第13話

「ごちそうさまでした」

 アルフレッドが言うと、トレヴァーが訊ねた。

「お口に合いましたか?」

「ああ。いつも通り美味しかったよ。それに、ハーブティーも悪くなかった」

 アルフレッドはフローラにウインクをした。


「それでは、部屋に戻るよ」

「はい、アルフレッド様」

 トレヴァーは笑顔でアルフレッドを食堂から送り出した。

「おやすみなさいませ。アルフレッド様」

 フローラもぎこちない笑顔でアルフレッドに言った。

「フローラ、夜中の散歩に行くなら声をかけてくれ。僕は見えない場所に色々な罠を作っているからね」


 フローラの顔が引きつった。

「罠、ですか?」

「そう。罠」

 アルフレッドは楽しそうに笑っている。

「大した罠ではありません。ご心配しなくても大丈夫ですよ」

 トレヴァーは不安そうな表情のフローラに、微笑んで言った。


「ウサギや鳥、時々は狼や鹿がかかることもありますが……」

 トレヴァーの説明を聞いてフローラの顔は青ざめた。

「狼がでるんですか?」

「はい。時々ですが……」

 トレヴァーの答えに、アルフレッドが言葉を挟んだ。


「うん。だから、罠を仕掛けてあるんだ。でも、狼の肉は余り美味しくない」

「食べるんですか!? 狼を!?」

 フローラは思わず大きな声を出した。

「まあ、狼は肉より毛皮や牙の方が嬉しいんだけどね。じゃあ、そろそろ部屋に帰るよ」

 アルフレッドが食堂を出て行った後、トレヴァーの指示を受けながらフローラは食事の片付けを始めた。


「ここの食事は、貴族らしくないでしょう?」

 食器を洗いながら、トレヴァーがフローラに言った。

「……はい、そうですね。普通の貴族は食べきれないほどの食事を用意して、少し食べたら捨ててしまいますからね」

 フローラは自宅の食事を思い出し、ため息をついた。

「アルフレッド様は、それでは食材がもったいないと言って、農民の食事を真似するようにと私に命じられました。まだ、アルフレッド様が少年のころでした」

「まあ、ずいぶん賢明なお子様だったのですね」


「ええ。父上を早くに亡くし、変わり者の祖父に育てられた所為か、本と空想が好きな可愛らしい少年でした」

 トレヴァーは昔のアルフレッドを思い出したのか、優しい表情をしていた。

「……いまでは悪魔などと呼ばれておりますが、アルフレッド様はやさしい方です」

「……存じております」

 フローラの答えにトレヴァーは何も言わず頷いた。


「ところでフローラ。明日は町の朝市に買い物に出かけます。早起きして下さい」

「朝市ですか? ……分かりました」

 フローラは知り合いに会わないかを考えて、すこし憂鬱になった。

「大丈夫です。髪を結わえて帽子をかぶれば、意外と気付かれないと思いますよ」

「トレヴァー様は他人の心が読めるのですか!?」

 驚くフローラにトレヴァーは言った。


「そんな魔法のような力はもっておりません。ですが、貴方は自分で思っているよりも、表情や態度に気持ちが表れていますよ? フローラ」

 フローラはなんだか恥ずかしい気持ちになって、目を伏せて俯いた。

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