第8話/成り上がりを決意したけど、どうすればいいのだろう?

 7級冒険者のジャック。冒険者ギルドの依頼掲示板から見て反対側の壁際でぼんやりと考え込む。

 冒険者になって成り上がる。言うのは簡単だ。

 昨夜のカークの言葉。『将来の夢』『どんな人物になりたいか』『今だから目指せるもの』。

 前世では無料で読める小説サイトでを好んで読んでいたジャックは、漠然とした『成り上がり』を夢見た。

 カークの【】は驚いたが、少しは考えて発言しているのだ。一昨日まで不抜けていたのに。

 二人は寝るまでも少し話していたが、『6歳の今から20年くらいかけて、いろんな事をできるようになれば十分』だとか、『とりあえず、8歳で一角ひとかどの下働きになって、9歳で見習い兵士になれないか交渉を始めながら戦闘技能を磨いて、10歳で兵站へいたんとか事務系の仕事を手伝い始めて、12歳くらいで戦闘技能試験を受けるつもり』という何とも長々とした計画を語っていた。

 成人せずに死んだジャックにとって、20年は途方もない時間だ。そんな計画なんて立てられそうになかった。特に、個人の腕前が物を言う冒険者稼業なのだし。

「うん。まあ、15までに初段。それは目標だよな」

 自分に言い聞かせ、頷く。それは5年で叶える目標であって、『将来の夢』ではない。

「どんな冒険者になりたいか……」

 じっくりと、ギルド内にいる冒険者を見ていく。

 とりあえず、不潔なのはナシだ。絶対にイヤ。耐えられない。すると、美容だとか服装も気をつけないといけないからお金がかかる。もっと稼ぎを大きくしないといけない。

 ガナリたてて他の冒険者を威嚇したり喧嘩する。あんな大人もイヤ。カークが一角の人間になるなら、負けたくない。自分も一角の人間になる。礼儀作法も少し、覚えてみようかな……。

 などなど、反面教師を見繕いながら、『どんな人物になりたいか』を想像していく。

【かっこよくて、感じがよくて、みんなに一目おかれて、いっぱいお金を稼いで、とっても強い人物!】

 エメラルドのように鮮やかな瞳を一際輝かせ、ジャックは笑みを浮かべる。

 脳裏にうつる将来の自分は艶のある紅い髪に精悍な顔立ち、武具店に並んでいた高級武具を身につけた大人。兵士の格好を冒険者の格好に変えた父の姿を想像する。

「技能試験!」

 一目おかれるためにも技能試験を受けようと決意し、受付のお兄さんに話しかけた。


 掲示板もまばらになって、ギルドは閑散としている。技能試験の内容や冒険者としてやっていくためのアレコレを受付のお兄さん――バーノンさん――に尋ねていると声をかけられた。

「おはようジャック。今日は何する?」

「遅いっ! 今まで何してたんだよ! 依頼掲示板にもお仕事ないぞ!」

 そう、ジャックはずっと、アレクサンドロスを待っていたのだ。

「そうはいっても、家からここにくるだけでもけっこうかかるんだぞ。オレはオウトじゃなくて、ちかくの村からきてんだかんな」

「えぇっ! 村から来ているのですか? 徒歩、ですよね?」

「おう! あさにでていまだ」

「大人でも2時間はかかるのに、よくやってきましたね」

「もっとほめてもいいんだぞ!」

「2時間……」

 前世では都市部の発達した交通環境、今世では城下町と、とても恵まれた環境にしか覚えのないジャックにとって2時間歩き詰めは途方もないことだ。どれだけの距離があるのか想像すらつかない。

「帰りも2時間だから、暗くなる3時間前にはギルドにいなきゃだろ? え? 6時間? 6時間で仕事をこなせって?」

 そんなペースでは7級の町中で簡単な仕事ならともかく、外に出るような仕事は無理だとすぐに思いつく。簡単な仕事も6時間ではさほど金にならない。まして、移動の時間を考えると……。

「アレクサンドロス、ちょっと、王都で住めるところを探さない?」

「金がねぇ……」

「あぁ……」

「ギルドでも安宿を斡旋することはできますよ。見てみますか?」

「しごとしてからでもいいか?」

「そう、ですね。稼ぎを見てから考えましょう」


 とりあえず、いくつかの仕事をして、銀3枚を分け合い解散した。

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