第46話 閑話 姉はストーカーしてでも、妹のファーストキスが見たい!

私はクラウディア・ハインツェル、辺境伯の長女だ。



最近、エルが私を避けている。それも婚約者の王子と一緒に。何故だ? あの二人をずうーっと見守っていたのに。ファーストキスの場面だけは絶対に見逃したくない。

この前はあまりに興奮してちょっと転移場所がエルに近すぎたのだ。次は100メートルくらい離れたところに転移しようと心に誓っているのだが、いつも守れたためしがないのだが・・・・。




6歳の時に、初めて、生まれたエルヴィーラを見た瞬間、私はそこに天使がいると思った。

兄弟は私の2つ上には生意気な兄がいたが、それと違ってこの妹はなんと可愛いことだろうか。


私は妹の世話するのに夢中になった。


なにしろ、私を見るとエルは微笑んでくれるし、あやすと笑ってくれるのだ。何かと口煩い兄となんと違うことだろう。



笑えたことに、日頃は仏頂面の兄が、私達が見ていない時に


「ほうら、お兄ちゃんだぞ」

と言って笑いながらエルを高く放り投げているのを見て度肝を抜かれた。


普通はそんな事をされたら泣き出すはずなのに、あろうことか、エルはキャッキャ言って笑っているのだ。


でもそんな事は許されるはずもなく、私の後ろに怒髪天して立っていた母に思いっきリしばかれていた。


「だってエルが笑ってくれたから」

兄の言い訳はたんこぶをもう一つ増やしただけだった。




私はこの天使の妹を守らねばと思い、エルが生まれてから精一杯魔術を使える訓練をした。


何しろ南には血も涙もない蛮族ゲフマンがいるのだ。



こいつらは平民の男は皆殺しにして、女と見ると犯そうとするどうしようもない蛮族だそうだ。


そんな奴らに私の大切なエルを近づけるわけにはいかない。


私はエルを守るために、ゲフマンを退治することにした。


しかし、文官達は私と兄に限界線を決めて、それ以上攻めてはいけないと決めてしまったのだ。超えたらペナルティ、それもエルに会えなくするというのだ。


なんて悪魔なんだ。



一度兄が越えてしまって、10日間エルに会わしてもらえずに、泣いていた。


それ以来私たちはその訳の分かんないルールを守っていた。




そんなかわいいエルにも友だちが出来た。2つ上の帝国の皇子だ。

近頃、エルは私達兄姉二人と比べて出来損ないだと言われていて、幼心に傷ついているみたいだった。


私達がここまで強くなったのは、かわいいエルを守る為なのだが、それが原因で傷つけるのは本意ではなかった。私も色々魔術を教えるのだが、エルは魔術との相性はそんなに良くはないみたいだった。



まあ、私達と比べて能力的に釣り合うやつが近くにいてもいいだろう。


何しろこの皇子は私達二人に負け続けているのだから。その点はエルと同じだ。



エルにも友達が必要だ。まあ、意地悪な奴だが、天使のエルにも世間の荒波を少しくらい判らせなくてはいけない。これくらい意地悪な方が良いだろう。まあそれに、この皇子テンプレなところもあってエルを気に入っているのは傍で見ていてよく判った。


意地悪した分は、後で全て私が魔術訓練と称して叩きのめしていたが・・・・。


それにこの二人傍で見ているととても可愛いのだ。



でも可愛さとは裏腹に、この二人、知らぬ間にダンジョンに潜ったり、宝剣を抜いたりもうハチャメチャだった。まあ、エルには私のお守り持たせているので、どこにいるかはすぐに分かったし、城から出た時は後ろから付いていったので、危険な目には合わせなかったが。



でも、この皇子、エルが王国の王太子と婚約していると聞いてショックのあまり、帝国に帰ってしまったのだ。うーん、なんとも情けない。普通はその王太子から奪うくらいの気概を見せてくれないと。


そして、そんな時にゲフマンが大軍を率いて攻め込んできたのだ。


流石に5万の大軍が来たので、何かあっては大変だと、エルをオーバードルフに退避させたのだ。そのエルの馬車が襲われるとは想定外だった。領境までは100名に護衛させたが、そこからは王国の軍に任せたのだ。


まさかそこにゲフマンの大軍が襲いかかるとは想定もしていなかった。

完全に油断していたのだ。



「いやああああ」

エルの叫び声をお守りを通して聞いて、私は即座に転移した。


そこには切れたエルによって雷攻撃されて焼け焦げになってたゲフマンの大軍が横たわっていた。

何か大半はまだ生きているみたいだったが、切れた私は即座に焼却処分した。

私のエルに何てことしてくれるのだ。


もうこうなったらゲフマンは殲滅するしかない。私は決意も新たにエルを連れて領都に転移した。



エルが襲われたと知った兄は怒り狂ったそうだ。


私がエルを母に預けて戦場に戻ると、兄が一人で、ゲフマン軍に突撃、粉砕し、国王を血祭りにあげたあとだった。


後の祭りで私は何も出来なかった。閻魔もかくやという凄まじい怒りようで、前に現れた敵兵は可愛そうなくらいだったそうだ。



本来は敵王都も血の海に変えたかったが、文官共が土下座して頼むので、やむを得ず、遠距離攻撃で、王宮を燃やすだけにしてやった。


これ以降5年間はゲフマンは静かにしていた。



そんな中エルはどんどんきれいになっていった。


性格はおっとりしていて、お菓子を食べている時はご機嫌で本当に天使のようだった。



そんなエルが婚約破棄されて、暴れて帰ってきたと聞いて私は驚いた。


即座にお礼参りに行こうとしたのだが、エルは王太子一同を雷撃で不能にして、王宮も破壊しつくしたとのことだった。



生かしておくとはエルらしいとは思ったが・・・・






そんな王家もエルの宝剣の前に滅び去り、今私は修行の旅と称してオーバードルフ辺境伯の魔術師顧問になっていた。


そして、今日もエルと皇子のファーストキスの瞬間をお菓子を食べながら待っているのだった・・・・。いや違う、お菓子の前に転移してしまったのだ。



「お姉様。今は訓練の時間なのでは」

エルが少しお冠で聞いてきた。


「いや、二人がいい雰囲気になったと聞いたから飛んできたんだが」

「姉上いい加減にどいて下さい」

私は押しつぶしていた皇子の上から不承不承降りた。



しまった・・・・。また、転移する場所が近すぎたのだ。皇子の上に乗ってしまってはできるものもできないではないか・・・・・





まあ、この二人は小さい時からの私のお気に入りで、絶対にファーストキスの瞬間は見なくてはと新たに心に誓うのだった。


次からは絶対にせめて10m先に転移しようと心に決めたのだ。


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続編開始しました。

「皇太子に婚約破棄されましたーでもただでは済ませません!」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054917566155

新章はじめました。


その3年前の「赤い死神の大侵攻作戦で王国を蹂躙します…しかし、その前に無敵の戦神が立ち塞がりました」

https://kakuyomu.jp/works/16816452218396528480


で、シャラザールに退治されたゼウスらが復活。

ノルディン帝国と合体して史上最悪の南下政策を始めようとします。


クリスたちは大ピンチに陥ります。


果たして勝てるのか?シャラザールは?


今まで倒した標的も地獄から脱獄してきてさあ大変。


シャラザールも史上最大の危機です。


ぜひともお読み下さい。

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