第15話/5段冒険者 フラン
ジャックとアレクサンドロスがギルドの荷下ろし場所に着くと、他の冒険者は浮かれ騒いでいた。ギルド職員もどこか楽しげである。
「みなさん、何だか楽しそうですね」
「ああ、『
「銀輪旅団って?」
「知らないか? 通称で銀輪なんだが、そっちも聞かないか? そうか……。段持ち冒険者しか所属できない冒険者グループの名前さ。所属人数は千から二千って聞いてる。普段はパーティで行動しているが、高難度の討伐依頼が出ると一丸となって挑むんだよ。3年前には頂点の7段パーティが3つに6段が5つ、5段が10も集まって城ほどでかいドラゴンを討伐したんだぜ」
「どっかでドラゴンが倒されたってのはうっすら覚えてる。本当にいるんだ。って」
職員はハハ、と大きな口を開けて笑う。
「ま、子供じゃあそんなもんか。遠い国の事だが、皆が口を揃えて銀輪を称えたものだぜ」
「そのフランって人もさんかしたんか?」
「フランは当時4段だったからな。参加資格がなかったんだよ」
「え? 兄ちゃん、知り合いなんだ」
「ああ、冒険者とギルド職員って立場は違うが、同い年の同じ名前。話題がつきなくってな。新人でも担当やってたんだ」
「へぇ。じゃあ、お兄さんと同い年なんだ。年って聞いてもいい? フランさんって15までに初段になれた? 俺、学園都市の推薦受験狙ってんだ」
「はぁあ!? ソレ狙ってんの!?」
「え? ジャック、ほんきで言ってんの?」
ジャックはムッと顔をしかめる。
「駄目か? 俺はまだ9歳だし、字も読めるし、技能も取る気満々だぞ」
「9歳……それなら、確かにいけるか? フランが冒険者になったのは15だからな。年齢的に無理」
「へー。15」
「んー。ただ、王都にいては無理だろうなぁ。7級から4級までなら街中の仕事で上がれるし、技能試験は受けやすいから食ってはいけるけど、初段に昇るためには魔物の討伐や希少価値の薬草や鉱石を納品する必要が出てくる。そのためには辺境に行かないといけない」
「そうか。辺境……ねぇ、国境は辺境?」
「まぁ、辺境には近いが。栄えている場所でもあるな」
「そっか。ありがとう」
4級に上がったらカークを連れて兄の家に行こうと、ジャックは皮算用した。
「フラン!」
フランと呼ぶ声に、フランは振り向いて笑った。
「よぉ、フラン。今、この子たちにお前の事を話してたんだ」
職員のフランは久しぶりに帰って来た友人、5段冒険者のフランを二人に紹介する。
「さっき話した5段冒険者のフランだ。フラン、この子たちはこの間冒険者になった7級だよ。赤毛がジャックで茶髪がアレクサンドロス」
「アレクサンドロスて、すごい名だな」
ジャックはフランを見て驚く。
フランは紅い髪に青い目、両頬から顎に繋がる豊かなヒゲの持ち主だった。そして、何よりも立派な筋肉。高い身長。ヒゲを剃りさえすれば、ジャックの理想を体現する青年だ。
「しらんひととまちがえることはないんだぜ。いいだろ?」
「「それは良いな」」
「フランさん、フランさん! 不躾なことを聞くんですけど、その立派な筋肉! どうやって鍛えたんですか? 食べると良いものとかありますか? 魔物退治をしてればつくってものではありませんよね? そんなだったら他の冒険者だってつくじゃんね!? 俺も朝晩は剣の素振りとか走りこみとかはやってるんすけど、さっぱり違いがわかんなくて
「ジャック」
アレクサンドロスはジャックの口を塞いだ。
「おちつけ」
ジャックはコクリと頷く。
「すみません」
職員のフランは静まる場を笑い飛ばす。
「人気者だなぁ? フラン。みんな見てるぜ」
そう。フランがやってきてから、職員も冒険者も依頼人もフランに釘付けで彼のことを語らっていた。
「で? 鍛え方は?」
「地道に武器の素振りと走りこみ、しっかり調べてからの万全な体勢で互角か少し格上の魔物退治を行うこと。あと、食べ物は好き嫌いせずにいろいろ食べることだ」
「良い事言った。特に好き嫌いせずに食べるってのは大事だから忘れんなよ、少年」
二人は顔を見合わせる。
「ありがとうございます。質を落とすか迷ってた食事もちょっと考え直します」
「ほんとに危ないところだった!」
「食わなきゃ大きくなれないし、筋肉もつかねぇからちゃんと食えよ」
「お答えいただき、ありがとうございました」
「いいってことよ。さて、コイツ借りてもいいか?」
「はい。納品は完了しているので」
「じゃあな」
二人のフランは連れ立って去っていく。ジャックはアレクサンドロスに向き合った。
「と、いうことで。明日からは買い食いから弁当に変えるか」
「そうだな」
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