第16話/少年たち

 ギルドの中にある食堂にはカークと一人の兵士がいた。椅子に座って本を読むカークと傍らに立つ兵士の組み合わせは、王城から直帰した見栄えする衣装に身を包んだカークがとある貴族の子弟のように見えてとても目立っている。

「おい、カークがなんかすげぇことなってんな」

「そういや、預けることにした先生って、兵舎じゃなくて城に住んでるんだった」

「ひえ……」

「カーク、その衣装はどうしたんだ?」

「あ、おかえり!」

 カークは椅子から飛び降りるとジャックに飛びつくように抱きつく。

「チャクラム、カークのことありがとうな。カーク、お礼を言いなさい」

「チャックさん、ありがとう。でもね、事情があるんだ。座って座って」

 いつの間に愛称で呼ぶことにしたんだー? などと揶揄からかいながらジャックはアレクサンドロスと席につく。

「チャクラムは?」

「へへ。俺は護衛任務なんだ」

 おお。と感嘆の声が出る。チャクラムは就職するまでジャックと同じく兵舎併設の訓練所で訓練していた同志だ。

「こっちはアレクサンドロス。俺の相方だ」

「よろしく。で、カーク。なんでそんなすげぇふくきてんだ?」

「兄さんが留守の日は先生のところでお世話になることになったでしょ? 先生はお城に住んでいるから、きちんとした服を着なさいって渡されたの。次は下働きのローブを用意してくれるって言っていたよ。なんかね。弟子入りすることになった」

「へ? 弟子入り?」

「読み書き、計算、刺繍。想定よりも上等の腕前なんだって! 褒められた!」

 輝かしい笑顔を浮かべるカークの頭を撫でる。


「刺繍? 弟子入りに?」

「できるならできた方がよろしいってさ」

「んんん。先生が刺繍ってのが引っかかるんだが」

「先生はできないよ」

「何でお前はできるんだよ?」

「小遣い稼ぎに良いんだ」

「実は、兵舎でカークの名前刺繍は重宝されているんだ」

 チャクラムは制服の裾をめくる。緑色の制服には黄色い糸で所属とチャクラムの名前が刺繍されていた。

「洗濯してごっちゃになるから、所属と名前を刺繍することにしたんだ。字を読めなくても所属と自分の名前は覚えているから」

 チャクラムはニッと笑う。

「話は変わるけど」

「おおお? いや、え? うん。なんだ?」

「うちの前に不審者がいて、兵舎で事情聴取が終わるまでギルドにいるように指示されてるんだ」

「カーク。そういうことは早く言いなさい」

 事情があるって言った。と、ぼやくカークの頭をチャクラムは撫でてなだめた。

「じじょちょうしゅって?」

「どういうことがあったか、何がしたいかを尋ねることかな」

 アレクサンドロスに向けて、カークはかなりざっくりとした説明をする。

「目的が判明するまでこのままお前たちの護衛だ」

「俺も対象なんだ?」

「冒険者になろうが、お前は9歳なんだよ。兵士の俺にとっては庇護対象さ。新人の俺は安全安心の冒険者ギルドでの護衛だけどな」

「なんだよ。締まらないな」

「先輩方にとっちゃ、13の俺だって庇護対象なのさ」

「未成年だものね」

「それでも鍛えているからな! 6歳の子供を抱えて逃げるくらいはできるとも!」

「ギルドの皆さんは微笑ましく見ているよ」

「カークー!」

 カークの旋毛つむじをチャクラムはグリグリと押す。子供特有の高い笑い声が響いた。

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