第16話 最悪のクリスマス・イブ

12月24日。


クリスマス・イブ



「ねえ」



一人の来客が私の前に現れ、カウンターの中にいる私に声をかけてくる。




《うわー。……美人な人……》




「はい?」

「椎野雪渡って…まだ…働いてる?」

「…はい…彼なら今、向こうで…呼びましょうか?」


「大丈夫。ここで待つから」

「…そうですか…?あ、飲み物、何にされますか?」


「大丈夫。構わなくて良いから」

「でも…大事なお客様ですから」





そこへ―――――




「優奈、烏龍茶のボトルもらえる?」

「あ、うん」


「雪渡、久しぶり」

「……憐佳(れんか)……」



《呼び捨て…?》




「ごめん…ちょっと近く迄来たから寄ったの」

「そうか」


「はい、雪渡、烏龍茶のボトル」

「ああ。サンキュー」


「ねえ、雪渡、後で会えない?話しがあるの。これ

私の連絡先」


「分かった。じゃあ後で連絡する」




二人は別れた。




「元カノ?今カノ?訳カノ?」


「優奈ちゃん…?どうかした?」


「あっ!オーナー。…いや……今…美人な人が雪渡の事を訪ねて…」


「気になるの?」


「違う意味で気になります」



「そう?本人に聞いてみたら?」

「聞いた所で、アイツは教えないですよ」

「そうかな?」

「そうですって。ちなみに、みんな彼女いるんですか?」



「プライベートに関しては、良く知らないから〜。案外、みんないないものだよ〜?」


「雪渡も言ってたなー。でも、みんなカッコイイから、いてもおかしくないし」


「優奈ちゃんなら誰を彼氏にしたい?」


「えっ?彼氏!?みんなの中でって事ですか?」


「うん」




「いや……多分…バイト仲間以上にはならないような…ていうより…考えた事ないです。まあ、その前に私、恋愛所じゃないですし……」


「今はね〜」




そして――――



「ではでは、お先にお疲れ様でーーす」



閉店後、早々と帰る啓一君。



「優奈ちゃん、令ニさん、お疲れ様です」


続いて琢巳君。




「今日は、みんなラブラブデートなのかな?」


「どうだろうな」と、令ニさん。



「雪渡は美人な女の人に連絡先、渡されてたし」


「令ニさんは、デートじゃないんですか?」


「そんな相手はいないから安心しろ」


「嘘だーー」


「お前こそ、どうなんだ?」


「いたら即効帰りますよ!まあ…まず、その前に恋愛所じゃないですけど…。現段階では…いつまで続くかな…?」


「しばらくは無理そうか?」


「しばらく所か、一生無理かもしれないです」


「一生はないだろう?」


「でも相手は見付からない限り、まず無理ですよね…」


「まあな」




みんな帰る中、令ニさんと私は片付けを済ませ帰る事にし、令ニさんに送ってもらう。





「ただいまーー」




ドサッと何かに躓(つまづ)き転ぶ私。




「ったーー」



電気をつける私。




「二人して布団も敷かないで…せめて布団くらい着なよ。全く!風邪…引……い…ちゃ…ぅ……」




バッ


テーブルの上にあるものが目に止まり手に取る。





『優奈へ』


『生きるのに疲れました。

先立つ不幸を、お許し下さい』




その、すぐ隣には




『12月24日付』


『借用書』


『一括請求』


『至急返金』


『100,0000』




とんでもない目の前の光景に、私は、一瞬にして頭が、真っ白になる。




「優奈、忘れ物」

「…令……ニ…さ…ん…。両親が…パパと…ママが…」

「えっ?すぐに救急車だ!」




令ニさんは、テキパキと動き、両親は病院へと搬送されれる。



待合室。


一足先に向かっていた、私は待合室に一人で待機中。




「優奈」

「令ニさん…すみません…」

「気にするな」


「でも、せっかくのイブなのに…ご迷惑…おかけして……。本当…私の両親…何考えてんだろう…?」




手術中の電気が消え、医師の先生が出てくる。




「あの!先生っ!両親は?」


「大丈夫です。すぐ目を覚ますでしょう?」


「…良かった…ありがとうございます」



私は深々と頭を下げ、お礼をいう。


両親は手術室から病室に移動した。



私は一旦、落ち着き緊張から解放されたかのように崩れ落ちそう倒れそうになる。




「優奈!!」

「すみません…大丈夫です…」



私は病室に行く。




そして―――




「あれ…助かって…」と、父親。


「助かって…じゃないよ!何してんの!?私をおいていかないでよ!」


「…優奈…」と、母親。


「ごめんな…お前に迷惑ばかりかけて…」と、父親。





「迷惑とか…そんなの…良いんだよっ!!私達、親子なんだよ!私の前から居なくなる事だけはしないでっ!もっと命を大切にしてよ!もう二度としないで!」



「…本当すまない…」


「とにかく…今はゆっくり休んで…」




一先ず私は病室を出た。



「…優奈…」


「令ニさん…ご迷惑してすみません…両親、目を覚ましました。後は大丈夫ですから…ありがとうございます」


「両親の退院は、すぐに無理だろう。取り敢えず着替え用意しないといけないんじゃないか?」


「…そうですね。でも、これ以上、令ニさんには御迷惑おかけする事…」


「…お前は、そう言うだろうと思ったよ。真実を知らないからな」


「…えっ!?…真実…?」


「兄妹である以上、もっと頼れ!優奈」


「えっ!?令ニさん…?…今…兄妹って言いました?」


「ああ、言ったが?まあ、信じないだろうが事実だ!」




「………………」




「…お兄ちゃん…?いやいや、令ニさん、こんな時に冗談辞めて下さいよーー。私に、こんなカッコイイお兄ちゃんがいるわけないじゃないですか〜。イブにちなんでクリスマスプレゼントですか?だとしたら、凄いサプライズプレゼントですよーー」



「区役所行って調べてみろ!」


「だって似ても似つかないですよ」


「まあ今は考えなくて良いが、慣れるのと理解するまでに時間掛かるだろうがな」




「………………」




意外な真実を聞かされた。


令ニさんが、私のお兄ちゃん?



「取り敢えず、着替えを取りに行くぞ」


「えっ?あっ!ちょ、ちょっと令ニさん?」





その後、両親は無事に退院をし、イブの日に見た借用書の借金は緊急だったのもあり令ニさんが支払いをしてくれた。



両親が運ばれた日に、令ニさんからまさかの真実を明かされ驚いたけど、令ニさんは、私の本当のお兄ちゃんだという事が明らかになった。






―――ある日のバイト終了後―――



「それでは先に失礼しまーーす。お疲れ様でーーす♪」


「優奈は、ヤケに浮かれモードだな?」


「あー、お客さんの一人とデートするとか〜?見た所、かなりカッコ良かったから〜」と、オーナー


「男!?デートっ!?」

「妬く?」

「いや…妬くも何も…ただ驚いただけだ」


「優奈ちゃん可愛いから〜、結構ファンいるんだよ〜」


「ああ、知ってる。どれだけの男が優奈の事を尋ねてくることか…」


「でも、優奈ちゃん、本当、可愛いよね〜」




「アイツは小さい頃から変わらない」


「で?実際の所どうなの?」


「優奈と俺は本当の兄妹だ」





意外な兄妹関係


似ても似つかない兄妹


でも……



真実は1つなのだから――――









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