第25話 とある男爵家の大騒動

私はジェフ・ボーンヘッド。男爵家の当主だ。我が男爵家はこのオーバードルフ王家が誕生した時以来300年の名門だ。昔は建国の戦神エルザベート様の馬くつわ取りをしていたらしい。


今も騎士として、この国の一翼を担っていた。


最もこの男爵領は500名の小さな村で、なかなか生活してくのも苦しかったが。


館はあるものの、基本使用人は爺や家族のみ、家の雑用は爺やがやるが家内は料理も洗濯もした。


使用人を雇ってやる家もあったが、我が家は建国当初からの仕組みを維持していた。


流石に税率は30%には出来なかったが、それでも領内最安の40%だ。陛下に差し出す分を引くと25%しか残らない。この25%で、河川の整備から街道の整備、武具から馬の世話を差し引くと、夫婦4人と爺や家族6人が生活していくのがやっとだった。


娘や息子は他の貴族の家のように、もっと派手な生活をしたいようなことを言うが、何を言わんやだ。我が家は領民の皆の血と涙と汗で生活できているのだ。


息子はこんなのでは貴族の嫁は来ないと言っているが、ならば別に平民の中から気立てのいい子を選べば良い。我が家は男爵家とはいえ、平民との垣根はそんなにはないのだ。


娘も別に貴族に嫁がなくても平民に嫁いでも良いのだ。


娘は嫌がっていたが。


学園に通う時は本当に嫌がっていた。こんな衣装ではいけないと。


でも、王太子殿下の婚約者の辺境伯の令嬢が同じような衣装を着ていて、良かったと言っていた。

さすがエルザベート様のご子孫は違う。今でも質素倹約に努められておられるのだ。

あそこは今でも武の名門、我々がのほほんと生活できているのも、ハインツェル家があそこでゲフマンの侵略を防いでくれているからなのだ。ハインツェル家には足を向けて寝れない。


そんなときにだ。突然、その婚約者のエルヴィーラ嬢が王太子殿下に婚約破棄されて、殿下を叩きのめされたと娘が帰ってきたのだ。


どうなるのだろうと固唾を呑んで見守っていると、直ちに王都に武装の上集まるべしとここ300年来初めて命令が王都から送られてきた。


すわ、ハインツェル家を攻撃する気かと私は愕然とした。


息子など「これは武勲を立てる絶好の機会だ」などとほざいておるが、私には毎年ゲフマンと戦っているハインツェル軍と戦って勝てる気がしなかった。


そもそも、あの領地は戦神エルザベート様が立てられた領地なのだ。我が家は元々王家というよりは辺境伯よりだった。それにあの地には次期剣聖の跡取りと、次期大魔道士の長女がいらっしゃるのだ。オーバードルフ軍など下手したら一瞬で崩壊してしまうだろう。

どうしたものかと悩んでいると我が家に辺境伯から手紙がお送られてきた。


そう、戦神エルザベート様の家紋がでかでかと記された手紙だ。


「秘密条項第一項により、我が辺境伯家はオーバードルフ王家に成り代わってハインツェル王家を設けたり。古の約定により、直ちにボーンヘッド男爵も我が地へ馳せ参じよ」

と記されていた。


「あなたどうなさるのです」

妻が聞いてきた。


「我が家には昔から伝わる書面がある。それを今ここにて開けよう」

私は地下室にしまわれていた書類を取り出した。


そこには驚愕の事実が記されていた。

王家の語っていた建国実話は真っ赤なウソであり、ハインツェル家に伝わっている建国秘話こそが実話である旨が書かれており、私は驚嘆した。


そして、秘密条項第一項とは

「オーバードルフ王家が国王としてふさわしくないとハインツェル家が判断した時は、ハインツェルがこれに代わる」とあった。


「このようなことが」

息子は唖然としていた。


そして、最後に先祖の命令が記されていた。ハインツェル家から招集ありし時は必ず従えと。


「直ちに、村の主だった者を集めよ。我が男爵家は古の約定に従ってハインツェル家に従う」

「お館様。解りました」

爺やが慌てて外に飛び出した。

村の主だった者を集めに行ったのだろう。


「しかし、父上、王家に反逆されるおつもりか」

息子が慌てて言った。


「何を言う。もともと我が家はエルザベート様にお仕えしてここまでになったのだ。古の約定があればそれに従うべし」

「しかし」

「現実問題、ハインツェルには、王家は逆立ちしても勝てまい。それともお前はあのぼんくら軍隊がハインツェルの精鋭に勝てるとでも思っているのか」

そのぼんくらの騎士の一人である息子も何も言えなかった。


「しかし、騎士団にはなんと言えば」

「そんなのは決まっておる。病欠だ」

私は言い切った。


「しかし、父上」

息子はなおのこと不安そうにしていたが、近隣の多くの貴族がハインツェルにつくと判ると諦めたようだった。


私は息子ともども馬に武具と食料を積むとその日のうちに近隣の諸侯と連れ立って、ハインツェルに向かったのだ。

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