第9話/夜の座談会

 夕食時、肩を並べて料理しながら二人は今日の出来事を話す。

「えっ! ヘンリー先生って、スパダリじゃないの!?」

「ちげぇよ! 何でヘンリー先生なんだよ。スパダリになれるのはイケメン限定なんだよ!」

「えぇ……。ハイスペック高給取りなのに?」

「あらぬ方向に突き抜けた人物をスパダリとは言いたくない。……なぁ、お前の言うスパダリって、具体的にはどういうことを言ってんだ?」

「いろんなことができて」

「うん」

「高収入で」

「そうだな」

「面倒見がよくて」

「ああ」

「みんなに好かれる老若男女」

「ダーリン要素どこいった」

「最愛なる人でしょう?」

「そうなのか!?」

「敬愛を集める老騎士とか魔女とか賢者とか」

「そういうジャンルじゃないか?」

「名だたる名工とか一目おかれるクルト隊長とか」

「クルト隊長は分かるぞ! 若くてイケメンで槍の達人で事務仕事もスマートにこなして」

「ね?」

「そもそもスパダリは女性向けの恋愛小説の相手役で『とってもすごい、理想の男性』として使われるんだよ」

「え」

「クルト隊長はモテ男だからアリとして、ヘンリー先生はない。高給取りでも話についていけない上に他人の話を聞かないから敬遠されてるらしいぞ」

「え」

「言っちゃなんだが、顔も、な」

「ん?」

 カークをじっくりと観察する。父親譲りの金髪にエメラルドグリーンの瞳、祖母に似たという引く手数多だった姉と瓜二つの顔立ち。はっきり言って美形だ。そこら辺は心配ない。

「早めに戦闘技能を鍛えるべきかな」

 母親譲りの紅髪に茶色い瞳の姉より、危ない変質者に狙われそうだった。

「俺たち兄弟はそのまま成長すればいい線行くだろう。クルト隊長みたいな格好いい大人目指そうぜ」

「うん」


 話題は冒険者活動に移る。

「そっかぁ。村から徒歩で」

「もうちょっと活動時間を増やしたいから、王都の安宿を見てもらってる」

「安宿?」

「そりゃ、しっかりした宿のがいいだろけどさ」

「何言ってるの? 宿代って馬鹿にならないんだよ?」

「そうは言っても、6時間しか活動できないんだぞ」

うちには空き部屋がいっぱいあるじゃない!」

「しまった!」

 城下町で商店街に近いのに王城にも近い。庭付き一戸建て。クローズ式の台所には作り付けの棚が備わり、食堂があって、食料庫もついている。庶民には珍しく風呂もおついていて、応接間も完備だ。主寝室は広々として中々にお高そうな家具が置かれて、他に寝室が4カ所。それぞれに暖炉がついていて書斎まであり、リビングルームのソファはふっかふかだ。

「月に金貨1枚なだけあるよな」

「宿だったら一日で金貨10枚のクォリティだよね」

 カークは裏がありそうだと推察する。この家がこの立地で平民が住めるはずがない。

「そっか。寝室も空いてるし、こっちに移ってもらおうか」

「んー。家を片付けてからでもいい? さすがにさ、お父さんの部屋に入って欲しくない」

 ジャックは主寝室の方向を見上げる。

「他の寝室も、片付けるか」

 カークが幼児時代に亡くなった兄姉の遺品も触らせるのは嫌だった。どの転生者も5歳の誕生日に記憶が戻る。6歳のカークにとって兄弟はジャックだけなのだ。

「じゃ、明日は朝から整理だな」

「分かった。それじゃあ、早めに寝よっか」

「日の出からは戦闘訓練するからお前も来い」

「え」

「俺が数日間留守にしていたら誘拐されたら目も当てられない……」

「あぁ、子供が一人だと物騒だものね」

「本人がこれだものなぁ」

 カークの反応にジャックはますます心配が募った。母と次兄は誘拐されかけた姉を助けようとして殺された。姉は見つかっていない。

「あ」

 国境砦に配属された長男に父の訃報を伝えることを忘れていたと思い出した。

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