第12話/ステータス・カード

 アレクサンドロスの引っ越しでジャックは一泊するからと、カークは兵舎に預けられていた。

「カーク、今日は家に来い」

 ヘンリー先生とクルト隊長がやってきて、ヘンリー先生は意気揚々とカークの鞄を持った。クルト隊長を見上げる。

魔法字スペルを教えてくれるそうだ。こんな機会はそうそうないからな、行ってきなさい」

「スペル! いいの? 先生。教えてくれるの?」

「とっとと覚えて、仕事を手伝え」

「うん!」

「行くぞ」

「待った! カークの身分証明書ステータス・カードを作るのが先です!」

「ステータス・カード?」

「先生は城に住んでいるからね。入城するためには身分証明書がいるんだよ」

 クルト隊長は必要事項を記入すると、カークに手渡した。

「これが、身分証明書の原稿。名前、生まれ年と月、性別、カークの身分はこの兵舎に所属する兵士見習いにしといたからね。家の番地……自分の家は説明できるか?」

「できます」

 カークは身分証明書を読む。後見人としてクルト隊長とヘンリー先生。パトリックと書かれていた。

「この、パトリックという方は?」

「様をつけろ。パトリック様だ」

 ヘンリー先生が敬称で呼んだことに目を丸くする二人。

「お貴族様ですか」

 しかし、家名がない。

「カークのことを話したら、快く署名してくださった。引き合わせることはできんが、手紙をしたためろ」

「わかり、ました。でも、いいんですか? 知らない人を後見しても」

「パトリック様が良いと言うなら良いのだろう」

「それで? ヘンリー先生はいつからカークを城に上げることを決めていたのですか?」

「イヴァンが死んでからだ」

 カークは先生を見上げる。

「儂は、養子に迎えることも念頭においとる。考えとけ」

 クルト隊長は先生からカークに目を移すと、そっと肩を叩いて手続きに行った。



 ステータス・カードを城門の兵士に渡して入城許可を貰うと、ヘンリー先生について行く。

「儂は軍の所属だが、魔法軍医として城の中に部屋と研究室を賜っている。部屋には従者や弟子用の部屋もついているから、そこを使うように」

「はい、先生」


 奥へ奥へと進み、階段を登る途中で先生が立ち止まる。

「ヘンリー。その子は?」

 上階から降りてきたのか、踊り場には赤みがかった金髪の少年とお仕着せを着た大人が4人いた。

「カーク! 礼を取りなさい!」

 さっとカークは上官への礼を取る。

「違う違う。王族の礼だ。あぁあ、教えてない……。申し訳ございません、殿下」

 殿下、との言葉にカークは肩を震わせた。しかし、王族への礼なんて知らないのだ。チラチラとヘンリーを見ながら修正していく。

 左胸に、右手を当てる。指を揃える。お辞儀をする。

「教えてないなら仕方ない。楽になさい」

「カーク、頭を上げてよろしい」

 上段にいる彼を見上げる。

「スコット王孫殿下。この者は先の王位継承権争いで父を失い、兵舎で雑用を始めたカークです。私の雑用も任せるに足るかを試すために城へ入れました」

「そうか。カークよ。精進するが良い」

 カークは言葉を賜り、深々と礼をとるものの、貴族相手の礼の取り方で良いのか不安になった。同時に、恐ろしいことを思い出して冷や汗が流れる。


 王家には、家名がないのだ。

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