第3話 家族のこと 2
三通目の手紙が届いた。
開封前にイブの写真を机の引き出しから取り出す。
制服を着た彼女の上半身が写っている。箸の端が口もとにあてがわれている。頬っぺたが少し膨らんで見えるのは、口の中に食べた物が残っているからかもしれない。
手紙を読みながら、写真に視線を移すと妙な気分になってくる。なんとなくその顔から声が聞こえてくるのだ。勿論、それは僕の妄想で、実際、聞こえてくる筈もないのだが。
「ディア、イブ。
野球は小学校の低学年からやっています。六年の時はソフトボールでしたが、子供会のチームの市内の大会で優勝したことがあります。
弟が一人。妹が二人。そして、まだ性別の分からない赤ちゃんが母親のお腹の中にいます。驚いた、かな。弟は九才下です。
まだ文通を始めたばかりだけど少し家庭の事情を説明します。母は僕が七才の時に再婚しました。弟や妹はその後に生まれました。
イブは知っていますか、オムツの当て方が男と女で違うこと。この年齢で育児に詳しくなってしまいました。未来の僕のお嫁さんはきっと楽ができると思います。
子供は歩き始めた頃が一番可愛いと思っています。そう云う僕もまだ子供の中に含まれているのだろううけど。
【目の中に入れても痛くない】云う言葉を聞く事がありますが、まさに、その通りです。でも、飽きることを知らないので困ることもあります。一度気に入ると何度も同じことをせがんで来るのです。
イブはどうですか、子供は好きですか。雨が降ってきました。雨の日は嫌です、新聞が濡れるので。部活もグランドではなく、校舎の階段を駆け上がったり降りたり、飽きてしまいます。雨に濡れて体調を崩したりしないように気を付けて下さい。
あ、忘れてた、何故か巨人ファンです。 アダムより」
雨は上がったけど、アダムの手紙は濡れたせいか宛名の文字が少し滲んでいる。
雨の日と生理の時は髪も心も不機嫌になる。返事を書くにも少し気おくれしてしまう。
やっと上がった。ぬべぬべした気分から開放された梅雨の晴れ間。遅くなったけど返事を書くことにする。その前にアダムの今回の手紙を読み返す。やっぱり驚かされる。弟一人に妹が二人。それに性別不明の新たな命。
「ディア、アダム。
子供はどちらかと云うと苦手かな。親戚の小さい子は思いがけないことするので手に負えないことがあります。いつだったか急に飛びついてきて『オッパイ、オッパイ』と言いながら胸を触ったりします。思考回路の理解に苦しみます。
でも、驚きました。年の離れた弟妹ともう一人。前にも少し話したと思うけど、二段ベッドの上に陣取っている妹は所謂トラブルメーカーで、何かと手を焼くことが多いです。
悪口になるから余り言いたくありませんが、遅刻しそうになると私のせいにして『なんで起こしてくれへんかったん』と喚き散らかします。『早う起きな遅刻するで』て、何度も声をかけてるのに。
ところで、少し気になったことがあるんやけど、新聞が濡れるのが嫌と言ってたよね。どういうこと。今日は晴れています。久しぶり。早く、梅雨があけるといいね。
イブより」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます