第2話 家族のこと 1

「ディア、イブ。

 お元気ですか。暖かくなってきたせいか、それとも、この文通のお陰なのか毎日を楽しく過ごしています。

 やっぱり、坊主頭は気になりますか。イブが思っているように僕も少しは変だと思います。中学の三年間は決まり事だと思い気にもせずに従っていましたが、今、又、野球部に入ることでそれを強いられることには抵抗もあります。

 でも、楽なことは楽で、長髪の同級生のように櫛やブラシであれこれ手を加えることもありません。通学時は制帽を被ってるし、近くのS女子学園の生徒の視線も気になりません。


 ところで、僕は電車で通ってますが、イブの場合は学校が近くにあるから歩いて行っているのかな。何となく、そう思ったんだけど。今日はこのへんで、

返事が爽やかな風と共に届くことを待っています。

                                アダムより」


「お姉ちゃん、なんか知らんけど、手紙来てたで。ほら」

「あんたな、すぐ、なんでも投げるのやめてんか」

「投げてへん。放って置いてんねん」

「もうえぇ、下に行き」


 アダムからの二通目の手紙が届いた。

 最初の手紙には驚かされた。でも、読み込んでいくと、悪戯ではないと感じた。「新なページ」に何か冒険でも始めるような気分になった。

 ペンネームは直ぐに思いついた。女子校と云ってもミッション系でもない市立高校だ。最初は「ロミオとジュリエット」が浮かんだけど悲劇の結末より禁断の果実を食べる方を選んだ。


 アダムの学校と私の学校との距離は私鉄で四駅分。互いの自宅は八駅ぐらいだと思う。そんなに遠く離れている訳でもない。春、開けてはいけない箱の蓋に手を掛けてしまったのかもしれない。

 一度背伸びをしてから、机の前に座り返事を書き始める。


「ディア、アダム。

 中間試験が終わりました。そちらはどうですか。今はまだ、中学の時の続きのような感じですが、これからは難しくなっていくと思います。


 ところで、自転車で通学しています。アダムが失望してしまうかもしれませんが、風の強い日にはスカートの下に体操着の短パンを履いています。

 写真に写っていた時より少し伸びた髪は後ろで束ねています。好きですかポニーテール。そこまでは伸びていません。

 実際、男子ってポニーテールとかお嬢様スタイルが好きですよね。バスケって動きが激しいから髪が長いと気にかかり、練習の邪魔になります。

 

 私は中学の時からバスケ部ですが、アダムはいつから野球をしていましたか。

 我が家では、男は父だけなので余りテレビで野球を見ることはありません。やはり、阪神ファンですか。


 えっと、妹のことは話してたかな。一つ下で中三です。何かと口喧嘩が絶えません。私の服や物を勝手に使って使いっぱなし。叱ると、「どうせ、お古はうちに回ってくるからええやん」と、当り前の顔をするのです。

 アダムの兄弟姉妹のことも、良かったら教えてください。少し長くなりました、かな。返事が来る頃には梅雨入りしているかもね。では、また。

                                 イブより」

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