第26話 私も西街道を進軍することになりました
「お館様が国王陛下になられた!」
その報に領都は、いやもはや王国になったのだから王都か、は大盛りあがりに盛上っていた。
もともと半独立国と化していたので、名前だけが変わっただけだ、と私なんか思うのだが、領民にとっては違ったみたいで本当に皆喜んでいた。
号外が撒かれて、パレードとか諸々のものが企画された。
オーバードルフ側は一戦も辞さずとのことで、我が方を降伏させる気満々みたいだが、こちらはもはや勝った気満々だ。
やる気を見せているのはお兄様とお姉様で、何人殺せるかで賭けを始める始末で、本当に傍迷惑な二人だ。
王国側はというと貴族合わせて既に5万人は集めたみたいだった。
一方我が王国側は総動員令がしかれて予備役が続々と集まってきていた。
これは占領後の治安維持がメインの仕事だ。
それ以外に元王国内にも我が方から動員令を掛けて1万人の貴族や騎士たちが集まってきていた。
ハインツェル側も予備役を合わせて5万人は動員できた。まあ、おそらく戦闘はお兄様とお姉様の二人で決まってしまうはずだ。
王都からの街道は3本あり、中央街道と東街道がメイン街道だ。西街道は私に襲いかかってきた
バルチュ侯爵領があるが、大した諸侯はいず、道もそれほど広くもない。
オーバードルフ側はこちらに攻め込む気でいるが、我軍は迎え撃つ気などサラサラ無く、攻め込む気満々だった。
中央街道はお兄様が、東街道はお姉様が第一騎士団と第二騎士団、それぞれ1000名を連れて進撃する予定だった。
「私も責任を取って、西街道を向かいます」
軍議の席で私が言った。
「はっ、エル、戦争は遊びじゃないのよ」
「そうだ。エル。お前には危険だ」
お兄様もお姉様も反対した。でも、この二人は心配だけではなくて、絶対に私が出ることで獲物を減るのを気にしているのだ。
「しかし、元々、今回の発端は私にあります。私が後方でいていい理由にはなりますまい」
私はあくまでも言い張った。
「いや、エル、それはとても危険だ」
フェルが横から言う。
「私は大丈夫です。フェルが守ってくれますから」
「えっ、いや、それは言われれば必ず守るが」
途端にフェルがトーンダウンする。そうそう、フェルはこう言うとちょろいのだ。
後方にいたほうが安全だし、皆の被害も少ないとは思う。でも、私も戦神エルザベート様の末裔なのだ。元々今回の件は私が婚約破棄されたのが原因でもある。後方でじっとしている訳にもいかなかった。
「いや、しかし、エル。お前自身も危険だが、お前の周りにも迷惑をかけるだろう」
父が諭すように言う。と言うかちょっと待て。周りに迷惑をかけるってどういう事だ?絶対に私を守るのが大変とか言うわけではないよね!
「エルザベート様の剣も連れて行ってくれと言っているのです」
「嘘をつけ! 剣が話すわけ無いだろう」
お父さまが言う。
「お前が暴れた後は不能者の山になって人口が減るのではないか」
お兄様がとんでもないことを言う。何を根拠に言うのだ?
「お兄様が屍の山を築くのに比べればましです」
「私は1万人以上殺すつもりはないぞ」
1万人殺すことはかくていなんだ・・・・。
「1万人も殺すなど言語道断です」
「しかし、不能者1万人と比べてあっさり殺してやったほうがそいつのためだろうが」
「別に私が剣を振るっても不能になるわけ無いでしょう」
そうだ。たまたまそうなっただけだ。
「王太子もコリントも不能になったそうだぞ。更にお前の剣の直撃を食らったゲフマンの多くの兵もたたなくなったそうだ」
お兄様がとんでもないことを報告してくれる。
「お前の行こうとする先にいるバルチェも不能になったそうだ。お前が通った後は不能しか残らないなんてことになったら人口が減るぞ」
「んな訳ないでしょ!」
私が言うが、何故かフェル以外の男が私から離れようとするんだけど。なんだかな。
「どうしても行くのか?」
お父さまが呆れたように私を見た。
「はい、お父さま」
喜んで私が頷く。
「第三騎士団長」
「嫌です。私はまだ独身なんです。不能になったら婿にいけなくなります」
騎士団長がとんでもないことを言ってくれる。
「煩いわね。不能になったら私が責任取ってあげるわよ」
「はああああ!、何言っているんだ。エル。そんなの許せるわけ無いだろう」
フェルが食ってかかってきた。今にも第三騎士団長相手に剣を抜きそうだ。
「えっ、お嫁さん探してあげるっていうのがいけないの?」
私が驚いて言うと、
「えっそう言うことか」
何故かフェルがトーンダウンした。
剣を抜かれそうになった騎士団長もホッとしている。
結局、私についてくるのは、心配性のお父さまとお母様が手配した結果、フェルと第三騎士団、それにオーバードルフ側から新たに参戦してきた1万人という大所帯になってしまった。
うーん、ちょっと大げさすぎないだろうか?
「犠牲者が1万1千人もいるのか」
「んなわけ無いでしょ」
お兄様が呆れたように言うのを、思いっきり蹴飛ばした私は、決して悪くない!
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