第7話/転生したのでスパダリ目指す

 正式な雑用係となることが決まり、墓地の掃除をしてからジャックと別れたカークは城門から少し行ったところにある兵舎へと着いた。

「来たか!」

 兵舎の門前で待っていたのは父の上司である隊長……ではなく、衛生室の魔法軍医だった。

「おはようございます、ヘンリー先生」

 治癒魔法と外科手術、薬学も修めたすごい人。それがヘンリー先生。御年56歳、独身、面倒見が良い。つまり、目指すスパダリである。

「しばらくは儂が面倒を見ることにした」

「そうなのですか? よろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げるカークに、ヘンリー先生はニマァと笑みを深め、頷く。

「ウム。よろしい。では、着いて参れ!」

 先生はバサァと魔法字スペル刺繍の入ったマントを翻し、兵舎へドスドスと入っていく。門番の兵士に挨拶をしながら、小走りで従う。


 衛生室でヘンリーは紙片を手渡す。

「今日は傷薬の軟膏を作る。必要な材料がこれだ。取って来なさい」

 大まかに材料リストを見て、質問をする。

「先生、このリストに量が書かれておりませんが、どの程度必要となりますか?」

「むぅ……量か」

 紙片にサラサラと追記した。

「はい、承りました」

 衛生室の倉庫に入り、すぐに戻る。

「椅子をお借りします」

 棚に手が届かなかったのだ。


 調合器具と薬草類をテーブルの上に並べる。下拵えを命じられたので浅鍋で湯を沸かし始めた。

 今回使う薬草にコマキレ草があり、この草はそのままでは苦くて辛くてえぐいので湯がいて灰汁を取るのだ。

 湯がいて水を切り、麻布で一枚ずつ包む。丁寧に水を取らなければ余分な水分で薬効が落ちてしまう。

 乾燥魔茸を水で戻して桂皮はおろし金で削り、容器を煮沸消毒したら清潔な綿布で拭き取る。

 その頃にはコマキレ草から良い感じに水分が取れていたので5mm間隔で小口切りにする。

「先生、終わりました」

「う、む。そうか」

 確認して、問題ないと告げる。嬉しそうに微笑むカークに居心地悪そうに顔を背けた。

「後はクルト隊長の許へ行きなさい」

「はい、かしこまりました」


 クルト隊長は怒っていた。

「今まで何をしていた」

「え。ヘンリー先生の許で軟膏の下拵えをしておりました」

「ヘンリー先生?」

「はい。しばらくはヘンリー先生が僕の面倒を……見るの、ですよね?」

「その様な話は一切されていない」

 これでは無断欠勤である。

「次からは始めに私の許へ来なさい」

「かしこまりました」


 とりあえず、ヘンリー先生はハイスペックだが、スパダリではないのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る