「そうだね~。雪も降ってるし、私も生足だとちょっと厳しいかな」


 外の気温は十二月とは思えないほどの異常気温で、地面はツルツルに凍るほど。

 せっかくの雪積もるホワイトクリスマスだというのに、中央門を見張る守衛さん方には敬意を払うべきだろう。


「後で差し入れでも持っていこうかな……」

「あ、いいねそれ。私もついてくよ」

「伊櫻は見張っててくれ。僕一人で行くよ」

「生徒会にバレたら大変なことになるよ~。女子一人置いて遊びに行ったって」

「生徒会の見回りは伊櫻だけだろ? だから大丈夫」


 クリスマス会といっても、初霜咲の関係者以外は立入禁止の場だ。文化祭ほどの厳重な監視システムではないだろう。


「ちぇ~。まあ、そうだけど……雄一君もまた生徒会で手伝えばよかったのに」

「僕はもういいんだよ。文化祭で燃え尽きた感あったしな」


 文化祭で大役を成し遂げた雄一は、所謂燃え尽き症候群となっていた。

 開会式での会長の醜態や一生徒による妨害行為といった、何かと問題が多い文化祭ではあったが、結果的にはメインにサブにステージは大盛況。


「先輩も認めてたよ。彼がいなかったらここまでの盛り上がりはなかったって」


 慣れないことをして、けど努力して、成功して。

 そんな、味わったことのない達成感に満ち溢れていたのは確かだった。


「先輩って副会長のことか。盛ってる部分も多少はありそうだが、そう言ってもらえるなら素直に嬉しいよ」


 副会長の時折見せていた、どこか近寄りがたいオーラの存在はついには知ることが叶わなかったな。おおよその見当はついているが。


「盛ってる……? 前から思ってたけど、雄一君は自分を過小評価しがちだよね」

「そうかな?」

「そうだよ。文化祭当日だって眠そうだけど仕事して、成功させようとしてた」


 いつもより眉を少しだけ上げたムッとした表情に、確信を持つ声。他人のことだっていうのに、伊櫻はいつも真剣に応えてくれる。まるで満面に咲く花のように。


「成功したのか、あんな事件があって」


 だから、それを踏みにじるのがとてつもなく気が引けた。


「っ……。た、多少時間は短縮したけど、私は踊れたよ」

「あそこに僕の居場所はもうない。それはあの場にいる全員が分かるはずだ」


 それに目撃の証言をくれたのは伊櫻、君だ。メインステージには出番の時間通りに来ていたという話を聞く。どうやったのかは未だに見当がついていないが、ここ一ヶ月の彼女の行動から既に答えは出ているだろう。


