第31話 元王太子視点 なんとしても田舎娘に仕返しがしたかった
エルヴイーラの事は昔は好きだった。
俺に婚約者がいると聞いて初めて姿絵を見せてもらったが、それはとても可愛げな女の子だった。
しかし、彼女は国境の領地におり、日々ゲフマンとの戦闘に励む父母と一緒にいるとのことで、なかなか会えなかった。
そんな彼女に初めて会えたのは16歳になった時だった。
しかし、その彼女は平民のようなとても地味な格好をしていたのだ。
俺の周りは侯爵令嬢を始めとした垢抜けた衣装を着ている者が多く、私は少し失望した。
ダサい格好の辺境の伯爵の娘という感じだった。
学園での俺には垢抜けたセンスの良い令嬢が多数寄ってきていて、あっという間に地味で目立たない田舎令嬢のことは頭の中から抜け出てしまった。
そんな中、出るところがでていて話題も豊富、立ち居振る舞いも洗練されているアマーリエに、俺は惹かれた。そうだ、あんな、田舎令嬢よりもアマーリエの方が余程、俺の配偶者には相応しいだろう。
しかし、田舎令嬢との婚約は私が生まれた時になされており、すぐに婚約破棄するのは難しそうだった。
そんな中、アマーリエがその田舎令嬢に何かと虐められると言うのだ。
田舎令嬢は武の名門で部下を使って色々やってくれているらしい。顔に似ずやることがエゲツい。俺は田舎令嬢に初めて嫌悪感を持った。
そんなところに田舎令嬢の家来だった男が、とんでもないことを告白してきたのだ。
なんと、田舎令嬢にごろつきを雇ってアマーリエを襲わせて傷物にしろと言われたというのだ。
俺のアマーリエになんてことを計画するのだ。
俺はそれを逆手に取ることにしたのだ。
それを理由に田舎令嬢との婚約を破棄してやる。そう言った理由なら辺境伯側も納得するだろう。
都合のいいことに反対しそうな父上は国際会議でいない。
婚約破棄して、田舎令嬢を修道院に護送する途中でごろつき共に襲わせて娼館に売り飛ばしてやろう。あの日頃はおとなしい顔をしてとんでもない事を計画した娘に仕返しをしてやるのだ。ついでにその仲間に俺自身も加わろうと思った。丁度鬱憤を晴らすには良かったのだ。
何しろこの田舎令嬢が良く出来るせいで、散々教育係からは注意されていたのだ。
しかし、うまくはいかなかった。
この娘は悪魔に魂を売っていたらしい。婚約破棄の断罪の場面で、田舎令嬢が反論して、捕らえようとした家来は雷で弾き飛ばされたのだ。家来たちはピクピク震えていた。
元田舎娘の家来はそれを見て思わず、「厄災姫」と悲鳴を上げて逃げ出そうとしてた。更に恐怖におののいて俺たちの計画をバラしたのだ。そして、そもそも、この田舎娘を虐めていたのはアマーリエだと言い出す始末だ。
な、何なのだ!
田舎娘はニタリと雷をバックに笑う。俺はその様子に、この田舎娘に恐怖を感じて逃げ出そうとした。
その瞬間だ。雷に襲われたのは。
田舎娘の雷撃で凄まじい痛みで俺は気を失っていた。
気づいた時は病院にいた。そして、なんと下半身の機能が働かなくなっていた。
雷による、後遺症だと言う。
俺はそうしたあの田舎娘になんとしても仕返しがしたかった。
父に言って報復しようと言うと何故か皆言葉を濁した。
問い詰めると父は俺のやったことに激怒したそうだ。俺を廃嫡すると言い切ったらしい。
そんな、俺は悪くない。
言い訳したいというと父は危篤なのだと言う。
そして、俺は母から建国の真実を聞かされたのだ。
元々、辺境伯の祖先のエリザベートが国を作ったのを、失恋した我が祖先が頼み込んで横取りしたなど、とんでもない話だ。そんな話があるはずはない。
なんとも辺境伯に都合のいい話ではないか。
そんなの嘘に決まっている。
俺は母にそう言った。
そして、このような私にしたあの悪魔に魂を売った田舎令嬢を俺は絶対に許さないと心に誓った。辺境伯もこの地から消滅させてやると
しかし、状況は次々に我が王家に不利になった。
なんと辺境伯が王位奪取を目論んでいると言う。全諸侯に辺境伯につけと連絡しているとか。もうこれは完全に反逆ではないか?
