第16話

「神殿での暮らしはどうだった?」

 アルフレッドは紅茶を飲みながら、笑みをたたえてフローラに尋ねた。

「皆さん良くしてくださいました」

 フローラが言うと、アルフレッドは笑った。

「心にもないことを言うんだね。ずいぶんいじめられていただろう?」

 フローラは無表情のまま、本当のことを言った。

「そうですね。食事に砂を入れられたり、小さな部屋に閉じ込められたり、散々でした」

 それを聞いたアルフレッドはふう、とため息をついた。

「それで、フローラはどうしたかったんだい?」

「家へも帰れませんし、行く当てもありませんから、受け流すしかないと思っていました」


 アルフレッドはつまらなそうに首をかしげて、机の上に置かれたブールドネージュを一つ、自分の口に放り込んだ。

「ちゃんと、自分の気持ちも言えるね。ここでは、わざわざ模範解答みたいなことを言う必要はないよ」

 アルフレッドはブールドネージュをもう一つ、つまんで言った。

「フローラ、君もよかったら食べないかい? 君が選んだお菓子なんだろう?」


 フローラはすこし躊躇してから、ブールドネージュに手を伸ばした。

「……甘くて、おいしいです」

「よかった」

 アルフレッドはもう一度笑みを浮かべてから言った。

「それで、フローラには魔法道具の実験をお願いしたいんだけど、手伝ってくれる?」

「……はい、喜んで」


 フローラは口の端だけあげて微笑んだ。

「うーん。いやなら無理にとは言わないけれど……もうちょっとワクワクして欲しいな」

「ワクワク? ですか?」

 フローラは困ったという表情を浮かべたまま、紅茶を一口飲んだ。

「今、僕は火炎銃を作っているところなんだ。自分で撃ってみたけど、思ったより威力が弱くてね。僕の魔力じゃ、ちいさな炎をだすのが精いっぱいみたいだ」

 アルフレッドは口をとがらせて言った。フローラは、その子供っぽいしぐさを見て頬が緩んだ。


「そういう顔もできるんだね、フローラ」

「……」

 アルフレッドは付け加えるように言った。

「今晩、火炎銃の試験を手伝ってほしい」

「……お役に立つかはわかりませんが……承りました」

 フローラの答えを聞いて、アルフレッドはにんまりと笑った。

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