第3話 看板娘

「まさかの雑用だけで…日給…10万…。そんなに貰って良いのだろうか…?」



土、日、祝日は、休み。


春、夏、冬休みの期間中も休み。


本来なら学校が休みの時がバイトというのがツールだけど、ここは、どうやら違うようだ。


学校の休みは全て休みとなるシステムになっているらしい。



PM5時〜PM9時。


極力、残業は避けたい。


夜8時がオーダーストップ。


夜9時までには閉店出来るように店全体で、お客様には御理解して協力頂いているようだ。


本当、高校生だけの集まりで、同世代が恋人を見付けたり男女の友達だったり同性の友達作ったり色々な出会いの場のようだ。


私はまだ裏方だから雑用で掃除だったり洗い物だったりだから、表=店内のホールの事は、まだ分からないけど……


他のイケメンバイトスタッフという言い方が一番

合っているであろう。


みんなは大人の世界で一言で言うならホスト役みたいな感じの様だ。


場を盛り上げたり、恋のキューピッド役したり様々な人間模様の中心的な存在なのだろうと思う。


ちなみに女子は私一人でイケメン囲まれハーレム状態とはいえ、正直淋しい。



「優奈ちゃん、今日、残業になりそうだけど、お願い出来るかな?」



オーナー事。


阿須間 佑吏(あずま ゆうし)さん。25歳。


王子様のような雰囲気で、優しいお兄さんみたいな感じだ。




「あ、はい。私でよければ。家に連絡しておきます」




その日のバイト中。




「可愛い〜♪」


「えっ?」



歩み寄る二人の男の子。



「こんな可愛い子、裏方のバイトにいたんだ!」


「ねえねえ、バイト中断して、こっそり出掛けない?」


「えっ?すみません…それは出来ませんので失礼します!」




グイッと肩を抱き寄せられた。



「何?何?良いじゃん!」

「そうそう。堅い事、言わないでさ~」

「本当に駄目なんです!他当たって下さいっ!」




抵抗する私をしつこく口説く二人の男の人達。




「や、辞めて下さいっ!」


「あのーー、すみませーーん」



私達の所に訪れる人影。



「あ?何だよ!」

「そいつ、可愛いのは認めるけど性格悪いですよーー」




振り返ると、椎野 雪渡(つちや ゆきと)君がいた。



彼は、私と同じ学校であり、まさかの同じクラスの男の子だ。


カッコイイのは認めるけど、性格は私に似ていて、どちらかというと犬猿の仲だ。


優しい所もあるんだけど、正直、本当の性格などは全く把握していない。


とにかく言い合っているのは、しょっちゅうで、多分、一番ありのままの自分を出している相手ではないだろうか?




「性格悪くても関係ないし、だって可愛いし」



そう言うと相手は私の顔をのぞき込むように屈(かが)む。



「そうそう」

「それに1つの出会い場所だろ?別に良くね?」

「第一、ここは、出会いの場所だろ?」


「そうですが、まだ彼女は来て間もないので、やたらとちょっかいを出すの辞めてもらって良いですか?」



「別に良いじゃん!」


「あんたから伝えておいてよ!一人の女の子をお客さんが連れて行きましたって。そんぐらい可能だろ?」


「だって、ここは、そういう所なんだからさ、お客の事を優先に意見を対応すべきだろ?」


「そういう事。対応出来ねーなら、こういう出会いの場所の店作るなっつー話だろっ!?つー事で、宜しくーー!行こう、行こう!」



私の手を掴まれた。



「ちょ、ちょっと!離…」



そういうと同時に、掴まれた手が離されたかと思うと、私と彼等の間に割って入る人影。



「何だよ!」


「やんのか?」




そして、更に、もう1つの人影が割って入って来た。




「すみませ〜ん。お客様。彼女は大事な看板娘で、まだ見習い中でして、何かあったら困るんですよ〜」



《オーナー?》




「ホールに出ているスタッフなら多少の許可は出来なくないのですが、彼女はまだ裏方なので、バイト中の外出は一切禁止というこちらのお店の規則となっております」



「別に良いじゃん!」


「店長に話つけてよ!」



「私が、ここの経・営・者のオーナーですが?」



笑顔を見せてるものの、オーナーの目は笑っていない。




「…えっ…!?」


「マジ…!?」



「はい、オーナーである私と直接、掛け合っている状況ですよ?お・客・様」


「下手すれば、今すぐここで、マスターの俺の一言でオーナーから更に今後一切、お店の立ち入り禁止を命じられる事になるが良いのか?」


「えっ!?」




視線の先には……



《うわっ…!…令ニさん…》



「す、す、すみません!」

「し、し、失礼しましたっ!」



二人は逃げるように走り去った。




「………………」



《…恐るべし…》




「本当、困った客だよね?」と、オーナー。


「もしかして、お客様にも、こういう事あったんじゃないんですか?」


椎野君が言った。






「有り得るかもな」と、令ニさん。



「あ、ありがとうございます!しつこくて困ってたんです!助かりました!」


「良かったなーー。拉致られなくて。看板娘さん」


椎野君が言った。



「看板娘って…名前、きちんとあるんだけど?」


「今日から改名すれば?看板娘って」


「ちょっと!椎野君っ!」



 クスクス笑うオーナー。



「ちょ、ちょっと!オーナー笑わないで下さいよ!」


「看板娘って感じじゃねーけど。イメージ的に」


「わ、悪かったな!看板娘の感じじゃなくて!」



ワァーワァー、騒ぐ椎野君と私にやれやれ始まったと言わんばかりにオーナーは両手をあげ、令ニさんと去って行くのだった。



「まあ、今は、お前しか女はいねーしな」



微かに微笑む椎野君。


ドキン…

胸の奥が小さくノックした。



「えっ…?」


「看板娘にならざるを得ないってやつ?まあ、可愛いから良いんじゃね?」 




ドキッ




“可愛い”


サラッと言われ胸が大きく跳ねた。




バイトでも言い慣れてるのもあるだろうけど……


流石に同級生で


ただのバイト仲間から言われるのは


私でも恋愛感情が出てくる可能性のある台詞だ。


自分の感情がおかしくなりそうだけど……



「ほら!手が止まってっぞ!看板娘さん。仕事、仕事」


「えっ…?あ、うん…」



椎野君は店内に入って行った。










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