第30話 オーバードルフは私を怖れて無血開城できました

翌日、私は平身低頭しているウンガーから報告を受けていた。


「姫様にはご機嫌麗しく」

「全然麗しくないんだけど、何よあのチラシ」

私がムッとして言う。思いっきりウンガーの気配を目掛けて宝剣を振り下ろしたはずなのに、何故かこいつはピンピンしていた。

態度こそ、丁重で頭を下げているが、こいつは絶対に悪いとは思っていない。


「はっ、無血開城するのに最適なチラシを考慮して、撒きました次第でして」

「私のことあそこまで貶めたチラシをよくも作ったわね」

「も、申し訳ございません」

ウンガーは更に頭を下げる。


「これで何もうまくいっていなかったらわかっているわね」

「はっ、責任はいかようにも取る所存でございます」

白々しくウンガーが言う。そんな事、心にも思っていないくせによく言う。

私は呆れた。


「ふんっ、で、現状はどうなっているのよ」

「おかげを持ちまして、無血開城出来たかと」

「えっ、本当に?」

「はい。敵、領都は姫様を恐れるあまり人っ子一人残ってはおりません」

「えっ?」

私は開いた口が塞がらなかった。


何でもあのチラシで男たちは恐慌に陥ったらしい。そこに私が斬撃を何回か放ったものだから更に拍車をかけたみたいで。

領都は一瞬で荷馬車と逃げ出す人の群れで大混乱に陥ったそうだ。

そして、夜明けまで続いた大渋滞の後は、人っ子一人残っていないそうだ。


「すげえーーー、さすが姫様の不能の力は偉大だな」

ヘルマンが何をか感動している。


「ヘルマン!」

「はいっ」

私の声にヘルマンが飛び上がった。


「直ちに全部隊で領都を占拠して」

「了解しました」

「ウンガー、領都内の事は任せます。逃げた領民を戻して、逃げた兵士たちは武装解除後の復帰を」

「了解いたしました」

直ちに兵士たちが動きだした。



領都は本当に人っ子ひとりいなかった。

皆、何を怖れたのだろうか?


うーん、何か釈然としない。血も涙もないお兄様やお姉様を怖れたのならいざしらず、私を怖れたってどういう事?

何かめちゃくちゃ腹がたつのだけれど。


王妃や内務大臣たちは私の一撃で半焦げ状態で見つかった。

直ちに治療の上、地下牢に監禁する。

私の斬撃の直撃を受けた男たちは皆不能になっていたそうだ。

喜んで報告するヘルマンに思わず剣で切りつけそうになり、ヘルマンが慌てて逃げていった。



「あっはっはっはっ、皆、エルの剣で不能になるのを怖れて逃げ出したのか」

遅れてやって来たお兄様には大声で笑われるし、


「エル最高」

お姉様は笑い出して止まらなくなるし・・・・・

私はぶすっとしていた。


「まあ、エル、オーバードルフの都も火の海にはならなかったし、領都を黙って勝手に占拠したとお兄様とお姉様が怒り出さなかったのだから、良しとするしか無いだろう」

フェルにそう言って慰められたが、うーん、何かおかしくないか?


確かに勝手に領都に抜け駆けしたと怒られるかと思っていたので、それがなかっただけでもマシなのだけど・・・・、何か釈然としないんだけど。



お兄様もお姉様もオーバードルフ軍との戦いである程度の戦果を挙げられたので、納得しているらしい。可愛そうなのはお兄様とお姉様の露払いになったオーバードルフ軍だと思うんだけど・・・・。



領都には1週間もせずにまた人が戻ってきていた。


我軍を怖れたのなら、もう少しかかるんじゃないかと思っていたので、不思議だと思っていると

嬉々としてヘルマンが新しいチラシを見せてくれた。


「領都オーバードルフから逃げ出した者たちへ

余は戦神エルザベートの化身、エルヴィーラ・ ハインツェルである。

余を怖れて逃げ出した賎民共へ

余から逃げ出すとは良い根性をしているではないか。

今すぐに帰ってくれば不問に処すが、いつまでも隠れている気ならば余の宝剣をその方ら目掛けて振るうであろう」


そこには鬼の形相で剣を振る私のイラストが書かれていた。



「ウンガー、ウンガーはどこにいる」

私はプッツン切れて叫んでいた。

「ウンガー様はなにやら急用だとかで、急ぎ出ていかれましたが」

兵士の一人が教えてくれた。


「本当にウンガーの奴、次見つけたら許さない」

私は手でチラシを握りつぶしていた。


そこへ兵士が走り込んできた。

「報告いたします。オーバードルフの元王子ベルンハルトが一軍を率いてこちらに向かっていると報告が入りました」


「はっ、まだいたのね」

私は軽く頭痛がして頭を押さえた。


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