2-16

「……どうか、御冗談もほどほどに」

『ハハハ、三男ボウというのは本当デスヨ?』

 ミコトが咎めるが、男は軽薄な態度を顧みない。

「……なんかテレビで聞いたとあるような声なんだよな……」

 片瀬がつぶやくと、花崎がうなずく。

「ああ、わかる。なんか……バラエティーとかでたまに聞く感じよね」

「この方はラジャブ・アズィームと言う方で、俺のクライアントであり……」

 ミコトが紹介しようと言いかけた時、片瀬があ、と思い出したように声を上げた。

「ラジャブ・アズィームって……外国の富豪とかが屋敷の紹介とかやったりするバラエティーにたびたび出てたよね」

 ラジャブは日本人にもそれなりに認知されている有名人だった。石油系の事業で財を成し、現在は不動産投資やリゾート開発など幅広く手掛けている実業家で、日本のバラエティにも度々出演している。

 成金キャラとして人気があり、『ワタシまたなんか買っちゃいマシた?』というキメ台詞と共に番組内でフェラーリを乗り回したり、クルーザーでクルージングを楽しむ姿が視聴者に好評だった。

「……あー。あれか。見たことあるわ! ……なんでそんな人が出てくんの!?」

「機密事項につき言えない」

 驚愕する花崎に、ミコトはそっけなく言って口を閉ざす。

『フフ、ミコトさんとワタシはクライアントとエージェントの関係とだけ言っておきまショウ』

「……どういう関係なの?それ」

「機密だ」

 またそれだけ言ったミコトに、花崎は顔をしかめる。

『それで、今回の作戦についてですガ、簡単に言うト――ソウ!ジャパニーズ・お笑い番組の様式美――ドッキリ大作戦デーース!!』

「……は?」

 あまりにも予想外すぎる展開に、花崎はぽかんと口を開ける。

「ふざけてんの!?」

『いえいえいえ、大真面目デス』

「大真面目、という割に、花崎さんの言う通り、ふざけている、とわたくしも思いましたが」

 尾蝶が不快そうに眉間にしわを寄せたが、ラジャブはまったく気にしていない様子で話を続ける。

『カスタマーに迷惑をかけた以上、アフターケアは必要デショ? ワタシもビジネスマンデスから』

「カスタマーって……御宅田の事!? じゃあアンタが爆弾を――」

 花崎がまくしたてるように言いかけるが。

『詮索は不要デス。普通の女子コーセーであるアナタが知る必要はないのデスから。ビジネスは白だけでは成り立たないものデス』

 陽気な声はそのままに、ラジャブはそう突き放した。言い返すこともできない事実を突きつけられ、花崎は押し黙る。

『無論デスが。ここでのことは口外しないでクダサイね。……とはいえ、ワタシの杜撰さで招いた事態デス。完璧に今回の件を解決したいと思っていマス。白華学園は明日から日常を取り戻し、尚且つ御宅田クンを社会的に殺さず、尾蝶家も失脚させない――完璧なプランをご用意させて頂きマシタ。どうかご安心ヲ!――ではミコトさん、皆さんのスマホに情報共有をお願いしマース!』

「了解しました」

 ミコトがうなずくと、すぐにミコトは自分のスマホを弄り始める。すぐに各々のスマホが震え、メールアプリが起動された。

「……これは」

 画面には、ラジャブが提案したと思われる計画の概要が書かれていた。

 ミコト以外の三人はそれを読み始め、顔をしかめたり、首を傾げたり、噴き出したりと、反応はそれぞれだ。

『皆さんの演技力、度胸、ド根性、そして愛と友情を信じてマスので!』

 ラジャブは自信満々にそう宣言したが、四人は歓声を上げるわけでもなく、ただ呆然とスマホを見つめていただけだ。

『では、ワタシはこれからやることがありマスので、マアッサラーマさようなら!」

 それだけ言い残して、電話が切れたことを示す話中音がミコトのスマホから流れた。

「…………これ、マジでやんの」

 花崎のつぶやきに同調する様に、片瀬はため息をついたが、尾蝶だけは笑っていた。

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