第4話 私のバイト先

「椎野ーーっ!椎野 雪渡っ!」



ガラッと引き戸が開く。



「…はいざいま…す…ふぁ〜ぁぁ〜」



遅刻してくる挙げ句、大あくびの椎野君の姿。



「こらぁーっ!椎野っ!朝っぱらから弛(たる)んでるぞ!遅刻といい、大あくびとは、だらしないぞ!」


「学校来ないよりマシじゃん!」


「あのな〜“それ” と “これ”とは別だ」


「“それ” と “これ”って、“どれ” と “どれ”?」



「…もう良いっ!席につけ!」

「今、向かってますよ」



席につく、椎野君。




《学校とバイト中の椎野君とは違うキャラのような気がするのは気のせいじゃないよね》




そして、H.R が始まる中、



「ねえねえ」


夕美が、小声で先生の目を盗み話しかけてくる。



「何?今、H.R…」


「椎野君、夜のバイトしてるんだって」




ドキッ



「…そ、そうなんだ…」


「そこにはイケメン揃いで何か高校生だけの集まりの場所なんだって!出会い求めて行くも良し、遊びに行くのも良いという事で、一回、行ってみようよ」



「えっ?あー…」


「ほらっ!そこ!何を話してるっ!」


「す、すみません…」


「…ごめん…」




そして、その日の休み時間。




「ねえ、行こうよ!」


「あーうん…行きたいのは山々なんだけど、でも、私…バイト尽くしだから無理かな〜」


「一回くらい良いでしょう?」


「ごめんっ!」



両手を合わせ謝る。



「そういう訳にはいかなくて…私の現状況では、その一日が大事で貴重だから」


「そっか…」


「本当!マジでごめんね…夕美…」


「ううん、仕方がないよ」





その日の夜。


バイト中の事だった。



「優奈ちゃん」と、オーナー。


「はい?」


「コレとコレ…後、他にも沢山の買い物があるから、取り敢えず必要な物を一応、全部メモしてあるの全て買ってきてもらえるかな?」



「分かりました!」


「優奈ちゃん可愛いから、ボディーガードを連れて、一緒に行っておいで〜。一人じゃ、まず、無理だから」



「ボディーガード?」


「そっ!俺達みんなの看板娘で大事な女の子だからね〜」




ドキッ



「優奈、行くぞ!」

「は、はい」




私のボディーガードとして


王城 令ニ(おうぎ れいじ)さん。20歳。


と、一緒に出かけた。



彼は、クール。冷静沈着。何処か掴み所のないような…


20歳で、マスターなんて若いマスター。


オーナーの佑吏さんが父親なら令ニさんは母親。


逆の立場でも考えられる。


取り敢えず、私達はオーナーに頼まれた買い物を買い出しに出掛ける。




「このまま抜け駆けでもするか?」



ドキッ



「えっ…!?れ、令ニさん…私、クビになりますよ。て言うか、言う相手間違ってませんか?」


「お前も一人の女だろう?」


「そ、それはそうですけど…当分、私には恋愛している暇ないですし……一生出来ないかも…」


「借金あるからな」


「そ、そうですよ!」


「まあ…ホールに出れば出会いはあるかもしれないがな」


「いや…あった所で…多分…恋愛しなさそう」




ポンポンと頭をされ、微笑む令ニさん。



ドキッ



「優奈、ちなみに借金はいくらあるんだ?」


「えっ?」


「いや…それは…」

「話してみろ」


「…その時は1億5千万…」

「1億5千万…そうだったのか…」


「うん…父親の会社が倒産して…家含む他の家庭も借金がある所があるみたいで…」


「今、生活は大丈夫なのか?最初、聞こうと思ったが聞くのは辞めたが…」


「一応、私のバイト代で、月1〜月2回、母親に生活費を渡してあるから食費とか公共料金は支払ってあるみたいだし」


「優奈、何かあったら言え」

「えっ?」

「一人で抱え込むな」


「大丈夫ですよー」


「ならいいが…お前には幸せになってもらわなきゃならないからな」


「えっ?」


「女だから」


「既に大借金抱えている私には幸せも何もないですよ。令ニさん」




私達は買い物を済ませ帰るのだった。




―――― 次の日 ――――



「ねえねえ、優奈、昨日、一緒にいた男の人、誰!?もしかして、私に内緒で彼氏いたの!?」


「彼氏ぃぃぃっ!?」



「いつから!?私、聞いてないんだけど!」


「ま、待って!夕美、落ち着いて!一回、深呼吸しよう」



一回、深呼吸をさせる。




「それで?私が、男の人と一緒にいたって?」


「うん。昨日、超イケメンと街中にいる所を見掛けたの!」


「イケメン?」




私は記憶を辿る。



《…令ニさんといる時かな?》



当てはまるのは、それしかない。



「夕美、多分…それは…バイト先の人だと思うよ。バイト先の食材とか、飲料系の買い出しを頼まれたから」


「えっ!?だとしたら一緒にいた人、超イケメンじゃない?」


「あー、まあ、確かに」



《あそこは、夕美が行きたがっている所だからなー椎野君もいるし》



私は椎野君を見る。


すると、振り向く椎野君。




ドキッ

目が合ってしまい、目をそらす私。




「ねえ、どういうバイトしてるの?詳しく聞いてなかったんだけど」


「あー…サービス業かなー?」 


「サービス業?」


「うん、私も、まだ裏方だから洗い物とか、雑用メインで、そういうのしかしていなくて」


「そうなんだ」


「うん。研修中たし、私もまだ表に出た事ないから。そのうち出れる事になれば、夕美に声かけるよ」


「そうか。分かった」




 







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