第23話

「ああ、疲れた。フローラも疲れただろう?」

「大丈夫です」

 フローラは食堂でお茶を待つアルフレッドの相手をしていた。

「それにしても、レイスさんは怖いねえ。あの人を見る目は、凍り付きそうだったよ」

 アルフレッドは笑いながら言った。


「アルフレッド様、レイス様も一生懸命なのですから笑うのは失礼ではないかと……」

「ああ、そうだね。フローラは偉いなあ」

 アルフレッドは椅子にすわったまま、フローラを見つめた。


「フローラはあまり笑わないね」

「そうですか? アルフレッド様はいつも楽しそうですね」

「ああ、それは、いつも迷ったら楽しそうなことを選んでいるからね」

 アルフレッドは当然というように胸を張った。


「お茶の用意が出来ました。フローラ、手伝ってください」

「はい、トレヴァー様」

 フローラは手際よくティーカップをならべ、紅茶を注いだ。

 そして、クッキーをアルフレッドの前に置いた。


「ああ、これはジンジャークッキーだね。僕はこれが好きでね。ありがとう、トレヴァー」

「今日はお疲れさまでした、アルフレッド様。ですが、いたずらはお控えください。クリフ様達、神殿の方々は真面目な人ですから」

「僕と違って?」

「私は何とも申し上げませんが」

 アルフレッドは苦笑してから、紅茶を一口飲んだ。


「フローラもどうぞ」

 アルフレッドの勧めに従って、フローラもお茶の席に着いた。

「いただきます」

 トレヴァーの持ってきた紅茶は、とても良い香りのするダージリンティーだった。

「クッキーもおいしいよ」

「それでは、こちらもいただきます」

 

 フローラはジンジャークッキーを一つ、つまんだ。

「甘すぎなくて、しょうがの風味がしておいしいだろう? トレヴァーはお菓子作りも得意なんだ」

「……美味しいです、トレヴァー様」

 フローラの言葉を聞いて、トレヴァーが微笑んだ。

「ありがとう、フローラ」


「フローラも、トレヴァーにお菓子作りを教えてもらうと良いよ」

「そうですね。よろしければ、お願いいたします」

 フローラがトレヴァーに頼むと、トレヴァーは静かに頷いた。

「それでは時間のある時に」


「ところでフローラ。君はどんなことをしている時が楽しいんだい?」

 アルフレッドの突然の質問にフローラは考え込んだ。

「……本を読むのは好きですが……あまり楽しいということにこだわったことはありません」

「なんだ。なんだか、いつもつまらなそうにしているのはそのせいかな?」


 アルフレッドは少し考えた後に、明るい顔をしていった。

「そうだ! それなら、子ども達から元気をもらおう! トレヴァー、明日の午後に孤児院に行こう。しばらく顔を出してなかったから、お菓子もたくさん持っていこう!」

「わかりました、アルフレッド様」

 フローラは不思議そうな顔をした。

「孤児院ですか?」

「ああ。子どもたちと会うのは、とても楽しいよ。それじゃ、明日の段取りはよろしく、トレヴァー」

「かしこまりました」


 アルフレッドは紅茶を飲み終えて、部屋に戻っていった。

「フローラ、明日は早起きをしてクッキーとパンをたくさん焼きましょう」

「分かりました」

 トレヴァーとフローラはお茶の後片付けをして、それぞれの部屋に戻っていった。


「孤児院……たのしいイメージはないけれども……?」

 フローラはベッドの中で、アルフレッドの考えに思いを巡らせた。

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