第14話

「おはようございます、フローラ」

「……おはようございます、トレヴァー様」

「そろそろ準備を始めて頂けますか? 良い品は早く売れてしまいますので」

「はい、すぐに準備します」


 フローラは急いで外出の用意をすると、部屋を出た。

「お待たせ致しました。トレヴァー様」

「それでは参りましょう」

 トレヴァーに大きなかごを渡されたフローラは、それを両手で持った。

「さあ、急ぎましょう。市場が始まってしまいます」


「はい」

 先を歩くトレヴァーに遅れないよう、フローラは急ぎ足で追いかけた。

 町に入り、市場に着く頃には、フローラの息はあがっていた。

「大丈夫ですか? フローラ」

「はい、大丈夫です」


「では、買い物をしましょう」

 トレヴァーは最初に野菜と果物を見に行った。

「これと、これ……そうですね、今日のお薦めは?」

「あれ? そちらのお嬢さんは?」

 市場のおじさんが、フローラを見てトレヴァーに訊ねた。


「ああ、新しいメイドです」

「よろしくお願いします」

 フローラが頭を下げると、おじさんはにっこりと笑った。

「ああ、よろしくな。じゃ、お近づきのお祝いに、リンゴ一個おまけしてやる」

「ありがとうございます」


 トレヴァーは果物や野菜を買い終えると、今度は肉と魚を買いに行った。

「ここは海も近いですから、良い魚も買えるんですよ」

「そうですか」

 フローラは銅貨を使うのも、市場で品物を見て買い物をするのも初めてだったのでドキドキしていた。


「フローラ、あまりキョロキョロしていると迷子になりますよ?」

「はい! ごめんなさい、トレヴァー様」

 トレヴァーは野菜や果物、肉や魚を買い終えると、今度は町のパン屋とチーズ屋に向かった。

「いつものパンを三つずつお願いします」


「はいよ」

 パン屋のおばさんは、白いパンと茶色いパンを袋に入れてトレヴァーに渡した。 

「あら? 雑穀の入ったパンを買うのですか?」

 フローラはトレヴァーに尋ねた。

「はい。 アルフレッド様は雑穀のパンの方が美味しいと言われますので」

「そうですか。貴族なのに……珍しいですね」


 トレヴァーはフローラに説明した。

「お客様用に白いパンも用意しているんですよ」

「お客様がいらっしゃるんですか?」

「まあ、来ることは少ないですがね。それでは、こちらの荷物はフローラが持って下さい」

「はい」


 トレヴァーに渡されたかごは、フローラが思ったより重かった。

「それでは帰りましょうか」

「はい……」

 フローラの視線の先を見て、トレヴァーは笑った。

「お菓子が珍しいですか?」

「……!」 


 フローラは赤面した。

 フローラは今までお菓子は家で作るものだと思っていたから、お菓子屋さんのディスプレイに見入っていたのに気付いていなかった。

「そうですね……たまにはお菓子を買うのも良いでしょう。好きな物を選んで良いですよ、フローラ」

「それでは……この白くて小さなお菓子を……」


「ブールドネージュですね。これはアルフレッド様もお好きだと思います」

 トレヴァーはお店に入ると、銅貨五枚分のお菓子を買った。

「今日のおやつに添えましょう」

「ありがとうございます」


 トレヴァーは買ったばかりのお菓子を、フローラのかごにそっと入れた。

「それでは帰りましょうか」

「はい」

 フローラは初めての市場に興奮しながら帰路についた。

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