第24話 オーバードルフ王家はオーバードルフ辺境伯に格下げになりました
王国の使者が飛んで帰ってから一週間が経っていた。
それから毎日毎日会議三昧だった。
脳筋のお兄様とお姉様は戦の評定の時は目をランランと輝かせて聞き入っていて時に発言する内容は的を得ているのだが、その他の時は寝ていた・・・・。
最初はお父さまやお母様に頭を叩かれて叩き起こされていたが、途中からは二人共諦めていた。
これが未来の辺境伯で良いのか? 私は思わないではいられなかった。
今日は占拠した時の徴税の割合をどうするかという、政治の根本的な話であった。
案の定、お兄様とお姉様は始まると同時に寝ていた。
詳細は持ち帰って各部署で検討されて出されるので、ここで話し合われるのは基本的なことなのだが。
「王国では多くの領地で取れ高の50%近く徴税されており、40%のところは少なくなっております」
財務卿が発言している。
「そのうち王国本国に15%、残りの25%から35%が領主の取り分です」
「50%で良く領民は納得しているわね」
「まあ、酷いところは55%というところもありますから」
「それは酷いな」
「男爵家とか小さいところの方が税率が上がる傾向にあります」
「何故、そこまで多くなっているの?」
お母様が聞く。
「資料にあるように我が領地と比べると貴族の数が多くあとそれに仕える使用人の数も多いかと。服飾装飾品費も桁が違います」
「贅沢が過ぎているということね」
「まあ、そのことで経済が潤っている面もありますが」
「領民にしわ寄せがいっているのでは本末転倒ではなくて。エルザベート様は領民の幸福を願っておられたはず」
お母様がそう言うが、私はエルザベート様は戦えればそれで良かったのではないかと密かに思っている。お兄様や姉さまと同じ様に。昔そう言ったらお父さまに2時間延々と説教を食らって以来言っていないが。お父さまも陰では絶対にそう思っているはずだ。でないと国王の座をオーバードルフなんかに譲らないはずだ。それにお父さまも同じ気分のはずで基本は国王なんかには絶対になりたくないはずだ。何しろここにいる限りお父さまに命令する奴なんていないし、面倒なことは全て優秀な文官がやってくれるし、国王と変わらない。それが国王になると面倒くさい貴族の面倒とか見なければならなくなるのだ。社交とかお父さまは苦手なはずだ。まあそう言うところは帝国出身のお母様がいるが・・・・
「貴族の数が建国当時の2倍になっているのか」
お父さまが嫌そうに言った。
「左様でございます。まあ雇用を生んでいる面は否定できませんが、何も生み出さない貴族や使用人の数を増やしすぎては生産性の低下に繋がります。領主の被服代、装飾品に使う割合も多すぎるかと」
「貴族の数を半減させるとして、職にあぶれた人間はどうするのだ」
「王国では開墾できていない土地が多数ありますので、そちらに開墾要員で送り込むのが良いかと」
農務卿が発言する。
「貴族に出来るのか?」
「今までの農民の苦労、味合わせるのが良いかと」
農務卿は容赦がない。
「そうだな国の基本は食だからな」
お父さまが頷いた。
どの服が良いとか、あなたの服はダサいとか言っていた貴族の子女が農業をやるのか。貴族にとっては災難だが、別に貴族を贅沢させるために国があるのではない。
私は学園で辺境伯の衣装は貧乏くさいとか散々言われたが、王国の衣装はごてごてしていてとても着づらいのだ。それに高い。質の良い服が格安で領地では作られているので、私は主にそれを着ていた。だって値段が下手したら2桁違うのだ。
それに、コルセットなんてあれは拷問道具だ。流石に学園では着ていなかったが、あんなの着ていたらとても勉強なんて出来ない。あんなの着ていたら美味しいデザートなんかも碌に食べらないではないか。
我が領地ではコルセットなんて廃止されている。戦神がいらんの一言で無くなったのだが、本当に無くなっていて良かったと思っている。
最近やっと帝国でも無くなったとか、フェルが話していたけど、「そんなのあるところには絶対に嫁には行かない」と昔言ってフェルがなぜかとても心配そうな顔をしていた記憶があるんだけど、何でだろう?
そのフェルはと言うと私の護衛と称して私の後ろに立っているが、帝国の皇子に会議の内容を見せて良いのだろうかと思わずにはいられないのだけど。
誰も文句を言わないからいいのか?
「で、税率を最大40%に抑えさせるということだな」
「はい。我が領地に納める分を10%にして5%下げさせますので、なんとかなるかと」
「ま、ならなければその領主は取り潰せば良かろう」
「領民としても支配者が変わって税金が下がるのですから万々歳かと」
内務卿が言うがそのとおりだろう。大半は平民のなので多くの国民が喜ぶことになり、この方が良いであろう。お父様は嫌がるだろうが・・・・。
「も、申しあげます」
そこへ兵士がいきなり入ってきた。
「王都より緊急です。王国が動員令を発令したと」
寝ていたお兄様とお姉様の二人がパチリと目を開けた。
「では私が行って叩き潰してきますか」
「何を言うの。お兄様は寝ていてもらって結構。ここは私が」
二人が立上って言い合いを始めた。
「二人共早まるな」
お父さまが一喝する。
二人はやむを得ず喧嘩を止めた。
「ではお館様。お覚悟は宜しいですか」
内務卿が嬉しそうに聞く。先代から内務卿をやっていて結構年なのだが、まだ若い奴には任せられませんとか言って未だに内務卿をしているのだ。お父さまの保護者のような立ち位置にいる。文官の最高齢だ。
「こうなれば秘密条項第一項を発動するしかございますまい」
財務卿も笑って言った。こちらもお祖父様の代からやっている。
「やらねばならんのか」
嫌そうにお父さまが言う。
「何を仰るのですか。今まで散々その事を検討してきましたよね」
商務卿までもが言った。こちらは若手のやり手だ。
一同がお父さまを見る。
「やむを得まい。こちらも古の約定に従い秘密条項第一項を発動する」
お父さまは諦めたように言った。
「はっ、陛下」
全員頭を下げる。
「ちょっと、待て、何故陛下なのだ」
お父さまは慌てたが、
「秘密条項第一項を発動されると同時に国王陛下になられましたから仕方がありますまい」
内務卿に躱された。
「では、陛下」
内務卿がわざわざ『陛下』と言った。お父さまは嫌そうな顔をする。
「秘密条項第一項発効いたしました。これより予定通りの行動を開始いたします」
「全領民にダニエル様が国王陛下になられたことを告知いたします」
「これより、オーバードルフ王国は国名をハインツェル王国に変更いたします」
「これにより、自動的にオーバードルフは辺境伯に格下げいたします」
「こちらも古の約定に従い、総動員令をかけます。貴族共にも連絡いたします」
呆然とするお父さまを尻目に文官達が予定通り次々にやっていくことを報告、指示を始めた。
会議室内外が大騒ぎになった。
ここにオーバードルフ王国はオーバードルフ側の意向に関係なく消滅し、ハインツェル王国が誕生したのだ。
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