比良坂市編

比良坂市


Side 加々美 瞬


 早朝の比良坂市、防衛ライン。

 

 道路と小高い丘が並ぶ地形。

 戦前は大規模な運送会社向けの店や施設が建ち並んでいたが今はすっかり寂れている。


 そこに日本政府は陸上戦艦を差し向けてきた。

 最新鋭のパワーローダーや戦闘ヘリ、戦車に無人兵器まで出張ってきている。

 

 装備の質からして政府直属の息が掛かった部隊だろう。


 アインブラッドタイプも見える。


 本気で自分達を潰すつもりらしい。


 降伏しようにも自分達は国家反逆罪のテロリスト扱いで殺してもいい存在だ。


 降伏しても殺されるだけであるなら戦うしかない。


 アンナさんが大型ビーム砲、ビームスマートガンで陸上戦艦の砲台を狙撃して黙らせたがそのまま突っ込んで来た。


 相手の上司運は悪いのかもしれないなどと思いながらビーム兵器で次々と敵を打ち抜いていく。


 自分のパワーローダー、バレットウォーリア―は長期戦闘型のアインブラッドだ。

 機体の各部に様々な種類の銃をマウントし、戦い続ける事ができる、荒木 将一のブラックウォーリアーの派生機体である。


 動力も従来型とは違い、特殊な粒子を発して空中に浮かび、バリアを張る事ができる。

 将一曰く、「○Nドライヴ」とか「トランザ○出来たらまんまアレ」だとか言っていましたね。


 比良坂学園のパワーローダーがそのタイプのパワーローダーが多く、主力として使っている。


 だが敵のパワーローダーも核融合炉が基本で火力も高いのであまり性能差が出にくく、バリアも貫通特化型や質量が大きな実体兵器に弱いので調子を乗っていると簡単に墜ちるので油断は禁物である。

 

(敵の数が多いですが・・・・・・無人の兵器も中々の数ですね)


 四脚脚やニ足歩行のロボット。

 砲台型の浮遊ドローンや陸上ドローン。

 無人パワーローダーなども厄介だ。


 必要とあれば核兵器すら使用するようになった政府である。

 これぐらいの倫理観の放棄は想定の範囲内とは言えキツイ。

 最終的には無人兵器を量産して殴ればいいみたいな事をやりそうだ。


『ジワジワと被害が出てきてますね。このままでは――』


『敵側の背後から反応――レギンレイヴだ!!』


 指揮官の如月 純夏(政府の犬時代からの上司)から通信が来る。


『来てくれましたか!!』


 とてもタイミング良く、空中戦艦レギンレイヴが敵の背後を取るように出現した。

 艦砲射撃で敵の陸上戦艦は粉砕され、レギンレイヴから降り立ったパワーローダー部隊に次々と敵が撃破されていく。


 これでこの戦いの勝敗は決したような物だ。


 面白いように敵が蹴散らされていく。



 Side 木里 翔太郎


 背後を上手く突いた段階で勝敗は決した。


 抵抗する者は倒して抵抗しない奴は放置していく。

 

 あまり気分の良い者ではないがそれでもやらねばならない。


『クソ!? どうなってる!?』


『別働隊の連中、しくじりやがったな!!』


『もうダメだ!! 逃げろ!!』


『待て、敵前逃亡は銃殺――うわぁああああああ!?』


 敵の無線は混乱の極地だ。

 何度も見たがやはり慣れる物ではない。


『同じアインブラッドタイプならやれる筈だ!』


『そっちもアインブラッドか!』


 ここで好戦的な奴――純白のアインブラッドタイプと思わしき特注の機体と交戦する。

 量産を前提とした作りなのか武装は標準的であり、背中にフローターユニットを搭載。

 ビーム兵器も標準装備している。

 こちら側の攻撃を盾で防ぎながら攻撃してくるが大局が見えてないのだろうか。


『降伏しろ。ここで戦っても意味はないぞ』


『黙れ!! これでもこの機体を任された意地がある!!』


『そうかい……』


 俺は少し本気を出して敵のアインブラッドタイプを撃破する事を決めた。

 

