第10話

 フローラは馬車の中で、アルフレッドにたずねた。

「どうして、私を宮殿から引き取ったのですか?」

「ん? 一目惚れだよ」

 フローラはそれを聞いて、腑に落ちないという表情をした。

 アルフレッドは楽しそうに笑った後、付け加えるように言った。

「君の魔力の強さに、興味があってね」

「……ああ、そういうことなら……納得がいきます」


 フローラは、自分が実験の対象になったかも知れないことが分かり、緊張した。

「ああ、大丈夫。君にとって悪いようにはしないよ。ちょっと執事のトレヴァーの手伝いをして貰って、後は自由に過ごして貰えれば良い。」

 フローラはその言葉を聞いて静かに頷いた。

「後は、たまに僕の研究の手伝いを頼むかも知れないけどね」

「研究ですか? 何の?」

 フローラが訊ねると、アルフレッドは嬉しそうに答えた。


「魔法道具の開発だよ。これからは誰でも魔法が使えるようにね」

「え?」

 アルフレッドは遠くを見ながら言った。

「魔法を限られた人たちだけの物にしていたら、これからも教会や神子の問題が出てくるだろうし」

「……アルフレッド様……」


 フローラはアルフレッドの横顔を見ていた。

 彫刻のように美しいその顔に、憂いの色が浮かんでいる。

「まあ、僕の趣味につきあわせるだけだけどね」

 アルフレッドは笑ってフローラを見つめた。

 そのダークグレーの瞳に、自分が映っていることをフローラはなんだか不思議な気持ちで見つめていた。


「何? 僕に見とれているの?」

 アルフレッドが首をかしげて、フローラに問いかける。

「……はい」

 フローラがそう答えると、アルフレッドは嬉しそうに笑った。

「やっぱり、君は面白い」


 馬車がアルフレッドの屋敷に着いた。

「さあ、これからは君もこの屋敷の住人だ。よろしくね、フローラ」

「よろしくお願いします、アルフレッド様」

 アルフレッドとフローラが馬車を降りると、トレヴァーが出迎えた。

「お帰りなさいませ、アルフレッド様。いらっしゃいませ。フローラ様」


「これからはフローラと呼んで下さい、トレヴァー様」

 フローラの言葉に、トレヴァーは頷いた。

「それではフローラ、荷物を部屋に運びましょう」

 トレヴァーがフローラの荷物に手を伸ばすと、フローラは自分で鞄を持ちあげた。

「自分で運べます」

「それでは、フローラを彼女の部屋に案内します。よろしいですか? アルフレッド様」


 アルフレッドは笑顔で頷いた。

「頼むよ、トレヴァー」

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