「せっかく来てくれたのにこんな話してごめん……。僕、もう行かなくちゃ」

 雄一は迷いの末、何も言及せずにその場を立ち去ろうと靴を履き始める。


「……雄一君?」

「受付よろしく。もうほぼ終わってるんだ。ハンコ押して通すだけだから頼むな」

「ちょっと……雄一君‼」


 腹の底から出たような有紗の呼び止めに、雄一は思わず走る足を止まらせた。

 有紗は椅子から立つと、雄一を鏡に見立てるように全身をさらけ出した。


 そして、優しい声色で訊いた。


「……服、似合ってる?」


「ああ、完璧だ」

「…………」


 次の瞬間、雄一は返事も聞かずに全力で扉を開けて走り出した。


 雪道のなか、滑って、何度も転んで。

 目を細めて、嬉しそうにみせた笑顔で見送る、君の姿が脳裏に焼き付いて。

 寒さのせいか、頬を真っ赤にしながら……


 雄一は、始まりの場所を目指した。


 ※ ※  ※


 これは言い訳だ。


 前々から、歯に何かが挟まったままみたいな疑問は残っていた。

 教師と生徒間での情報の錯綜に、辻褄の合わない担任教師の言い分。

 彼女が担任に赴任しているのはこの一年五組だけのはずだ。だから出席を確認するとき「出席簿をまちがえた」なんて台詞、他の担任をやっていないと出てくるはずがない。

 時折、学校の陰で目にした、生徒間によって行われていた上流階級と下流階級のようなごっこ遊び。それが、オンライン受講生の存在だと気付いたのはいつ頃だったろう。


 安心して木乃葉。それも、今日が最後だから。


 ※ ※  ※


 空もすっかり暗闇に覆われ、夜の寒さが身を震わせる中。

 守衛さんに労いの言葉と差し入れを持っていくために中央門へやって来た雄一だったが、


「驚いた。まさかこんな雪のなか、本当にいるとはな」

「…………おせーよ。チンカス」


 出会ったのは門柱の上に腰掛ける、およそ二ヶ月ぶりに顔を合わせた紅澄木乃葉だった。


「手紙、読んだのか?」

「読んだから来た。守衛さんは?」

「ああ、あいつらなら全員酒飲んで潰れてるぞ」

「んなばっ……⁉」

 おもわず素っ頓狂な声が出る。


 警備は厳重に、と事前に忠告していたはずだが……


「まさか、睡眠ガスを?」

「そんなことするか、ただ酒を飲ませただけだ」


 見ると、紅澄の服装は有紗と同じようにサンタの衣装を着ているらしく、その上からブレザーを羽織っていた。飲ませたというのであれば、紅澄が生徒会のフリをして差し入れに酒を仕込んだことに間違いはないだろう。


「眠らせた後はどうする気だったんだ?」

「そう、警戒するな。殺したりはしない。ただ――邪魔は入らない方がいいだろ?」


 紅澄はどこか普段より……というか普段も何も二ヶ月ぶりだから普段の区別がつかないが、いつもよりは少しおちゃらけた様子で会話をしているようだった。


 それに発言がいつもより、よそよそしい。


「で、手紙の感想は? どうだった」

「感想もなにも驚いたよ。紅澄からこんなアクションを起こしてくるなんて」


 ある日、突然下駄箱に入っていた手紙。

 初めは、ついに僕にもラブなレターが降臨っ……と期待を一ミクロンほど膨らませたものだが、差出人が紅澄だというのだから、そんな次元の話ではなかった。

 手紙の内容は紅澄らしい端的なものであった。


『クリスマス会の夜、中央門で待つ』。そして……


「『会を抜け出すことがなければ、私は待たない』っていうのは、どういう意味なんだ?」

「そのままの意味だ。その場合、私たちは決別するべきだというな」


 紅澄の声色はこの吹雪く風に乗せたみたいに、冷たい。


「決別、か……。紅澄には自覚があるってことでいいんだな?」

 雄一は最後の望みを託すように、あの日のことについて問いかけた。


 祈るように、そして、願うように。


「自覚もなにも文化祭の騒ぎは全部私がしたことだぜ。生徒会はいろいろ調べてたんだろうが、アンタも最初から気付いているはずだ。犯人である異分子は一人しかいないって」

「……なぁ、どうしてそんなことをしたんだ? あれは、悪いこと……だろ?」

「悪いことをしてきたことに変わりはねーよ。アタシの居場所はアタシが決めたんだ」

「そんな覚悟知るかよ。周りを否定したってなにも始まらない」


 異分子。

 そんな卑怯な単語を、僕の前で容易く使われたことが、僕にとっては癪に障った。


「アタシの考えを否定するのか?」

「否定するよ。紅澄の考えは根本的に間違ってる」

「あのときは肯定してくれたのに?」

「あれは……だって、その……僕を助けるためのパフォーマンス……だろ」

「アタシはいつだって本気だよ。生涯で一度も冗談なんて吐いたこと、ない」

 雄一は思い出していた。


 紅澄木乃葉が暴力的で、短絡的で、不器用な人間だということを。

 だから……


「……っ⁉」


 僕は感情に身を任せて彼女の頬めがけて思いっきり、ぶってやった。


「じゃあ、なんだよ。紅澄は、僕の……いや、僕たちの努力を否定するのか? みんなで協力して、あれだけ距離があったのに段々とみんなにも認められて、学校の顔である生徒会長にも褒められて……そんな善とする青春を君は、否定するのか?」

