第11話

 トレヴァーはフローラを、空いているメイド部屋に案内した。

「貴方の部屋はこちらです、フローラ」

「まあ、こんなに広い部屋で良いのですか?」

「この屋敷に住んでいるのは主人と私だけでしたから。部屋は余っているのです」

「分かりました、ありがとうございます。トレヴァー様」


「トレヴァーで結構です。フローラ」

「分かりました」

 フローラは持っていた荷物を部屋の中に置いた。

 部屋には既に家具が据えられて有った。棚や机やベッドは、時代を感じさせるデザインだが掃除が行き届いている。

 

「ところでフローラは鳥とウサギのどちらが好きですか?」

「私はウサギが好きですが……? ふわふわしていて、可愛らしいし……」

「では、今晩の食材はウサギに致しましょう」

 そう言うとトレヴァーは玄関脇の物置部屋から銃を二丁持ってきた。

「はい、フローラ」

 トレヴァーは笑顔でフローラに銃を渡した。


「え?」

 フローラが困惑していると、トレヴァーは裏口から屋敷を出て森に向かった。

 フローラも慌てて、トレヴァーを追いかける。

「ウサギは素早くて音にも敏感ですから、注意深く狙って下さい」

「!?」

 フローラは『ウサギが好き』という意味を取り違えていたことにやっと気付いた。


 フローラが困っていると、トレヴァーがウサギを見つけ、銃で仕留めた。

「大きなウサギが捕れました。さあ、屋敷に帰って調理しましょう」

「……はい」

 フローラはトレヴァーから渡されたウサギを両手でもち、トレヴァーと共に屋敷に戻った。

「ただいま戻りました。アルフレッド様」

「お帰り、トレヴァー、フローラ。うん、良いウサギが捕れたね」


「……これを食べるのですか?」

 フローラはちいさな声でトレヴァーに聞いた。

「そうですよ。野生のウサギは少し肉が固いですが、美味しいですよ」

「……はい」


「それでは、また夕食の準備が整いましたらアルフレッド様にお声をおかけ致します」

 トレヴァーはそう言うとアルフレッドに軽く礼をして、キッチンに向かった。

「フローラもトレヴァーに料理を教えて貰うと良い」

「はい」

 フローラも軽くアルフレッドにお辞儀をしてトレヴァーの後を追った。


 しばらくして、キッチンからフローラの悲鳴が聞こえた。

「きゃあ!!」

「生き物を食べるというのはこういうことです」

 トレヴァーとフローラのやりとりを、アルフレッドはこっそりと聞いていた。

「くくっ。やはり、生き物を捌くのは初めてだったのですね」

 アルフレッドはキッチンの外で、楽しそうに笑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る