第10話/前世の経験

 困惑するジャックの前で、カークは打ちひしがれていた。

 前世の経験が邪魔をする。二人にとって、初めてのことだった。


 カークは高校卒業して社会に出た三十代。高校時代は剣道や柔道を体育の授業で取り組んだ。

 裸足な上に室内でやる武道と違い、二人がいるのは庭の中。

 持っているのは子供用とはいえ木剣だ。竹刀よりも数段重く、太く、しならない。

 それによって何が起こるかと言うと。


 小学校の運動会で[昔、運動が得意だった]お父さんのように、張り切って頑張って、自爆したのである。


 まず、すり足によって足をくじいた。庭の小石やでっぱり、ちょっとした窪みに足をとられた。大事をとって二日は軽い運動に止める。家の片付けも拭き掃除などに専念させた。

 次に、走り込みで頭からこけた。小学生がランドセルを背負って通学するのは頭の比重が高く、頭から倒れやすいからという。走り方から指導された。

 そして、木剣がすっぽ抜けて鎧戸を突き破った。

「体の使い方から始めような」

「うん……」


 翌日、ジャックが帰ってくると鎧戸は修繕されて、壊れた鎧戸以外も新しく塗り直されていた。

「家具屋のおじさんに端材をもらって直しといたよ」

「こういうことはできんだな」

「まあ、前世では何でも屋みたいなフリーランサーだったから」

「へぇ。そういや、どんな仕事してたかは聞いたことなかったな」

「いろいろやってたからね」

「いろいろ」

「うん」

「例えば?」

「神社とお寺の手伝いとか、送迎バスに、農園の手伝いと、動物の世話、結婚式場の給仕・調理補助、大工の人足、家具の修繕、電気工事なども請け負う個人商店の経営」

「うん、もういい」

「で、大事な伝言があるんだ」

「伝言?」

「グレイ武具店からお使いが来て、できたってさ」

「っしゃあ!」

 待ちに待った、自分の武具である。


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