第12話

「おまたせ致しました、夕食の準備がととのいました」

「ありがとう、トレヴァー、フローラ」

 アルフレッドは読みかけの本をサイドテーブルに置くと、食堂に移動した。


「本日はウサギ肉をつかったシチューとハーブティーでございます」

 トレヴァーの説明のわきで、フローラが熱々のポトフとハーブティーをサーブした。

「ハーブティー? めずらしいな」

 フローラが言った。

「今日は森でレモングラスとミントを見つけたので、ハーブティにしてみました」

「ふうん。フローラは野草にも詳しいんだな」


 アルフレッドはフローラに向かって微笑んだ。

「アルフレッド様のお口に合うと良いんですが」

 フローラの言葉を聞いて、アルフレッドはハーブティーを一口飲んだ。

「うん、爽やかで美味しい」

「冷やしても美味しいと思いますよ」

 トレヴァーがパンとチーズを切り分けながら言った。


「それでは、食事にしよう。フローラ、席についてください」

「え? 私は使用人としてこのお屋敷に入ったのではないですか?」

 戸惑うフローラに、アルフレッドは言った。

「私は一人の食事に飽きているんです。トレヴァーは決して一緒に食べてくれないし」

 トレヴァーは姿勢を正したまま言った。

「私は執事として、アルフレッド様の食事をサポートしなくてはいけませんから」


「と、言うことらしい。トレヴァーは融通が利かない」

 アルフレッドは口を尖らせて言った。

「フローラ、ウサギを捕まえた話や初めて捌いた感想を教えてくれないか?」

「アルフレッド様、あまり趣味の良い話だとは思えませんが……」

 トレヴァーがアルフレッドにそう言うと、アルフレッドは笑って言葉を続けた。

「いいじゃないか。フローラがどんな風に感じて、どんな風に考えているのかを知りたいんだ」


「ウサギを捌くのは……可哀想だと思いました、最初は。でも、調理していく内に美味しそうだと思うようになりました」

「うん、自然な反応だね」

 アルフレッドは楽しそうにフローラの言葉を聞いてから、シチューを一口食べた。

「美味しい。でも明日のほうがもっと美味しくなりそうだね。まだ肉も野菜もしっかりしてる。シチューは、とろとろに煮込まれているほうが、僕は好きだな」

 フローラはアルフレッドの前の席について、料理が並ぶのを待った。


「……では、遠慮無くいただきます」

「はい」

 トレヴァーのサーブは美しいと思うほど、余分な動きがなかった。

 よそわれたポトフとパンがとても美味しかったので、フローラはにっこりと笑った。

「いい顔だ。フローラはもっと人生を楽しんだ方が良い」

「……アルフレッド様……」


「まあ、命を奪って僕らは生きているんだけどね」

 そう言って、アルフレッドはウサギ肉を囓った。

 フローラは微妙な表情でそれを眺めている。

「明日からは、トレヴァーに家事を教えて貰うと良い。あとは僕の実験に付き合って欲しいな」

「……はい」

 フローラはアルフレッドの『実験』という言葉に一抹の不安を感じながら、食事を続けた。

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