第21話

「これから御子の任命式典をとり行う」

 神官長のクリフが宣言した。

 いくつかの長い挨拶と、神への祈りの言葉がクリフ達から発せられた。

「それでは御子レイス、こちらへ」

「はい」

 レイスは光の錫杖を手に、広場の舞台に立った。


「神に祈りを」

 レイスはそう言って、錫杖を天に掲げた。

 光の錫杖から、わずかな閃光がほとばしったが、それだけだった。

 フローラが錫杖を手にした時の光輝く姿を覚えていた人々は、期待外れだというような表情を浮かべている。

 その時、アルフレッドが席の後ろにいるトレヴァーに言った。

「荷物を開けてくれないか? トレヴァー」


「……アルフレッド様、何をお考えですか?」

「良いことだよ」

 トレヴァーはアルフレッドの言葉を疑いながらも、指さされた荷物を開けた。

「アルフレッド様、こちらですか?」

「そう! それ! フローラ、これを持って魔力を込めてもらえるかな?」

 フローラはアルフレッドから渡された杖を手にすると、目を閉じて魔力を杖に集めた。


「わあっ」

 人々から歓声が上がった。

 雪が静かに降りだし、レイスの錫杖の光がそれを輝かせた。

「レイス様もやるじゃないか」

「フローラ様よりもすごいんじゃないか?」

 人々の口からレイスを称賛する声が聞こえ始めた。


「皆様にご加護がありますよう」

 レイスは一礼すると、舞台を降りた。

 アルフレッドの後ろにいるフローラを見ると、レイスの微笑みがはがれた。

「こんなことで私が感謝するとでも? どこまで私を侮辱するつもり? フローラさん」

 憎しみのこもった視線をうけとめながら、フローラは困惑した。


「私、そんなつもりじゃ……」

「それなら、どういうつもり? 自分は天候さえも操れると自慢したいの?」

 レイスはフローラの手にある氷結の杖をにらみつけながら、吐き出すように言った。


「レイス様、みなさんに聞こえますよ」

 アルフレッドがレイスに声をかけた。

「……」

 レイスはアルフレッドを一瞥すると、クリフ神官長たちのそばに速足で歩いて行った。

「また、恨まれてしまいましたわ」


 フローラがため息交じりに言うと、アルフレッドは微笑んで言った。

「気にしないことです」

 フローラは能天気なアルフレッドの言葉に、ため息をついた。


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