「…………」

「殴られて文句があるなら殴り返せばいい。紅澄とさしで話すならこれが正解だろ?」

「……ああ、そうだな。アンタの平手打ち全然気持ちが入ってねぇ……よっ‼」

「ぶっ……⁉」

 顔をグーで殴られ、激しい痛みとともに身体は門柱に叩きつけられる。


「アタシのグーパンは効くだろ? これでも中学の時はよく示しをつけてたからな」

「……ああ、痛すぎて泣きそうだ」


 雄一は、身体をやっとの思いで起こすも、既に立ち眩みで視界がぼやけ始める。

 僕らは痛烈な表情で、互いに目線で睨み合う。


 嫌われようと、何をされようと、絶対に譲れないものがそこにはあったから。


「僕は……信じたくなかったよ。紅澄があんなことする奴だなんて……」

「アタシも見誤ってたよ。所詮、アンタは誰にでも従う忠実な犬に過ぎなかった」


 文化祭を全力で取り組んだ結果の言われ様が、誰にでも従う犬、かよ。


「言いたいことはそれだけか?」

「……アンタ、キレてんのか?」

「わざわざ手紙までよこして来たんだ。用がないなら僕は会場に戻る」

 以前、紅澄がしたように、僕は冷たい態度であしらった。


 背中越しに感じる後悔と疑念。

 それを受けつつも、自分から足を止めることはしないと決めていた。


 後戻りはもうしたくないから……。


「アタシをまた放って楽しいか? アンタは?」

「……どういうことだ?」

 雄一は踵を返して門へと足を戻す。


 振り向いてしまった。あまりに意外な肘パンチに面食らったように。


「アンタは……実行委員をするも、部活をするも、アンタはアタシと手を組んでいるにも関わらず、一人で決めて、手を借りようとはしなかった。信頼してなかった」

「信頼……? 信頼していない人間を家には呼ばないだろ?」

「同じ異分子だと思ってたアンタが、遠くに行っちまうみたいで怖かったんだ。もう誰も失いたくない。仲間(ダチ)を失いたくなかった……」

「おい……」


 狙い通りではあった。

 ついに吐いてくれた彼女の心の内に眠る、数少ない弱音を待つためにした行動だった。

 けど、僕は紅澄木乃葉という人物をまるで知らないみたいに思えた。


「つまり、文化祭での犯行は、僕に構ってほしかったから?」

「……そうかもしれない」

「…………」


 長い沈黙が流れる。あの時と同じだ。

 雄一はどう、反応を示せばいいのか、皆目見当がつかなくなってしまっていた。


「そろそろ行くよ。アタシがまた、過ちを犯したことに変わりはない」

「ちょ……ちょっと待てよ」

 雄一は引き止めるように、紅澄の腕を強く握った。


「アタシに触るな。アンタはもう自由に学生生活を……」

「女を殴るのは反則だろ。僕も行く」

「最低だよ、アンタ」

「かもな。けど、僕も行く」


 答えは見つからなかった。


 紅葉は朽ちた。

 僕らが想像していたより、世界は過ちを許すようにできていて。

 僕らが想像しているより、人生という迷路はこれからも続いて。

 やり直すことが思ったより、簡単だ。

 たとえ、葉が枯れようと、残った枝は春に向けて密かに開花を待つことを知っている。


 だから――僕らは普通でなくても、特別であろう。


 そんなポエム的理想論を君に伝えるのは、まだ先になりそうだけどね。




「そういえば、約束したのにメインステージ来なかったな」

「それはお前が……まあ、いいや」

「下にサンタコス着てんだ。見るか?」

「見たい」

「即答かよ。まあ、後で見させてやるよ。アンタ、アタシのこと好きだろ?」

「ああ、好きだ。だから厄介なんだよ」

「女が風呂に入るときくらい我慢しろよ? だから男は気持ち悪い」

 僕はすぅーっと、口から息を吸って鼻から吐いた。


 困ったな。

 言い訳、思い付かないや……。


 僕らは、あの中央門を跨いだことすら気付かずに、夜の街へと駆け出していく。

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初霜咲の生徒は過ちを犯してしまいました るんAA @teyuki

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