第19話

「おまたせ、フローラ」

「ココアがちょうどいい温度になっているとおもいますよ、アルフレッド様」

 アルフレッドが席に着くと、フローラはアルフレッドの向かい側に座った。

 二人が腰かけたのを見て、トレヴァーが言った。

「アルフレッド様、私は明日の準備がありますので、ここで失礼いたします。フローラ、後片付けをたのみますよ」

「はい、トレヴァー様」


 トレヴァーがいなくなってからアルフレッドは、にこりとわらった。

「そういえば、来月の頭に正式な御子の任命式があるそうだよ」

 フローラは無表情で言った。

「私にはもう関係のないことです」

「でもね、僕は任命式典にでなきゃいけないんだ」


「え?」

「だって、この地方の領主だからね。面倒だけど、仕方ない」

 アルフレッドはそう言って、熱いココアを一口飲んだ。

「そうですか……」

「うん。それで、トレヴァーとフローラにも来てもらおうと思ってるんだけど、大丈夫かな?」


 フローラはココアを飲んでから返答した。

「ご主人様の申しつけ通りにいたしますが……?」

「わかった。じゃあ、みんなで行こう。意地悪なレイスのすまし顔を見にね」

 意外にも楽しそうなアルフレッドを見て、フローラはため息をついた。

「レイスに見つからないようにしなければ……」

「気にすることないさ。君は僕の召使なんだから」

 フローラはレイスに因縁をつけられないように願った。


「ところで、火炎銃はしばらく開発をやめなくちゃいけなくなったから、今度は氷結の杖を作ろうと思うんだけど、フローラはどう思う?」

 目を輝かせて、アルフレッドがたずねてくる。

「……あまり、トレヴァー様を困らせることが無ければよいのではないでしょうか」

「うーん。模範解答だな。フローラは興味ない? なんでも凍らせる魔法の杖!」

 フローラは時計を見た。もう、日が変わりそうだ。


「アルフレッド様。今日はもうそろそろ寝ないと明日に差し支えます。ココアも冷めてしまいますよ?」

「わかったよ、フローラ」

 アルフレッドはそう言うと、残っていたココアを飲み干した。

「じゃあ、おやすみ。フローラ」

「おやすみなさいませ、アルフレッド様」


 フローラはココアの容器を片付けるためにキッチンに入ると、もう明日の食事の下ごしらえが終わっていた。

「トレヴァー様、さすがですね」

 フローラはカップを洗い、戸棚にしまうと自分の部屋に戻っていった。

「……レイスが御子になる……最初からそうしておけば問題もなかったのに……」


 冷え切ったベッドの中でフローラは神殿の生活を思い出し、小さく首を振った。


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