『もらった!!』


 相手がビームサーベルを引き抜いて接近戦を仕掛けるが――俺は蹴り飛ばした。

 

『なっ!?』


 続いて顔面をぶん殴る。


『ガハ!?』


 流石アインブラッドタイプ。

 強度が堅い。

 グロッキーになってフラフラになりながら距離を離そうとするが、此方も距離を詰めて腰のブレードで左上から袈裟斬りにする。


『こ、こんな――あっけ・・・・・・なく・・・・・・』


『馬鹿野郎が・・・・・・』


 手応えはあった。

 致命傷だろう。

 アインブラッドタイプはその場に倒れ込む。


 周囲の戦闘も止み始めた。


 どうやら決着がついたらしい。


 こうして俺達は比良坂市に辿り着いたのであった。





 Side 木里 翔太郎


 この比良坂市は大企業ミーミルが本社を置いて地方都市に関わらず急速に発展した歴史を持つ。


 その辺の歴史を深く遡ると第二次世界大戦頃まで遡らないといけないらしい。


 なんでもこの土地を中心に秘密結社のような存在が誕生し、第三次世界大戦に備えて長い年月を掛けて比良坂市を巨大な軍事都市に変え、核シェルターすら存在する都市にまで作り替えたそうだ。


 プレラーティ博士もその計画の重要人物であるらしく、日本で大量の新型パワーローダーを開発できたのもその組織の援助などがあったらしい。


 もっともその組織も先のヴァイスハイト帝国との戦いや日本政府の裏切りなどで少なからずダメージを負っているらしく、実質プレラーティ博士が取り仕切っている状態だそうだとか。


 まあそれはともかく、俺達――竹宮高校チームは羽を伸ばす前にブリーフィングルームに集められ、ある作戦参加を打診された。


「敵の駐屯地を叩く?」


「はい。この近辺に日本政府の部隊が集結しているようです。なので攻勢に打って出られる前に此方から仕掛けて叩き潰します」


 と、比良坂学園チームの纏め役の一人、加々美 瞬から説明された。


「敵の数は?」


 俺は質問する。


「先の防衛戦でかなり戦力を削りましたが油断は禁物です。陸上戦艦数隻、戦車や戦闘ヘリ、パワーローダーや無人兵器群をカウントすると4000近いと」


 先の戦いなどで兵力不足だろうによくもまあそんな戦力を差し向けられた物だと思う。。


「此方の戦力は?」

 

 続けて当然の疑問をぶつける。


「日に日に増してますが、防衛のための戦力を考えると1000は出せませんね」


「あの、日に日に増してるってどう言うことですか?」

 

 と、ここで加々美 瞬に牛島 ミクさんが質問を投げかける。


「今の日本政府にやり方についていけない人々などが我々のコミュニティに流れ込んでるんです」


「なるほど――」


 牛島 ミクさんは納得したようだ。

 俺も納得した。


「今の日本政府にいる政治、官僚達は自分達の利益のためならなにをしでかしてもおかしくない連中です。自軍を巻き添えにした核兵器の使用もそうした流れでしょう」


「そう言う連中だから放置するワケにもいかんか」


 最悪この土地に核兵器を撃ち込まれる可能性が高いと言うワケだ。

 

 ぶっちゃけ政治家連中どもはどれだけ国が核兵器で汚染されても国を捨てて安全な土地で快適な暮らしをすればいいだけの話なのだから。

 

 それぐらいは平然とやりそうだ。





 作戦決行まで自由時間をくれた。


 ちなみに作戦参加するか否かの期限もだ。


 ここまであまり休む間もなかった。


 敵も手痛い反撃を受けたし、一旦骨を休めて考えようと言うことになった。


 そして傍には当然、手毬 サエがいた。


 俺と手毬は今、レギンレイヴ内のラウンジの一つにいる。


「町には行かないの?」


「町に行く気力もない。さっきまで爆睡してて・・・・・・とにかくしんどい」


「私も皆もそんな感じよ。整備班には差し入れ持って行った方がいいわね」


「まあな」


 雑多な機種の整備を任されている整備班の人達には本当に頭が下がる思いだ。

 手毬の言う通り、機会見て差し入れした方がいいだろう。

 

