第17話 長い1日

それから数ヶ月が過ぎ――――



春。4月。高校2年生。





「優奈ちゃん、もう少しで1年になるね〜」


オーナーが言った。



「はい。色々ありましたが、皆さんやお客様のお陰でバイトも続けられて借金も減って万々歳です。彼氏ゲットも夢じゃないかもーー♪」


「あー、無理、無理!」




全否定する奴、雪渡だ。



「出たよ!椎野雪渡!あんたに言われるとイラッとするんですけど!?」




振り返る私。



「真実を言ったまでの事だけど?戸西優奈さん」



イタズラっぽく笑う雪渡。




「勝手に無理って決めるの辞めてもらいますぅ〜?」

「じゃあ自信はあるのかよ!」

「あ、あります!可愛くて人気者の私だから♪」



ムニュと私の両頬を摘む雪渡。



「優奈ーー、お前、鏡見てモノ言えよ!」



パッと離す雪渡。



「そういう自分は彼女とどうなわけ?去年のイブの女の人。実は雪渡の想い人?もしくは、心残りとかじゃなかったわけ?」


「そういう相手じゃねーし!」

「素直に認めなよ!」

「認める理由ねーし!」



私達は騒ぐ。




その日の夜―――




「雪渡、優奈ちゃん、またなー」と、啓一君。

「おう!またなー」

「お疲れ様」


「2人とも、お疲れ様ーー」と、琢巳くん。

「お疲れさん」

「お疲れ様」




「そういえばさ、俺達って、ある意味24時間一緒だよな?」


「24時間?えー、24時間じゃないよ。半日じゃない?」


「半日以上1日未満?」

「あーうん、そんな感じだよ」

「恋心とか普通生まれねー?」

「えっ?あんただけじゃない?」

「いやいや、俺もまず、生まれねーから」



「だったら言うなっつーの!でも…絶対ないっていうのも言い切れないよね?」


「えっ?」


「だって未来って分からないわけだし」

「まーな」




私達は色々と話をしながら閉店後の作業をする。




「あ〜〜〜終わった〜〜〜」

「お疲れさん」


「雪渡もお疲れ。ねえ、雪渡って、この後、真っ直ぐ帰る感じ?」


「いや」


「じゃあデート?」


「まさか!俺ん家、共働きだから適当に飯食って帰るか、寄り道して買って帰る。その日の気分によるかな?」


「そうなんだ」

「それじゃ、お先〜」


「あっ!ちょっと!女の子置いて帰るなっつーの!」


「やだねー。つーかさ、お前、令ニさんに迎えに来てもらえば良いじゃん!暗い夜道の女の子の一人歩きは危険がいっぱいじゃん!」



「えっ?」


「兄妹なんだろう?」


「そうだけど、わざわざ迎えに来てもらうのは流石に……」




そして、店を出てすぐの事だった。




「かーのじょ」



私の前に立ち塞がる。



「何ですか?」



グイッと肩を一人の男の人に抱き寄せられた。




「今から彼氏と夜のデート?」



私と雪渡の間にいる、もう一人の男の子の人が私を交互に見て尋ねた。



「彼氏?」

「えっ?違うの?」

「彼はバイト仲間ですけど」

「なーんだ。てっきり彼氏かと思った」

「じゃあ、俺達と遊びに行こう!」


「今から?いやいや、無理です!つー事で、失礼しまーす!それじゃ雪渡、お疲れーー」


「…あ、ああ…」




私は抱き寄せられた肩を払いのけ走り去り始める。



グイッとすぐに腕を掴まれた。




「良いじゃん!」

「真っ直ぐ帰るくらいなら遊びに行こうよ!」


「嫌です!私は真っ直ぐ帰りたいの!あんた達と遊ぶ暇ないから!」




私は振り解き走り去る。




「おいっ!追えっ!」

「りょーかーい」



二人は私の後を追った。



「出て早々、ふざけんなし…」


と、雪渡はポツリと呟く。




「女がそっちに逃げた!ツインテールの女子校生。可愛い系だ。すぐに分かる!」


「他に仲間にいんのかよ!タチ悪いな…」




私の携帯に着信が入る。




「単刀直入に言う!仲間がいるから、気をつけろ!それで、お前、今、何処!?周りの建物、目印になるやつ言えっ!」


「雪渡?」



私は伝え、電話を切ると、私はすぐに3人の男の人達に取り囲まれた。



声をかけた人達の仲間と思われる。



《雪渡が言った通りだ》



声を掛けてきた人達と違う顔触れがいた。




「残念でした!」




