第35話 教会の噂

「はい、アルフレッド様。実は教会は自分たちに都合の良いように神の教えを書き換えていると言う噂です」

「へえ?」

 アルフレッドはリーンの言葉を聞いて、肩眉を上げた。

「まあ、噂と言うか、ちょっと大げさに言っているだけというかは、判断にむつかしいところだね」

 

 アルフレッドがそう言ってワインをもう一口飲むと、リーンの隣に座っていた老人が会話に加わった。

「教会が正しいことをするわけじゃないからな。教会がすることが、正しいことだという話になるだけのことだ、いつだってな」

「……あなたは……どこかでお見かけしたことがあるような……?」


 アルフレッドが記憶の糸をたどっていると、トレヴァーがアルフレッドに耳打ちをした。

「アビントンさんです。昔、教会にいた……」

「おう! 俺はアビントン・モーリスだ。昔、教会にいたが……あそこは駄目だ。芯から腐ってやがる。特にクリフの奴は神を妄信してやがる」


 興奮するアビントンにリーンが声をかけた。

「アビントンさん、こんにちは。最近、農園は順調ですか?」

 リーンがアビントンに尋ねると、アビントンは機嫌を直して答えた。

「ああ。植物は素直だから、手をかけただけすくすく育ってくれるよ。教会にいたころより、ずっと人間らしい生活を送ってるさ」

 アビントンはビールを片手にもって、ぐびり、と飲んだ。


「最近、また教会が勝手なことをし始めているらしいな」

 アビントンはまた教会の話を始めた。

「勝手なこと?」

「おう、アルフレッド坊ちゃん。教会は魔女の刻印を刻むと言って、善良な市民を脅しているそうじゃねえか」

 アビントンはそう言うとビールをわきに置き、リーンの頭をなでた。


「その件は、もう解決したはずですよ」

 微笑みを浮かべて言うアルフレッドに、アビントンは冷ややかな視線を送った。

「どうだかな。教会の言うことは嘘ばっかりだ。信じないほうがいい」

 リーンがよろけたアビントンを支えて言った。

「のみすぎですよ、アビントンさん」

「ああ、このくらい大したことない……」


 アビントンは自分の座っていた席に戻っていった。


「アルフレッド様……教会は大丈夫でしょうか?」

「フローラは教会が心配なのかい?」

「……ええ、一応お世話になっておりましたし……」

「ふうん。……今の悪評は教会にとって自業自得ってところじゃないかな」

 アルフレッドの前に料理が並んだ。


「さあ、美味しそうだよ。早速食べよう!」

「……はい」

 上機嫌で料理に手を伸ばすアルフレッドを見ながら、フローラは思った。

「……教会が……また何か事件を起こさなければ良いのですが……」

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