第33話 過去2
「食事の用意が出来ました、アルフレッド様」
「ああ、ありがとう。今日は三人で食べよう」
「え?」
「いいだろ? トレヴァー?」
アルフレッドは上目づかいでトレヴァーを見つめている。
「……分かりました」
「フローラも良い?」
「はい、分かりました」
トレヴァーとフローラは三人の食事を食堂の机の上に並べた。
アルフレッドの前には鳩の肉のローストとパンとスープとサラダが並べられている。
トレヴァーとフローラの前にはパンとスープとサラダだけが置かれていた。
「あれ? 君たちは鳩のローストは食べないの?」
「はい」
トレヴァーはにこやかに答えた。
「トレヴァーもフローラも遠慮しないでよ」
そう言うと、アルフレッドは二人のパンを置いている皿に、切り分けた鳩の肉を置いた。
「ありがとうございます」
「それでは。……今日の恵みに感謝いたします」
アルフレッドは簡単なお祈りをしてから食事を始めた。
「……クリフ神官長は、御子にも自分にも厳しいですけれど、昔から厳しかったのですか?」
フローラがアルフレッドに尋ねると、アルフレッドは首を横に振った。
「クリフ神官長のことは、僕よりトレヴァーのほうが詳しいよ」
アルフレッドがトレヴァーを見て小さく頷くと、トレヴァーが話し始めた。
「クリフ神官長が厳しくなったのは、アルフレッド様のおじいさまとおばあさまが結婚されてからと聞いていますね。まあ、結婚と言っても神の許しは得ていませんが」
「御子を奪ってしまったからですか?」
「ええ、そうですね。それに、クリフ神官長はアルフレッド様のおばあさまに恋をしていたようでした。クリフ神官長は目で、いつもアルフレッド様のおばあさまを追いかけてたそうですから」
「ああ、やっぱりそうだったのか」
アルフレッドは腑に落ちたという表情でうつむいた。
「そして、教会はアルフレッド様のおばあさまに、呪いをかけました。今思うと、魔女の刻印を刻んだのでしょう。アルフレッド様のおばあさまは若くして体調を崩されたと先代から聞いております」
「アルフレッド様のお父様とお母様は……?」
「事故で亡くなったんだよ。僕がまだ小さいころに、二人を乗せた馬車が崖から落ちてしまった」
アルフレッドはさみし気な笑みを浮かべてフローラに言った。
「その事故も、教会の仕業だという噂がありました。あくまで噂ですが」
トレヴァーが言った。
「僕はいつもベッドにいたおばあ様と、屋敷を切り盛りしていたおじいさまに育てられたからね。父と母のことは……あまり思い出せないかな」
アルフレッドはスープを飲んでため息をついた。
「フローラはクリフ神官長が気になるの?」
アルフレッドの問いかけにフローラは頷いた。
「なんだか……いつも苦しみを抱えているような表情をしているので……」
「そうだねえ」
それ以上、誰も何も言わなかった。
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