なんとしても征伐しなくては。
しかし、私は焦るもなかなか立つこともままならぬ。
そして、状況は刻々と悪化していった。征伐に向かった王国の精鋭が辺境伯軍に粉砕され、王都に敵が迫っているというのだ。
援軍を各地に依頼したが、どの国が対応するよりも辺境伯軍の動きは早かった。
動きの取れない俺は家臣らに連れられて郊外に逃げた。
何ということだ。オーバードルフ王国はこれで滅ぶのか。
俺は呆然とした。
こうなればその原因となったあの田舎娘になんとしても一矢報いたい。
しかし、俺を守っていた兵士たちは1人抜け二人抜け、次々にいなくなっていく。
気付けば俺を守っているのは数十人になっていた。
もうこれまでだろう。
俺は最後になんとしてもあの田舎女に一太刀浴びせたかった。
しかし、それも叶わなかった。
田舎娘は俺の呼びかけに剣を抜いて対峙してくれようとした。
しかし、横から男が出てきたのだ。
その男は・・・・帝国の第五皇子フェルナンデス・レンブロイだった。
「貴様なんぞ、エルの手を汚すまでもない。俺が一刀のもと斬捨ててやるよ」
フェルナンデスは剣を構えた。
「貴様が後ろにいるということは今回は帝国が示唆したのだな」
俺は剣を抜くと言い放った。
「ほら、フェル、あんたがでてくるからこんな事言われるんじゃない」
「えっ、いや、エル、そんなことはないぞ。そこの女たらし、なんてこと言い出すんだ。貴様が俺のエルに酷いことを画策するから、俺が貴様に剣を叩きに来ただけだ。勝手に帝国が示唆したとか言うな。そもそも、反逆を始めたのは貴様だろうが」
帝国の皇子は変なことを言い出した。
「何を言う。反逆とは我が王家に楯突くことだろうが」
俺が言うと、
「何をふざけたことを。この国は戦神エルザベート様が建てられた国。そのエルザベート様に振られたからと言って泣いてせめて王にさせてくれと頼んだのが貴様らの祖先だろうが」
「そんなのは辺境伯の作った勝手な伝説だ」
「何を言っている。その話は帝国では小さい子供まで知っているぞ」
「な、何だと。辺境伯はそこまで我が王家を虚仮にしているのか。勝手に嘘の伝説を他国に流して」
「ふんっ、真実だからこそ、貴様らの外務も何も文句を言えなかったのだろう」
「そのようなことがあるか」
「今まで貴様ら王家が、後方でのほほんと生活できたのも全てゲフマンの陰謀を叩き潰してきた辺境伯のおかげであろうが。その辺境伯の令嬢たるエルを敵国のゲフマンの計略に嵌められてゲフマンに売ろうとした反逆者が何を言う」
「何を言う。反逆者はそちらだろうが」
「そもそも貴様らの宗主はエルザベート様であろうが。その直系のエルをゲフマンに売ろうとするなど、国家反逆罪はそちらであろう」
「ふんっ、帝国の犬が何を言う」
「ふんっ。恩を恩とも感じぬ忘恩の徒を成敗してやるわ」
その言葉に俺は何とか剣を持って立ち上がった。
どの道もう終わりだ。最後は帝国の皇子に斬られて死んでやる。
皇子は一瞬で俺の前に来た。そして、俺が対処する前に皇子にぶった斬られていた。
俺は地面に叩きつけられた。
そして、それが峰打ちだったことに舌打ちしながら気を失っていたのだ。
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