第25話

「それじゃ、そろそろ行こうか、トレヴァー、フローラ」

「はい」

外に出ると日差しがまぶしかった。

玄関にトレヴァーが手配していた馬車が待っている。

 トレヴァーが進行方向を背中にして馬車に最初に乗り、次にアルフレッドがトレヴァーの向かいに、最後にフローラがトレヴァーの隣に乗った。


「フローラ、トレヴァー、お菓子とパンはたくさん作れたかい?」

「はい」

 トレヴァーはパンの入った大きなかごを、フローラはクッキーの入った大きなかごをアルフレッドに見せた。

「うん。良いね」


 三人が乗ると馬車は走り始めた。

 街並みを抜け、町はずれに来ると馬車は止まった。

「ここだよ、フローラ」

「ここが……孤児院」


 フローラは、古いけれど綺麗に掃除された大きな家を見つめた。

「こんにちは。アルフレッドです」

 ちょっと間をおいてから、家の中から大人が現れた。

「いらっしゃいませ、アルフレッド様」

「やあ、コンラッド。あ、そうそう。うちに新しい召使がふえたんだ。フローラ!」


「フローラ・リースと申します」

 フローラはそう言ってお辞儀をした。

「はじめまして。コンラッド・アビーと申します。よろしくお願いします」

 コンラッドもお辞儀をしてから、ひとなつこい笑みでフローラを見つめた。


「久しぶりに遊びに来たよ、コンラッド。子どもたちはいるかな?」

「はい。……みんな、アルフレッド様が来てくださったぞ」

「はーい!!」

 子ども達が6人ほど顔を出した。

「やあ。みんな、ひさしぶり。元気だった?」

「はい」

「この人はフローラ。僕の新しい友人だよ」

「フローラさん、はじめまして」


「はじめまして。よろしくね」

 フローラが子供たちへの挨拶を終えると、アルフレッドが言った。

「トレヴァー、フローラ、お土産を渡してあげて」

「はい」

 トレヴァーとフローラはかごを出して、パンとお菓子を子どもたちに見せた。


「今日は、二人に作ってもらったからいつもより多く持ってこられたよ」

「ありがとうございます」

「マイケル、エイミー、かごの中身を適当なかごに移してきてくれるかい?」

「わかりました。コンラッドさん」

 マイケルとエイミーはかごを家の奥に持っていった。


「僕が前に来た時から、何か変わったことはあった?」

「御子様の任命式典で雪が降って綺麗だったよ、アルフレッド様」

「そうか、キャロル、みんなで見に行ったんだね」

「うん」

 キャロルはまだ幼い手を握りしめて、おおきく頷いた。


「アルフレッド様、僕は小川のそばで薬草がたくさん生えている場所を見つけたよ」

「そうかい、シリル。良く見つけたね」

 シリルは得意そうに胸を張った。

「勉強もしてるよ。アルフレッド様もコンラッドさんも、勉強は大事だって言ってるよね」

「ああ、そうだね」


「お茶の準備が出来ました。よろしかったら召し上がってください」

「ああ、ありがとう。コンラッド。トレヴァー、フローラ、ごちそうになろう」

「はい、アルフレッド様」

 家の中に入ると、長い机が三つ並んでいた。

 その机の上に、紅茶とアルフレッド達が持ってきたクッキーが並んでいる。


「それじゃ、みんな、お茶の時間にしよう」

「はーい」

 アルフレッドの隣に、マイケルとエイミーが座った。

 トレヴァーの隣にはキャロルとフローラが、フローラの隣にはシリルが座った。


「神の恵みに感謝します。いただきます」

 コンラッドが祈りの言葉を言うと、こどもたちもそれにならった。

「神の恵みに感謝します。……いただきます」

「おいしい」

「このパン、ふわふわだ」

「クッキーもサクサクして甘くておいしい」


「子どもたちに喜んでもらえたようで、良かった」

 アルフレッドは優しい笑みを浮かべて、子ども達を一人一人見つめていた。

「フローラ様……って、もしかして、元御子様の?」

 シリルがフローラに尋ねた。

「……はい、でも今はアルフレッド様にお仕えしています」

「そっか。アルフレッド様、やさしいもんね。よかったね、フローラ様」

 シリルはにっこりと笑った。フローラもつられて微笑んだ。


「ここにいる子は、親はいない。だけど、みんなまっすぐ育ってくれている」

 コンラッドがフローラに話しかけた。

「アルフレッド様が遊びに来てくださるようになって、子ども達も喜んでる。アルフレッド様は勉強道具や食べ物を寄付してくださるので助かっている。本当に、ありがたいことです」

「やめてよ、コンラッド。僕は子どもたちが成長していくのを見るのが好きなだけなんだから」


 アルフレッドがクッキーをかじりながら、苦笑している。

 子供たちの話を聞きながらお茶を飲んでいると、もう夕暮れが近くなっていた。

「そろそろ帰ります。なにかほしいものがあれば屋敷までご連絡ください」

「アルフレッド様、ありがとうございます」

 コンラッドが頭を下げると、子ども達も頭を下げた。


「アルフレッド様、ありがとうございました」

「また来てね」

 子どもたちの声に、アルフレッドは右手を振ってこたえた。

「ああ、またお邪魔するよ」


 帰りの馬車の中で、アルフレッドは機嫌がよかった。

「みんな元気そうでよかった。フローラ、感想は?」

「あの、孤児院というと暗いイメージだったのですが、皆さん明るくて、元気もよくて、驚きました」

「そうか」

 アルフレッドは目を閉じて息をついた。


「あの子たちが、大人になっても笑っていてくれればいいんだけどね」

 少し寂しそうに笑うアルフレッドを見て、フローラは何とも言えない気持ちになった。


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