第14話/ひげ面の男

 カークは終業後、父の墓掃除をしてから教会に寄る。

「こんにちは、助祭様」

「こんにちは。今日も墓掃除かい?」

「はい。掃除道具ありがとうございました」

 助祭は夕暮れ時になるとフラリと墓場の方へとやってくる、不思議な方だった。

「休日になったら、講堂においで。良い物を教えてあげよう」

「良い物?」

 助祭はクックッと喉を鳴らして笑う。

「良い物。何かはひ・み・つ! 楽しみにしておいで」

「えぇ……。ありがとう、ございます」

「さっ! 寄り道せずに帰るんだよ!」

「はい!」

 互いに会釈して立ち去る。本堂で祈りを告げたカークは一目散に家路へと走った。


 近所の奥様方に声をかけられながら家に向かうと、三番隊の六人に呼び止められた。

「カーク、待ちなさい」

 三番隊は一塊となり、何かを警戒していた。三番隊のトム隊長は手招きすると声を潜めて語る。

「お前の家に不審者がいるんだ。家に帰っていなくて良かった。私たちが職務質問してくるから、チャックとここで待っていなさい」

 新人のチャックは敬礼するとカークの肩に手を置く。

「チャック。カークくらいは抱えて走れるな? 不審者が暴れ出したら警笛を吹く。応援を呼びに走りなさい」

 チャックはしっかりと頷いた。


 五人は家の前にいるひげ面の男に誰何すいかする。

「見知らぬ男が家の前に居座っていると通報があった。お前は誰で、何故ここにいる?」

「俺はフラン。この家の主、イヴァンの弟だ。冒険者で諸国を回っていたんだが、今日帰ってきたんだ。怪しい者じゃねぇよ。兄貴は兵士をやってるって聞いてるからあんたらも知ってるだろ? 詰め所に行ってもいいぜ」

 フランはニカッと笑って冒険者の証明タグを見せる。証明タグは銀板に朱銀の縁取りがされており、フランの名前とブラードン城下町支部の名が掘られていた。

「銀板……。段クラスなのか」

 三番隊は態度を軟化させた。冒険者の級クラスと違い、段クラスは技能や気質も査定に入る。初段以上の冒険者の扱いは信用が段違いなのだ。

「それでは、詰め所に来てもらえるか?」

「ああ、分かった」


 三番隊の四人と男が家から離れていき、トム隊長が近づいてくる。

「カーク。フランと言う名に聞き覚えは?」

「え? 十二番隊のフランさんと、表通りの宿で常連客の旅商人フランさんと、八百屋のフランさんと

「もういい」

「ジャックもそろそろ戻ってくる時間だろう。チャックと冒険者ギルドに行って三人で待っていなさい。安全が確保されたら人をやるからそれまでギルドにいるんだ。いいね?」

「はい、分かりました」

「承知しました」

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