「それよりも――他の皆はこれからどうするつもりなんだろうな?」


「・・・・・・概ね、戦うつもりみたいよ」


「てっきり誰か降りるかと思った」


「まあ、損得勘定で考えても私達から離れた方が命の危険が高いのもあるしね。以前の逃避行やムショ暮らしみたいな生活を考えれば今の状況はまだマシよ」


 手毬の言う通りなんだろう。

 俺達は一人残らず国家反逆罪のテロリスト扱いだ。

 ヘタに離れて怯えて暮らすよりかは身を寄り添って一緒に戦った方が気持ち的に楽かもしれない。

 

 豊穣院さんもそれが分かっていたから戦いに身を投じたのかもしれない。


「話は変わるけど私達のパワーローダーはオーバーホール中よ・・・・・・万が一敵襲があったら予備機で出動になるわ」


「そうならないのを祈るよ」


「ええ、そうね」


 だけど不安である。

 手毬の言うような事態にならない事を祈ろう。



 Side 牛島 ミク


 レギンレイヴ内の和泉先生の個室。


 まだ殺風景だがラノベ作家、和泉 ツカサ先生の大切な作業部屋であり、デスクに置かれたPCに向かって黙々と作業している。


 私も四角い机で座布団を敷いてノートパソコンに向かってラノベを執筆している。


 和泉先生は同い歳、高校一年だったにも関わらず書籍化、プロデビューを達成した私の先輩だ。


 私もそれが夢だ。

 だが今は世の中それどころではなくなっている。

 作家を目指せるのは当分先だろう。


「和泉先生も戦うんですか?」


「そう言う牛島さんこそ残るの?」


「うん。皆がいるから」


「僕もだよ――」


 戦争に身を投じる。

 恐ろしいことだ。


 だが戦わないといけない。

 それに慣れてしまった私もいる。

 とても恐い。


 だけどそれは皆同じことだ。


 木里君や相川君、サエちゃんだってそう。


 ミホちゃんだって戦う決意をした。


 和泉先生だってそうだ。


 だから私も戦おう――皆と一緒に。


 そして和泉先生と添い遂げるために――



 Side 和泉 ツカサ


 人生と言うのは分からないことだ。


 随分遠いところまで来てしまった。


 戦争を経験して、国家反逆罪として追われ、放浪して、こうして生き延びている。


 辛い事も多かった。


 だけど不謹慎ながら楽しい事もあった。


 今の自分ならデビュー作の魔法少女戦記よりも更に面白い傑作を書ける気がする。


 そんな気がする。


 なにより幸せなことは牛島さんと恋仲になったこと。


 今なら木里君と手毬さんの気持ちが分かる。

 

 彼女がいたからこうして頑張れたんだって。


 平時では考えられないことまでして、こうして二人きりでいるとドキドキしてしまう。


 最近はしてなかったが――その、えーと、また応じてくれるだろうか。



 Side 豊穣院 ミホ


 皆も随分変わってしまった。


 相川さんからしてそうだったが皆も立派な戦士になってしまった。


 とても悲しい事だ。


 そうならざるおえなかったのは容易に想像出来る。


 だがそんな事よりも私は、皆にまた会えた事が嬉しかった。


 同時に牛島さんと和泉さんが恋に落ちていた事を知って驚いた。


 二人はどう思うかは分からないが納得してしまった。


 なんだか悔しさを感じてしまった。


 同時に羨ましく思えた。


 恋愛。


 私にもそう言う相手が見つかるのだろうか。



 Side 相川 タツヤ


 妹や家族に会えたのは幸いだった。


 豊穣院さん達が頑張ってくれたようだ。


 感謝してもしきれない。


 同時にこんな世の中だから、父さんも母さんも、妹のミユキもこの世の中を生きていくために頑張っている。


 それを見て思ったのはもう自分がいなくても大丈夫だろうと言う気持ちだ。


 両親に皆と戦う事を話した時は反対されるかと思ったが送り出してくれた時は驚いた。


 また帰っておいでと言われた時は泣いた。


 そして決めた。


 皆のためだけではなく、家族のために僕は戦おうと思う。



 Side 荒木 将一


 毎日思う事がある。


 まさかここまで生き延びる事が出来るとは――だ。


 試作機のパワーローダーに乗せられて前線送りにされて。


 それで何度も修羅場を潜って、「もうダメかな?」などと想いながら今日まで生きてきた。


 周りから人外みたいな目で見られる事もあるけど元平凡な高校生だからね?


