第15話

「おかえり、トレヴァー、フローラ。 朝の食事が早かったからお腹が空いたよ」

 アルフレッドはそう言って、屋敷に帰ってきたトレヴァーとフローラを出迎えた。

「お待たせして申し訳ありません。今から昼食を作りますが、その前にお茶をお出し致しましょうか?」

 アルフレッドはトレヴァーの言葉を聞いて目を輝かせた。

「それは良い考えだ! お茶菓子はなんだい?」

 アルフレッドの問いかけにトレヴァーが答える。


「ブールドネージュです。あとは昨日の残りですが、リンゴのパイもあります」

 トレヴァーの答えを聞いて、アルフレッドは嬉しそうに頷いた。

「トレヴァーのリンゴパイは絶品だからな。ブールドネージュは買ってきたのか?」

「はい、フローラが選びました」

 トレヴァーが答えると、フローラがお辞儀をした。


「ブールドネージュは食べ過ぎちゃうんだよなあ。だからトレヴァーは中々買ってきてくれないんだよ。白くてコロコロして、口の中でほろりと崩れる感触がクセになるよね」

 アルフレッドはそう言うと、フローラにウインクをした。

「それでは、お茶の準備をしましょう、フローラ。それが終わったら食事の準備をします」

「はい、トレヴァー様」

「私も手伝おうか?」


 アルフレッドが目をキラキラさせてトレヴァーに聞いた。

「結構です。仕事が増えますから」

 トレヴァーはにっこりと微笑んで、アルフレッドの協力を断った。

「アルフレッド様は処理しなければ困る書類がたまっているのでは無いですか?」

 トレヴァーの言葉を聞いて、アルフレッドは表情をこわばらせた。

「……何故、そう思うのかい?」


「図星ですね。往生際が悪いですよ?」

「……お茶の時間まで、大人しく仕事をするとしよう」

 アルフレッドは、しょんぼりとしたまま部屋に戻っていった。

「今日はアルフレッド様はお疲れのようですから、気分転換になるような香りの……そうですね、アールグレイの紅茶を用意しましょう」

 トレヴァーはそういった後にフローラにたずねた。


「お茶の入れ方は分かりますか?」

「はい、一応」

 フローラは少し自信なさげに頷いた。

「それでは、茶葉の場所を教えますから、調理室に行きましょう」

「はい」

 トレヴァーはは調理室に移動すると、紅茶棚を開け説明した。


「ここには古今東西から取り寄せた色々な茶葉が並んでいます。中にはスプーン一杯で金貨一枚という高級な茶葉もあります。茶葉は湿気が苦手ですから、使う際には気をつけて下さい」

 トレヴァーは、よく使う茶葉の特徴とそれぞれの入れ方をフローラに説明した。

 フローラはメモをとりながら、時々トレヴァーに説明を求めた。

 トレヴァーは説明が終わると最後に言った。

「分からないことは聞いて下さい。あと、紅茶についてもっと知りたければ、図書室に入って右側、二番目の棚に紅茶の本がいくつか置いてあります。それを読むと良いでしょう」


「ありがとうございます。トレヴァー様」

「では、アールグレイの紅茶を入れて下さい」

 フローラは紅茶用の棚からティーポットを取り出し、ティーカップを一つ取り出した。

「フローラ、紅茶は二杯用意して下さい」

「え? でも、アルフレッド様お一人ですよね?」


「食事の際に、一人では寂しいとおっしゃっていましたから。お茶の時間もフローラと一緒にすごしたがると思います」

 フローラはトレヴァーの指示に従って紅茶をポットに入れた。

 トレヴァーは紅茶の量を確認すると、最後にミルクを細長いグラスに注いだ。

「これで紅茶の準備は整いました。お菓子はこちらに用意しておきました」


 切り分けられたリンゴパイと、いくつかのブールドネージュの入った青い小皿、あんず模様の小皿が二枚、銀のトレーに乗せられていた。それをトレヴァーは右手で持った。

 紅茶のトレーはフローラが運んだ。

「それでは参りましょう」

 トレヴァーはアルフレッドの部屋に行くとドアをノックし、質問した。

「アルフレッド様、紅茶の用意はどちらに致しましょう」

「そうだね、今日は天気が良いから中庭でいただこう」

「承りました」


 トレヴァーとフローラは中庭のテーブルにお茶とお菓子を置いた。

「もう準備が出来てるかな?」

 屋敷の中からアルフレッドが出てきた。

「はい、紅茶が冷めないうちにどうぞ」

「ありがとう、トレヴァー、フローラ」

 トレヴァーが礼をして去ろうとしたので、フローラはトレヴァーの後を追いかけようとした。


「ちょっと待って、フローラ。一人にするつもり?」

「え?」

 フローラは振り返った。

「さあ、私の前に座って。一緒におしゃべりをしよう」

 フローラはトレヴァーの目を見た。トレヴァーは何も言わず目を閉じ頷いた。

「それでは、ご一緒させて頂きます」

 フローラはアルフレッドの前の椅子に座った。


 アルフレッドは嬉しそうにフローラを見つめた。

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