第29話 王妃の嘆き

私はパウリーネ、この国の王妃よ。


この国の女性では一番偉いわけ。


この地位につくまでに幾多の女の戦いに勝ってやっと王妃になったのよ。


まあ、元々私の出身がフーデマン公爵家とオーバードルフの中でも一、二の高い地位にあったらというのもあるけれど。


後継者の息子の王子も無事に生まれて、私の地位は安泰だと思っていたわ。


しかし、その子の婚約者に辺境の伯爵家の娘がなったと聞いて、開いた口が塞がらなかった。


それも決めてきたのがお義父様だなんて。私が絶対に逆らえないやつだ。


それでも私は夫に文句を言った。

「何でそんなに田舎貴族の娘を息子の嫁にしないといけないの?」と


夫も最初は頷いていたのだが、お義父様と話し終えた後は何故か蒼くなってその件については黙りこくってしまった。


こうなっては仕方ないわ。何しろ私もまだ王太子妃になったばかりの頃で、舅には絶対に逆らえなかったから。



その娘が16になって、学園に入学して王妃教育を受けるために初めて会った。


どんな田舎臭い娘が来るのかと思っていたら、服装は本当にダサい田舎娘だった。


話し方もボツトツとしていて、思った通りだった。


「何なの、その姿は」

私は虐めるつもりで着飾らせてみた。田舎貴族が着飾った所で、お里が知れるものなのだ。


「えっ」

でも、侍女たちに着飾せて出てきたエルヴィーラを見て私は固まってしまった。


な、なんと、肖像画にあるエルザベート様そっくりだったのだ。


そこには田舎貴族の片鱗はなく、堂々としていた。


私は気圧されてしまって、何も話せなかった。


二度と着飾らせはさせなかった。


そんな事したらエルヴィーラのほうが絶対にえらく見えるから。


でも、こいつは出来損ないの姫と言われていた。だから剣術も大したことはない、と騎士団長に稽古をつけてもらうことにした。可愛がりしてやってと前もって騎士団長にはお願いしておいたのだ。


このエルザベート様似のムカつく娘が地面に叩きつけられるのがとても楽しみだったのだ。


勝負は一瞬でついた。それも思っていたのとは真逆で、一瞬で騎士団長が地面に伸びてしまったのだ。


「えっ、あなた、そんなに出来ないと言われていなかった?」

私が驚いて聞くと


「はい。兄と比べると全然なんです」

いや、ちょっと待って、この子の兄って次期剣聖じゃない。それはかなわないだろう。

でも、それは超別格なだけで、騎士団長は我軍のトツプ、当然剣技も出来るはずなのに・・・・。この娘ははるかその上にいた。


駄目だ。これは調子に乗る。私は剣術も二度とさせないことにした。この調子だと魔術もそこそこやるだろう。何しろこの子の姉は次期大魔術師と言われている。姉と比べてと言われても、ろくな事にはなるまい。魔術が本当にからきし駄目だと判ったのは大分部あとになってからだった。でも剣術でこれだから普通はまずいと思うじゃ無い?


脳筋の辺境伯のはずなのに、この子は何故か勉学が出来た。王太子殿下にこの子の10分の一の能力があればと教師たちに呆れられる始末よ。教師たちは絶対に私を馬鹿にしている。王太子ができないのは私の能力が無いせいだと。奴らは早くもバカ息子と天才をかけ合わせた次代の秀才を期待しているみたいだ。


何か許せないと、体つきが豊満なだけのヴァルチュ侯爵令嬢を息子に合わせた途端、遊び人の息子は令嬢に夢中になったのだ。

ふんっ、これで少しくらい悔しがれと思って留飲を下げるつもりが、エルヴィーラはびくともしない。


全く無視していやがるのだ。


何なのだこいつは。普通は婚約者に蔑ろにされているともっとこう思うところがあるだろう。


しかし、エルヴイーラは泰然としているのだ。


私は唯一エルヴィーラが不得意な礼儀作法で侍女を使ってしごきまくった。


エルヴィーラはびくともしていないみたいだが。


学園でも、その周りの子を使って徹底的に虐めるように示唆した。


教科書が切り刻まれようが、水を頭の上からかけられようが、馬鹿にしたように周りの令嬢らを見ている。ヒステリーを起こすわけではなくて、淡々としているのだ。


打つ手が尽くうまくいかない中で、ゲフマンの大使から持ちかけられた公衆面前での婚約破棄はうまくいくと思えた。


しかし、そこで息子がエルヴィーラに、まさか重症を負わされることになるとは思っていなかったのだ。


そして、それに対する夫の激怒も想定外だった。


夫は息子の廃嫡もやむなしと言い切ったのだ。


私は蒼白としたが、なんと、幸運なことに夫は倒れてくれた。


これ幸いと私は夫に成り代わって総動員令をかけた。生意気な辺境伯をこの世から消し去るのだ。

そうすれば祖先の汚点も全て消しされる。


しかし、物事はうまくはいかなかった。


騎士団から大量の離脱者が出て、ハインツェルについたのだ。


剣聖までもが辞表を提出してきた。


どういう事なのだ?。


更に驚いたことにはハインツェルは我が王家に取って代わると宣言したのだ。十分な反逆罪だ。


これで叩き潰せると思ったのだが、しかし、我軍の人員は膨らまなかった。


更に何とか5万の軍勢をかき集めた時には、ハインツェルが打って出たとの報が入ってきたのだ。


まさか、少数のハインツェルが攻勢に出るとは想定もしていなかった。


それも3方向から一度にだ。


剣聖のいる軍には2万の精鋭を当てた。敵は千だと言う。いくらなんでも勝てるだろうと私は思っていた。


しかし、一瞬で壊滅に近い打撃を受けたのは我軍だった。


そんなバカな、2万の損失を落胆している暇はなかった。


長女の方に向かわせた2万も瞬殺されたみたいだった。


そして、エルヴィーラが率いる出来損ないの軍がいつの間にか王都に迫っていたのだ。


対処する前にエルヴィーラの斬撃で主戦派の内務大臣が重症になった。


「何をしているのです。直ちに全軍で攻撃に向かいなさい」

私はビビる騎士団長に命令していた。


その私に向かって光の一撃が襲いかかってきたのだ。


次の瞬間には私は凄まじい衝撃と爆発音に意識を飛ばしていた。

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