第9話 国王視点1 息子がやってくれました・・・・最悪のことを!

「何だと、もう一度申してみよ」

私は駆け込んできた外務大臣の言葉に顔面蒼白となった。


「はっ、王太子、ベルンハルト様、婚約者のハインツェルの令嬢に襲われて重症との報が先程本国から入りました」

「そちらではないわ。その前だ」

私は声が大きくなった。


「はっ、王太子ベルンハルト様が卒業パーティーにおいて、ハインツェル令嬢との婚約を破棄したと」

「どういう事だ。その婚約は前国王陛下が苦心されて結ばれたものだぞ。王太子風情が勝手に破棄して良いものではないわ。内務大臣らは何をやっていたのだ」

私は外務大臣相手に怒鳴っていた。

息子の教育に失敗してしまったか。私は蒼白になっていた。下手したら国が滅ぶ。


「殿下が側近らを使って学園でされたことで、よく掴んでいなかったそうです」

「内務大臣に連絡しろ。直ちに辺境伯家に詫びを入れろ。どんな事をしても構わん。最悪王太子の首を差し出せとな」

「陛下!」

外務大臣は驚いて私を見た。


「私もすぐに帰る」

「しかし、陛下、会議はどうされるのです」

「そんなのは貴様に任す」

これは非常事態だ。国際会議などもうどうでも良い。外務大臣にさせておけば良かろう。



私は父の話を聞くまではこの国で一番力があるのは父である国王だと思っていた。そして、次が王太子の自分だと。


確かに建国神話は知っていたし、二つの説があるのも知っていた。


一つ目は我が始祖である初代国王が、戦神エルザベートと協力し、このオーバードルフ王国を建国し、第一の臣、エルザベートを今のハイツェルンに封じたと言うものだ。歴史の教科書にも載っている。


もう一つの建国神話は、信じられなかったが、エルザベートが蛮族を平らげて、政治の才のあるオーバードルフに国王をに指名し、自らははインツェルに隠棲したというものだ。何が違うかというと、この場合は国を作ったメインは戦神で、我が始祖はお情けで国王についたということになるのだ。


私は、当然前者が真実で、嫉妬したハイツェルン辺境伯が後者のような噂を流したのだと思っていた。噂は他にも色々あって、我が始祖が涙ながらに王にしてくれるようにエルザベートに願ったのだの、戦いに負けたが、エルザベートのお慈悲で国王のままでいられたとか言うのもあった。


私はその話を馬鹿にしていたし、そう言う噂を流していると信じていた辺境伯を馬鹿にしていた。当然王立学園の下の年次の辺境伯の後継ぎであるダニエルを見下していた。



そう、父から真実を聞くまでは。



その時、私は嫡男が生まれたばかりで、これで無事に跡継ぎが生まれたと喜んでいた。そんな時だ。父から呼ばれて、その息子の婚約者に、辺境伯の次女で生まれたばかりのエルヴィーラに決めたと言われ、驚いたのは。


「父上、どういう事ですか? 嫡男のベルンハルトはまだ生まれたばかりです。それに次の次の国王になるのはおそらく確実です。何も辺境伯から嫁をもらわなくても、もっと家格的に上の家からもらってもよいのでは」

私は当然のことを言ったと思った。父は辺境伯と親しいから、情に流されたのかと。


「何を申しておる? お前は真の建国記をまだ学んでおらんのか?」

それに対する父の目は怒りに満ちていた。


「はいっ?、何をおっしゃっていらっしゃるのですか。真の建国記など巷にあふれておるではありませんか」

「愚か者! あれは王家が流した偽の建国記だ。王族の貴様までもが騙されてどうするのだ!」

驚いた私に、父は怒って言った。

私は父の言っていることがよく判らなかった。


「お前は馬鹿か。貴様の信じているのは我が王家が、体面を保つために強引に作り出した嘘だ」

「本当でございますか?父上」

私は驚いて父を見た。もう茫然自失した。そんな、あの噂のほうが本当だったなんて。では我が王家は辺境伯にお情けで国王をさせてもらっているのか。



「お前に嘘を言ってどうする? そもそも、ハインツェル領が何故あれだけ豊かか、考えれば分かる話であろうが。その分ではお前はまだ各領地の取れ高等比べたこともないのか」

呆れてたように父が言った。


「良いか、クリストフ・・・・」

そこから父が話した内容は私にとってはとんでもないことだった。

基本はハインツェル領で流布している建国記が正当だと父は言ったのだ。私には信じられなかった。そして、あろうことか、我が王家が酷政を行った時には国王を交代するという秘密協定まであるというのだ。どこの王国に、酷政を行った時に代わる家があるというのだ。それも立場上はたかだか辺境伯にだ。


「クリストフよ、ハインツェルを辺境伯と見るな。判るか、どの国に最大の領地を持つ辺境伯がいるのだ。ハインツェル領は我が国土の10分の1を占めるのだぞ。我が王家直轄領の倍以上だ。なおかつ人口は国の半分を占める。それに、彼らは南のゲフマンに備えるという建前で、我が国に一切の税金を払っていない」

「ならば税金を取るようにすれば宜しいではありませんか」

「お前は馬鹿か。辺境伯の南には侵略国家のゲフマンがいるのだぞ。ゲフマンに備えようと思えば、今の国軍の2倍の戦力でもおぼつくまい。辺境伯軍はたかだか5千で、そのゲフマン5万の大軍を抑えているのだ。それで良しとしたほうが余程ましじゃ」

父は言い切った。


この父が言い切るということはそうなのだう。この父もたまにゲフマンとの前線に視察と称して出ているのだ。ハインツェルの戦力については熟知しているだろう。


「ハインツェル伯の孫はついこの間、6歳にして我が剣聖に勝ったそうだぞ」

「本当にございますか?」

私はにわかには信じられなかった。現剣聖は、周辺諸国にも名の知られた有名人なのだ。それが負けるとは、それだけ辺境伯の孫が凄いということだ。


「エルザベートの血を引いているのだ。そう言う者も出てくる。その下の妹も魔術師としての才は相当あるそうだ。今回、何故お前の嫡男との婚約を儂が考えたか判るな」

「はい。ハインツェルの血を取り込むということですね」

「そうだ。最も5代ごとくらいにそうしているが、なかなかそのエリザベートの血を引き継ぐ英傑は出て来ぬがな」

父は笑って言っていた。


「それに王太子の后に妹がいるのだ。未来の王妃だ。新たな剣聖も、我が王家に不利なことはすまい。この婚約だけはどんなことがあっても、成立させるのだぞ。それが今後王国100年の安定に繋がる」

父はくれぐれも抜かり無くやるようにと臨終間際まで気にしていた事なのだ。


それをあのバカ息子は何ということをしてくれたのだ。


下手したらオーバードルフ王国はこの世から無くなるかもしれない。


私は馬車を飛ばしに飛ばさせた。


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ここまで読んで頂いてありがとうございます。

次はエルは領地に帰ります

明朝更新予定

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