第13話/弟子入り(仮)
カークは弟子用の部屋に案内されると、紙切れを渡された。
「明かりの呪文だ。照明はこれを使いなさい。夕食までに灯せなければ私に言いなさい」
「はい、先生」
じっくりと紙切れを読む。次第に首が傾いていった。
「先生、文字の下にある記号は何ですか?」
「ああ、それが
魔法字のフリガナだったらしい。
「なるほど。それで意味の分からない言い回しだったのですね」
カークはぼんやりと、長い呪文はイントネーションや息継ぎの場所に気をつかいそうだと思う。
「棒読みでも発動するものですか?」
「いいや、しない。一つ言えることは、どういうことをするかを意識しながら唱えることだ」
「分かりました」
頷くと、部屋の天井に目を向け……奥行きが分からないため、手許に懐中電灯を点すように想像しながら、いくつものバリエーションを使って呪文を呟く。
「点いた!」
「ほぅ。魔力はあるようだな。これなら弟子入りも可能だろう」
「魔力。ですか?」
小説などでしばしば出る言葉だが、今回は魔力のことなど微塵にも考えていなかった。先生の言葉からは、魔力を持たない人もいるようだ。
「ああ、魔力がなければ呪文を唱えようが発動はしない」
「発動しなければどうするつもりだったのか、お尋ねしてもよろしいですか?」
「呪文を教えるのを省いただろうな。魔法字を教えれば、魔法字での補佐をできるだろうし」
「えぇ……。スペルと……呪文は別、なのですか?」
「いいや、魔力がなければどちらも作用しない。魔力を持たない騎士に魔法字のマントを着せたところで、ただの布きれだ」
「魔力を持たない者に魔法字を書かせても、魔力を持つ者なら魔法字を発動させることができる?」
「その通り」
「その魔力は一体どこから来ているのですか?」
「身の内だ。魔力の測定は道具でできるから、手配しておこう」
「この紙、兄に見せても?」
「それは駄目だ。魔法の伝道師として免許を持つ者しか魔法を教えることは違法なのだ」
それなら仕方ないか。
「だから、教えた呪文も私のいないところで使えば違法なので、使わないように」
「先生……そういうことは紙切れを渡す前に言ってください」
「それはそれとして」
ヘンリーはさらりと流した。
「魔法字を書きながら読んでいなさい。一文字書いたら消すこと。発動しかねないからね」
砂の入った箱と棒、本を渡される。カークは部屋にある机の上を照らす照明と天井と壁の縁に沿った間接照明を想像しながら呪文を唱える。
机に常備されていた書見台に本を設置すると表紙をめくった。
ヘンリーはカークの照明を見て関心する。小さめの部屋とはいえ、部屋の隅々までを照らし出し、机の上で作業するには丁度良い強めの照明。更には直接目に入るような角度ではないので邪魔にならない。
自分の部屋に目を向ける。一部が暗く、一部が煌々と光り、重なった部分など眩しくて仕方がない。
「むぅ」
カークの照明を参考に、照明魔法を組み替えた。均一に照らされた室内に満足そうに頷くと、ソファに身を預け、本を読み出したのだ。
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