2-17

『全生徒、全教職員は講堂に集合してください。繰り返します――』

 校内放送が響くと、2年C組の生徒たちは首を傾げたり、面倒くさそうに不満げな声を上げていた――三人の生徒を除いて。

「なんだろ?今日集会なんかあったっけ」

「俺も聞いてないぞ」

「片瀬、生徒会でなんか聞いてないの?」

ひとりの男子に問われて、片瀬はさらりと「さあ?聞いてないよ」と笑って返した。

「片瀬、詐欺師とかやったら相当儲けられそうよね……」

「……花崎、それって褒めてるつもり?」

心底感心したような顔で言う花崎に、片瀬は目を半目にした。

校内放送が流れ終わると、生徒たちが不思議そうな顔で教室を出ていく。

「……失敗したらみんなまとめて爆弾で吹っ飛ぶんでしょ?」

クラスメイトが全員出て行ったのを見送って、花崎がミコトに問う。

「ああ」

――計画は、こうだった。生徒たちを講堂に集め、その間にミコトが御宅田を説得し、爆弾の解除と矢吹の解放を約束させる。

そのあと、御宅田を講堂に呼び出し、花崎と片瀬、尾蝶にバトンタッチし、ラジャブの『ドッキリ作戦』を実行する。

「……人選ミスじゃないの?――アンタ、本当に御宅田を説得なんかできるの」

コミュニケーション能力に問題のあるミコトが、御宅田を説得する。花崎には不安でしかないようで、こめかみをひくつかせている。

「できる」

「即答!? 歩く無責任か!」

即答するミコトの胸倉をつかんで、花崎はぶんぶんと彼をゆさぶった。

「御宅田が暴走した際、万が一できるのは俺だけだ」

「……それはそうかもしんないけど、暴走する体で話を進めるのは……」

「ま、ここまで来たら一蓮托生じゃん。それに俺、天原なら俺や花崎よりやれる気がする」

片瀬が笑いながら花崎の肩を叩く。

「……アンタまでアタマ湧いたの?」

「だって、俺たちができなかったから御宅田は今立てこもってるわけだよ。もしできてたら、そもそもこんなことになってないし」

片瀬の言葉に、花崎は勢いを失くしてミコトの胸倉から手を離した。

「……それに、第三者からの言葉の方が、響くときって、あると思う。逆に……ちょっとでも知ってる奴だと、自分の事知ったような口利いてんじゃねえって、思う時――あると思うんだよね」

片瀬が他人の機微に鋭いからか、それとも後悔しているからなのか、経験則からくる言葉だったのか。

「…………」

花崎にはわからなかったが、それを聞く時間も、ましてや無神経さも持ち合わせていなかった。

「まあ、どのみちあんな胡散臭い石油王の案に乗ったあたしもあたしだし。――でも、天原と心中なんてしてやらないから。こんな美少女高校生ジャーナリストがこんなところで爆死とか、人類の損失だからね」

花崎が拳をミコトの前に突き出すと、片瀬がくすくすと笑った。

「素直に『天原を信じてる』って言えばいいのに」

「うっさい! てか何ボサっとしてんの!」

花崎に促されて、片瀬も笑いながら拳を合わせる。

全く理解ができないという風に、ミコトは首をかしげた。

「…………それは何の合図だ?」

ミコトが困惑しながら尋ねると、ため息をついた花崎が片瀬に視線で合図を送る。

「拳を合わせるんだよ。ハイタッチみたいなもん」

「ハイ……タッチ?」

いぶかしむミコトの手首を片瀬が掴んで、微笑んだ。

「これから頑張るぞーって意味。こういう時はこうやって気合入れるの」

「なるほど。士気を高めるための行為か」

「世間知らずのレベル、ダンチ過ぎない?……やっぱアンタ、尾蝶先輩が言ってたみたいに、マジで軍事関係者とか……」

花崎がジトッと見つめると、ミコトは目をぱちくりさせて。

「機密事項だ」

お決まりの台詞を吐きながら、こつんと二人の拳に自分の拳を合わせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る