第26話

 穏やかな春の日、アルフレッドは図書室でのんびりと本を読んでいた。

 ドアをノックする音が聞こえたので、アルフレッドは読書を中断した。

「失礼いたします、アルフレッド様」

「なんだい? トレヴァー?」

 トレヴァーは落ち着いた様子でアルフレッドに言った。

「お客様がお見えです」

 アルフレッドは本を置いて立ち上がった。


「また寄付の要望かい? トレヴァー」

「いいえ、アルフレッド様に助けてほしいとのことです」

「助ける? 僕が? ……まあいいか。とりあえず話を聞くよ」

「それでは、お客様を大広間にご案内いたしますか?」

「そうしてくれ、トレヴァー。僕も大広間に移動する」

 アルフレッドは図書室を出て、大広間に移動した。


 アルフレッドが大広間に入ると、そこにはまだ誰もいなかった。

「さてさて、どんなご用件だろうね」

 アルフレッドは大広間の一番奥の席に座って、客を待った。

「失礼いたします。お客様をお連れいたしました」

「……領主様、お忙しいところ申し訳ありません」

 トレヴァーの後に続いて大広間に入ってきた男性は、アルフレッドに頭を下げた。

 短い銀髪が影をつくる。


「よくいらっしゃいました。アルフレッド・ダグラスです」

 アルフレッドは立ち上がると、客人に微笑みかけた。

「はじめまして。領主様。自分はリーン・ケイズと申します」

「どうも、よろしく。……ところで、私にどんなご用件でいらっしゃったのですか?」

 リーンは短い髪を右手でなでながら、少しためらった後に大きく頭を下げてアルフレッドに言った。

「実は、うちの娘を助けていただきたいのです!……アルフレッド様はふしぎな術をつかわれると聞きました」


 アルフレッドはリーンの言葉を聞いて、きょとんとした後に苦笑した。

「おやおや、なにか思い違いをしていらっしゃるようですね。リーンさん」

 アルフレッドは腰かけるように言う代わりに、リーンのそばの椅子に向けて右手を差し出した。

「どうぞ、おかけください」

「は、はい。失礼します」

 リーンは椅子に腰かけると、アルフレッドを見つめた。


「助ける、というのは?」

「私の娘のユリアは、生まれた時から病を患っているのですが……だんだん病状がわるくなってしまい……いまでは立ち上がることもできなくなってしまいました」

 アルフレッドはすこし考える様子を見せた。

「ふつう、病気や呪いなら、教会に助けを求めるのではないですか?」

 リーンは言いにくそうにうつむいたまま、小さな声で言った。

「教会は……行きました。もちろん、最初に行きました! でも、多額の寄付金が必要だと言われ……私には用意できませんでした。ですが、娘を助けたいのです……!」


 アルフレッドはため息をついた。

「やれやれ。また教会ですか……。ここで手を出したら、また教会から嫌われてしまいますね」

 セリフとは裏腹に、アルフレッドは微笑みを浮かべていた。

「トレヴァー、フローラを呼んでください」

「かしこまりました」

 トレヴァーがフローラを呼ぶために部屋を出ると、アルフレッドはリーンに言った。

「私にはあなたの娘さんを助けられる力はありません。ですが、当家に仕えるフローラなら、貴方の娘さん……ユリアさんを助けられるかもしれません」


 アルフレッドがリーンにそう言ったとき、トレヴァーがフローラを連れて大広間に戻ってきた。

「アルフレッド様、フローラを連れてまいりました」

「ありがとう、トレヴァー」

 フローラはよくわからないまま、リーンにお辞儀をした。

「それでは、詳しいお話をお聞かせください」


 アルフレッドはリーンに優しく、詳しい事情を尋ねた。

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