 まあそれよりも問題がある。


 女性の関係のことだ。


 本野 真清。


 愛坂 マナ。


 朝倉 梨子。


 この3人のアプローチが日に日に酷くなっている。

 

 なろう系主人公じゃあるまいしこうなったキッカケは幾らでも思い当たる。


 それに――こんな状況だからこそなんだろうな。


 だけど何時か選択しないといけない。


 俺にそれが出来るだろうか……



☆ 



 Side 加々美 瞬


 荒木さんは本当に何者なんだろうかと思う時があるが、皆さんも異常ですね。

 

 愛とか恋の力とか言う奴なんでしょうか。

 

 パワーローダーの性能だけでは片付けることは出来ませんね。


 とにかく驚異的な戦果を出して今日まで生き延びて来ました。


 このまま十全にバックアップを続けていれば荒れ果てたこの時代を変えてしまいそうな。


 そんな気さえしてきます。


 そのためにもこの状況を、戦いを止める方法を模索しなければ。


 今は悲しい事に戦いを止めるためには話し合いでどうこうと言う段階ではありません。


 それに国家反逆罪や核兵器を使った連中の動向が気になります。


 何かしらの形で決着をつける事になるでしょう。





 Side 本野 真清


 愛坂 マナ、朝倉 梨子の二人も将一のことが好きらしい。


 私も好き。


 どんどん心が惹かれて言っているのが分かる。


 一線は越えなくてもいい。


 明日どうなるのか分からない身なのだからせめて一線を越えない範囲での恋人らしい事はして欲しい。


 マナさんも梨子さんも同じ事を考えている。


 お風呂に水着姿で一緒に突撃した事もあった。


 ベッドに潜り込もうと考えた事もあった。


 昔の自分が聞いたら卒倒するだろう。


 元々私は学生時代から好きだった。


 マナさんも梨子さんもそうだ。


 なんだかんだ言って将一君は加々美君と一緒に文芸部などと自称オタクを名乗りながら格好いい、ヤンキー漫画みたいな事をしていたからだ。


 そんな荒木君は誰を選ぶのだろう。


 もちろん覚悟はしているが。


 でもそんな気持ちでは選ばれる物も選ばれない。


 だから今日はどう攻めるか考える。


 こんなくだらない戦いも、とっとと終わらせるにかぎる。





 Side 愛坂 マナ


 真清も梨子も将一君を狙っている。


 私も負けずにアタックしないと。


 勿論、みな訓練などは頑張っている。


 訓練でも良いところをみせようと必死だ。


 私もそうだ。


 真清さんにも言われたが「私なんかが~」とか「例え自分が選ばれなくても~」などと後ろ向きな気持ちでは選ばれない物も選ばれないと思う。


 人生は一度きり。


 戦場で死ぬつもりはない。


 荒木君との幸せな将来を夢見て頑張るんだ。


 友人達からは呆れられたがこの気持ちに嘘はつきたくないから。





 Side 朝倉 梨子   


 レ○プされそうになったのを救ってくれて惚れないワケないじゃない。


 それが私と将一との出会い。


 将一は不本意だと思うけど戦いを潜り抜けてどんどん格好良くなってきている気がする。


 だけど望んでそうなったワケじゃないと思うんだけどね。


 それはそうと他の二人は皆、荒木君を狙っている。


 心中穏やかではいられないがそれだけ魅力的な人物なんだと気持ちを切り替えた。


 真清の言う通り後ろ向きなんかではいられない。


 戦いで死ぬつもりもない。


 幸せな未来のために頑張ろうと思う。

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