第34話 町

 フローラは外で洗濯物を干していた。初夏の風が頬をなでる。

「気持ちのいい朝ですね」

 フローラは太陽のまぶしい光に目を細め、額の汗をぬぐった。

「フローラ、そろそろ朝食の準備が整います。アルフレッド様に声をかけてくださいませんか?」

「はい、分かりました」

 アルフレッドの部屋に行くと、フローラはドアをノックし声をかけた。


「アルフレッド様、朝食の用意ができました」

「今行くよ、フローラ。ありがとう」

 アルフレッドは部屋着のままフローラと食堂に向かった。


「今日は久しぶりに町に行ってみようかな」

 朝食を終え、デザートのゼリーを食べながらアルフレッドが言った。

「アルフレッド様はしばらく部屋にこもってらっしゃいましたね」

 フローラが言うと、アルフレッドは頷いた。

「ああ。今はまた、新しい魔法道具の研究をしてるからね」


 アルフレッドの発言を聞いたトレヴァーは、眉をひくりと動かして言った。

「……危険なことはおやめくださいといつも申し上げておりますが?」

「危険じゃないよ。ときどき爆発することはあるけど」

 アルフレッドはそう言って笑った。トレヴァーはこめかみに手を当て、ため息をついている。


「町へは……フローラと行こうかな?」

 アルフレッドがそう言うと、トレヴァーが微笑んで答えた。

「私も同行いたします。二人きりでは不安です」

「あ、私も……アルフレッド様と二人だけでは……心細いです」

 アルフレッドは頬を膨らませた。


「ひどいなあ、二人とも。主に向かって、そんなこと言うなんて……。まあ、いいか。じゃあ、三人で町に行こう!」

 トレヴァーは静かに頷くと、アルフレッドに聞いた。

「それでは外出の準備をします。昼食はいかがいたしましょうか?」

「町で食べたいな。たまには外食もいいだろう?」

「分かりました、アルフレッド様」


 トレヴァーとフローラは食事の片付けを終えると、外出の準備を始めた。

「お待たせいたしました。準備が整いました」

「それじゃあ、行こうか」

 アルフレッド達は馬車で町に向かった。


 町には活気があふれていた。

「買い物をしてもよろしいでしょうか?」

 トレヴァーの質問に、アルフレッドは返事をした。

「いいよ」

「それでは市場へ行きましょう。フローラ、荷物をもってください」

「はい、トレヴァー様」


 市場で食材を買い、トレヴァーとフローラはそれぞれ荷物を抱えた。

「そろそろ、食事にしない?」

「分かりました。アルフレッド様は何を召し上がりたいですか?」

「うーん……モツのトマト煮込みが食べたいな」

「それでしたら、こちらの方に美味しいと評判の店があると聞いています」


 トレヴァーが歩き出した。

「すごいなあ、トレヴァーは何でも知ってるね」

 アルフレッドが嬉しそうな表情でフローラを見た。

「行こう」

 アルフレッドとフローラはトレヴァーの案内に従って、町の中を歩いて行った。


「こちらです」

「へー。気取らない店だね」

「大丈夫でしょうか……」

 トレヴァーの案内した店は、町のビストロと言った感じだった。


「何名様ですか?」

 元気のいい女性が声をかけてきた。

「三人です」

「こちらへどうぞ!」

 アルフレッド達は窓際の景色が良い席に通された。


「ご注文は?」

「アルフレッド様、何を召し上がりますか?」

「ワインと……モツのトマト煮込みと……パンかな? フローラとトレヴァーは?」

「私は……お店の今日のおすすめにします」

「私も店のおすすめにいたします」


 フローラとトレヴァーが遠慮がちに言うと、店員は元気よく繰り返した。

「はい!ワインと煮込みとおすすめ二つね!」

 料理が運ばれるまでの間、アルフレッドはあたりをきょろきょろと見回した。

「新鮮だな、こんな場所に来るなんて。トレヴァーは庶民的な店は許してくれないと思っていたよ」

「こちらの煮込み料理は一流店にも負けないと聞いておりましたので、たまには良いかと」

「うん。悪くないね。庶民的な店は賑やかで楽しい」


 アルフレッドが運ばれてきたワインを一口飲んだところで、声をかけられた。

「アルフレッド様!? こんなところでお会いできるなんて!」

「ん? ああ、リーンさんにユリアちゃんじゃないか! 元気だった?」

「はい、おかげさまで」

「君たちも食事?」

「はい」

 ユリアは緊張した面持ちで頷いた。


「アルフレッド様、教会の噂は聞いていますか?」

 リーンが声を潜めて言った。


「なんだい? 噂って?」

 アルフレッドはワインをもう一口飲んでから、リーンに尋ねた。


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