第4話 新聞配達

「ディア、イブ。

 実は、小学校の頃から新聞配達をしています。雨が降ると新聞が濡れてしまうことがあり、何かと気を使います。興味がないかもしれないけど、少し配達する時の得意技を紹介します。僕は原付バイクで配達しています。(中学までは自転車でした)所謂、原チャリです。


 縦に二つに折った百部位の本紙(A新聞のことです)を原チャリの後ろの荷台にチュウブで縛り、その他の経済紙やスポーツ紙なんかは前の取り付け籠に、横に二つ折りにして入れます。


 走りながら、右手でアクセル(分からんかったら誰かに聞いて)でスピードを調節しポストに近づき、左手で後ろの荷台の新聞一部を摘まみだし、その真ん中辺りを掴み、膝を使いながら四つ折りにしてポストに差し込みます。それができないポストやポストのないお宅では原チャリを止めなくてはなりません。


 今は朝刊の配達だけをしてますが、小学校の頃は夕刊を配達していました。

 体より大きい自転車に横乗りをして坂道の多い区域で配達をしてました。


 天気のいい日に高い所、例えば学校の屋上などから生駒の山の方を眺めて下さい。市内から伸びている近鉄線のレールが山すそ辺りから左にカーブを描いているのが見えると思います。そのレールが曲がり始めた所から視線を少し右に移した場所辺りから、山の上へ上へと続いている人家が途切れている辺りまでを配達していました。

 おかげで、中学生に成った頃には野球部員の中で誰一人、うさぎ跳びで僕に勝つ者がいないほどの脚力が付きました。興味のない話しだったらごめんなさい。


 梅雨が開けたら直ぐに夏休みだね。お互い部活があるから遊んでばかりいれないけど、何か予定はありますか。


 以前は奈良の吉野にある母の実家や、額田の実父の実家にに遊びに行ってましたが、それも、小学校の頃までのことで最近では遠くに出かけることは余りありません。

 あ、忘れてた。映画を観に布施(イブの守備範囲かな)に何度か行くと思います。 映画は好きです。小さい頃は、よく、母と二人で布施にある映画館に焼き芋なんかを入れた紙袋を持って行ってました。

 実は、永和駅から徒歩で五分ぐらいの所にある保育園に三才から六才までの三年間通っていました。当時のことは殆ど覚えていないけど、何処かで、イブと出逢っていたかもしれないね。

                                アダムより」


 イブへの手紙を書き終えてから、昔の記憶が蘇ってきた。

 あんなこと、こんなこと。親戚と疎遠になったのにはそれなりの理由があった。

 母が再婚した今の父親らしき人と、奈良の吉野の叔父さんとのギクシャクした関係。毎夏、僕を待っていてくれたお爺ちゃんとの死別。いつの間にか、僕の行動範囲は狭まり、生まれ育ったこの街と電車通学をしている学校辺りだけになっていた。

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