第4話 下の句はまだ、ふたりの秘密
気になったことは言わなきゃ。
だから、聞こう。
スマホからならLINEで、ペンを持てばノートに書き記そう。
口から歌を紡いで、目の前にいる好きな人には言葉をかけよう。
わたしは、コンビニの駐車場の端でその灯りの下に座り込む柚葵を見つけて声をかけた。
気がかりだったこと。
問1 この距離が変わること。
問2 女の子同士なこと。
問3 柚葵の下の句のこと。
些細な疑問は、たいていは受け流してもいいもので、そうすることで頭の中に余白を残すものだけど。この疑問には解がひつよう。
そう思ったから、柚葵をさがしたんだ。
「――あ、愛じゃないの!?」
意を決して、聞いてみる。問3の問題。
「え?」
「柚葵の、下の句。『愛ではないけれど……恋はしている』って」
「言い忘れたことって、それ?」
「うん、それ! あとね、あと。あと……。ううん、まずは聞かせて! わたしのこと、愛してないの!?」
目をまるくして、わたしを見る柚葵は可愛くて。
劣等感だって感じるけど。
そこは、勢いで。なんとかしよう、もとより柚葵に勝ってることなんてなにもない。見た目も、書く文章も。だから、ハートで(笑)ね。
「……恥ずかしかったから。ちょっとごまかした」
「じゃあ、下の句は……。柚葵の下の句はまだ未完成なんだよね」
「うん、そうなる……かな」
それなら。
それなら……!
――口づけをする? しない? とかそんなこと。
さっき浮かんだ歌の上の句だ。
下の句は、そう。
「わたしの歌もなの。わかんないから! わかんないから!! だって、まだわたしたち、何も知らないから。だから上の句だけで精一杯なんだもん」
「えっと、藍里……?」
――見せない作品はないのと同じ
藍里の言葉、なんども反芻する彼女の持論。
作家としての矜持。わたしもその考え、好き。だから。
みせて、あげる。
これがわたしの気持ち。
真正面だと鼻先が当たっちゃうから。
すこし斜めに、顔を傾けて。
綺麗な、唇。
いいのかな? いいよね。
「……!!///」
「好き、です。わたしは、柚葵が好き。これからのことなんてわかんないけど。女の子同士だから、たぶん他のひとにも言えないけど」
一瞬だったけど。全部言った。
問1も問2もすっ飛ばしちゃったけど。
あとの答えは、
ふたりで。見つけていこう。
それまでは……ナイショにして。
「藍里……うん。この恋はまだ、ふたりの秘密ってことでどうかな、それなら。女の子同士でも。いいかな」
ナイショ=秘密って変換した彼女のその一言は、わたしにはない引き出しで……。
◇下の句はまだ、ふたりの秘密
「あ……」
下の句が。まだ書かないって決めてたのに、浮かんじゃった。
「どうしたの?」
「ううん、『下の句はまだ、ふたりの秘密』なんて、どうかな?」
「なんかやらしくない?」
「えー、柚葵が言う? それ」
そう、この関係はまだふたりの秘密。
◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇ ◇◆◇
作中短歌
・百のいろ縒り合わせては掬ぶ恋 下の句はまだ、ふたりの秘密
<あとがき>
どうでしたでしょうか。
短歌✘百合がテーマの短編ストーリーでした!
藍里と柚葵のふたりのそれからの話はまたいつか、じっくり書けるといいな。
ここまで、お目を通し頂きありがとうございました!
下の句はまだ、ふたりの秘密 甘夏 @labor_crow
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