グイッと肩を抱き寄せられ3人の男の人達に引き摺られるように路地裏に連れて行かれた。




「………………」




「はい、御苦労さん」

「サンキュー」



私に声を掛けてきた二人が合流。



クイッと顎を掴まれた。



「これだけ可愛いんだし、さっきの男もバイト仲間とか言って彼氏なんだろう?」


「違います!」


「まあ違う所で彼氏はいんだろう?」


「そんな事、あなた達に…」


「初めてじゃないんだろうし」


「えっ!?」


私を掴んでいる体を軽々しく抱えると両手両足を押さえられた。


息のあった協力的な対応。


手慣れているのが分かった。




「や、やだ!離してっ!」



声を掛けてきた一人が股がり制服を鋭利の刃物で引き裂いた。



「へえー…今までの中で一番イケてんじゃねーの?」




《今までの中……?どういう…事…?もしかして……常習犯…?》



私を上から下まで舐め回すような視線で見つめる。




《や、やだ…》




「彼女にしたいランキング1位!」



そう言うと、顔を近付けてくる相手から顔をそらす。



「恥ずかしがらなくても良いじゃん!」


「誰も恥ず…っ…」




振り向いた瞬間唇を奪われた。


最悪だ。


こんな形で、ファーストキスを奪われるなんて……


そのまま、唇を割って入る熱があり首筋から鎖骨辺りまで唇が這い、私の太ももに大きい手が伸びると洋服の中に手が侵入してきた。



ビクッ



「…っ!」



「あれ…?えっ?もしかして…初めてな感じ?」

「うっそ!意っ外!」

「経験ありそうな雰囲気だったのに」

「人は見掛けによらないなぁ〜」

「じゃあ、優しくしてやるよ」



私は恐怖の中、私の身体を容赦なく触っていく。


両手両足が押さえられ自由に身動きが取れないのか辛い。



「何かそそる〜。時間のロスになるから前置きなしに一気にいこうっと!最初、痛いだけだから後で良くなるよ〜。彼女!」




次の瞬間――――`




「警察だーーーーっ!」



「ヤベッ!」

「マジかよ!」

「チッ!もう少しだったのに!」



散り散りに散るものの、5人は全員現行犯逮捕され連行された。


どうやら夜な夜な問題を起こしていたレイプ(強姦)の犯人だった事が分かった。


警察も頭を悩ませていたという。


それは手慣れてるはずだ。




「………………」



パサッと制服を羽織らせる雪渡。



ドキッ




「もしかしてもうヤっちゃった?…いや…ヤられたの間違いか…」



「………………」



「…遅いよ……バカ……」

「えっ…?」

「…私…」




涙が溢れる。




「…優奈…?何?もしかして…マジヤられた感じ?」


「…バカッ!」




私は帰り始める。




グイッと腕を掴まれ引き止められた。





「そんな格好で帰るなよ!今、令ニさんに迎え頼んだから」



「………………」



私は早くこの場を去りたかった。


正直、一人になりたい気分だった。



「帰りなよ…私は大丈夫だから…」


「…優奈…」



私は羽織らせた制服を返す素振りで脱ぎ始める。



フワリと背後から抱きしめられた。



ドキン…




「…ごめん……助けられなくて……」



優しくされると、もっと悲しく逆に辛い。




「…っく…」


「置いて帰れるわけねーだろ?」



振り返らせると、私の両頬を優しく包み込むように両手で触れる。



ドキッ



「…優奈…」



キスをされた。


ドキン




「…マジ…ごめん……」



切ない表情で、見つめ私を抱きしめる。




「優奈、雪渡、いるか?」



令ニさんが来て、抱きしめている体を離す雪渡。



「はい、すみません。令ニさん」

「いや別に構わん」

「優奈をお願いします。優奈、またな」

「雪渡、送るぞ!」


「いいえ…大丈夫です…。寄らないといけない所あるし」



雪渡は帰り始める。




「雪渡っ!」

「…悪かったな…優奈…」




雪渡は振り返る事なく帰って行った。




「………………」




《雪渡…気にしてるんだ…》



「……雪渡……」


「帰るぞ。優奈」




私は頷き帰る事にした。




















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