ランプ置き

『ランプ置き』

「“ランプ置き”を知っているかい? ダンジョンの中にほんのりともる小さな灯りを」

 商人はしわだらけの手をさすりながら焚き火で温まっていた。夜は更け、気を抜けば飢えた獣が襲ってくる森の入り口。彼の隣には別の男がいた。

「見たことはある」

生傷なまきずえぬ冒険者はいた麦粥むぎがゆすすった。

「うちの爺様じいさまが“ランプ置き”だったのさ。誰にも見られやしないってのに、まあ張り切ってよ」

「ランプを置いて回るのか?」

「そうさぁ。何でも一番初めにダンジョンを歩く探検家について行ってポツポツと安全な場所に置いて行くんだと」

「地味な仕事だ」

「仕事なんてみんなそうじゃないかい? あんたも……」

商人は白髪しらがおおわれた眉の下から冒険者の若さに見合わぬ静かで鋭い瞳を見上げた。

「あまり金稼ぎに執着しゅうちゃくがなさそうだし」

「ただの金欠だ」

「いやぁいやぁ、昨今さっこんこんなオンボロのジジイに飯をいてくれる奴なんぞ奇特きとくだよ」

男は先ほど己が包帯を巻いた右足を辛そうにさする商人をちらりと見やり器を傾けた。

「一人飯がつまらんだけだ」

「本当に、お前さんはよぉ」


 商人はここでよいとつじで別れを告げた。

達者たっしゃでなぁ」

冒険者は小さくなる背を見送ってきびすを返した。

 しばらく進めば遺跡の口が開いている。その入り口にポツリと置かれた、魔法のあかりのなんと小さいこと。

男はランプの前でひざまずき右手を胸に添えた。

「今度ランプ置きの仕事を手伝ってみるか」

冒険者は薄っすら笑ってダンジョンの扉をくぐっていった。

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【掌編集】王の庭 ふろたん/月海 香 @Furotan

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