第20話

 御子の任命式典の日になった。


「アルフレッド様、準備はできましたか?」

「ああ、トレヴァー」

「フローラは着替えが終わっているのかな?」

「はい、アルフレッド様」


 アルフレッド達の準備が終わるころ、玄関から声がした。

「アルフレッド伯爵、お迎えに上がりました」

「今、参ります」

 トレヴァーが返事をした。


「アルフレッド様、神殿から使いの馬車がやってきたようです」

「はいはい。じゃあ、行きますか。フローラも良いかな?」

「はい」

 トレヴァーを先頭にして、フローラ、アルフレッドが続いて歩いた。

「アルフレッド様、すこし荷物が重いようですが……?」


 トレヴァーの言葉に、アルフレッドはウインクをして答えた。

「気にしないでくれ」

「さあ、急ぎましょう」

 トレヴァーは荷物を持ったまま、馬車に向かった。

 三人は神殿の用意した馬車に乗ると、式典の会場に向かった。


「フローラ、その格好でよかったのかい? もう少しかわいらしいドレスも用意できたんだよ?」

「今日の主人公は、御子のレイス様です。私はただの使用人ですから、黒のシンプルなドレスで十分です」

 フローラがそう言うと、トレヴァーがうなづいた。

「そうですね。目立ってもよいことがあるとは思えません」


「おや、そろそろ会場に着くようだ」

「アルフレッド様、失礼のないようにお気を付けください」

「大丈夫だよ。心配性だな、トレヴァーは」

「フローラ様は……特に心配ないとは思いますが」

「……なるべく目立たないように心がけます」


 馬車が止まり、御子の任命式典の会場に着いた。

 町の中央広場に舞台が作られていて、その後ろに神殿長たちとアルフレッドの座席が用意されていた。

「僕だけ席があるのか。申し訳ないけど、トレヴァーとフローラは後ろに控えていてくれるかな?」

「かしこまりました」


 トレヴァーは荷物をアルフレッドのそばに置いて、後ろに下がった。

 フローラもトレヴァーの後に続いた。

「これはアルフレッド様、お久しぶりです」

「やあ、神殿長。ご機嫌いかがですか?」

 アルフレッドは笑顔で神殿長と言葉を交わしている。


「……貴方も来たのね」

 フローラは聞き覚えのある声で、嫌な気持ちになった。

「レイス……様」

 フローラは御子の式典を目前にしたレイスに、お辞儀をした。

「落ちぶれたものね。せいぜい、私の晴れ姿を目に焼き付けるといいわ」


 レイスは繊細なレースで飾られた白く美しいドレスを見にまとい、フローラを冷たい目で見据えていた。


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