第16話 「父親との再会」


教室血塗ちまみれ事件から数ヶ月。

鈴の殺害事件は結局解決することはなく、最初のうちはその事件で世間は持ちきりだった。

だけど、それも一ヶ月程過ぎるとだんだん忘れられていき、世の中はいつも通りの日常が過ぎていく。


今月は卒業シーズンなので生徒たちは新学期を楽しみにしている者、卒業を楽しみにしつつ寂しく思う者とさまざまだ。

そんな浮足うきあし立っている雰囲気の中、本日の紅は機嫌が氷点下まで下がっている。

チラチラと時間を気にする様子を見せ、PM13:00に差し掛かると、


『すいません、帰ります』


と、突然そう告げて席を立ちそのまま学校を後にした。


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真っ直ぐ自宅へ戻り、これからの計画のために手早く準備を進める。

自室からキューブ型の小さなカメラを数個取り出し、二階へ行き四つの部屋を見て悩む。

別に手の込んだことをするつもりはないので、右側1番奥の部屋を使う事にして中へ。


内装は例えるなら精神科病棟の隔離室かくりしつ

窓も家具も無く、あるのは小さな便器一つと床に取り付けられた鎖と足枷あしかせ

持ってきたカメラを天井四角へ取り付ければ準備はひとまず終わりだ。

自室に戻りホッと一息ついて考えをまとめていると、


[父親…こっち向かってるよ]

[タクシーでもうすぐここ着くみたい]


あのクソ野郎、こっち来るって事は愛人に愛想尽かされたのか。

引き出しからスタンガンを取り出し部屋を出ると、


ードンドンドンドンッッッッッ!!!!!ー


凄まじい勢いで玄関のドアが叩かれる。


[父親が来たみたい、殺す?]


期待に満ちてる声に答えずドアの鍵を開けると、


ーバァンッ!!ー


「…………」


勢いに任せてドアが乱暴に開き、父親が無言で入ってきた。


『何のようでここに』

しばらくここに住むからな。おら、酒買ってこい!」


そう言ってズカズカとリビングに入っていく背後からそっと近寄る。

ソファーにどっかり座ってる後ろ姿をじっと見て思い出す、スタンガンで鈴は卒倒そっとうしなかったよな…

あれが奴だったから特に何も問題はなかったけど、今こいつがそうなれば流石に力では勝てないのは明白めいはくだ。


一度そばを離れ鞄から催眠スプレーを出し持ち替えてから、また戻り父親に話しかける。


『ねぇ』

「あ"ぁ?」


袖口で口元を覆い、不満そうに振り向いた顔に向けて遠慮なしにスプレーを吹き付けた。


「てめぇっ、何しやがんだ!!!」


激怒し多少動き回って抵抗するが5〜6秒くらいで床に倒れ動かなくなる。


紅が今からやろうとしてることは、父親の監禁だ。


床に倒れてる奴の胴回りにロープをくくり付けて引き摺って階段へ行き、そのまま上まで引きずって上げていく。

先程準備した部屋に運び込み、足枷をはめれば完成。

ポケットに何もない事は確認済なので自室で寝ながら起きるのを待つことにした。



3時間ほど寝てただろうか、ふと何か聞こえると思えば着信がきてる。


【死体収集屋】


『はい』

「おっ、出た出た。篝火への依頼なんだが今いいか?」

『めんどくさいのは嫌だよ』

「俺の方の仕事なんだが助手足りないから、作業を手伝って欲しいんだ」

『めんどくさそうだし、こっちもちょっと予定してる事あるからやだよ』

「頼むよー、ちょっと特殊な客の食事の準備を一緒にやって欲しいんだって」


グダグダと引き下がらない状態の会話が続き、今のところ今夜の予定だけ引き受けて終わるつもりだというので引き受けることにした。


『なんかめんどくさそうだし、3つ条件があるんだけど』

「かまわないさ、紅のでも篝火の方でも全部受けるよ」


そういう事なら、遠慮無く。


1、依頼完了後の報酬は現金一括で支払う事。

2、死体が出る場合、一体につき100万。

3、依頼が終了しても紅の方の用事に付き合う事。


この3つを提示。


「もっと複雑なのを出されると思ったけど、そんなのでいいのか?プライベートだって別にいつでも付き合うのに」

『はいはい』

「じゃぁ、これからそっち行くから出る準備だけしてな。依頼人女だから、そこもよろしくな」


そう言った後に通話は切れた。

会話内容からして、きっと男の装いでという事だろう。



「おー、紅」

『やぁ、収集屋』

「ここでその呼び名はなぁ」


玄関先で待ってると一台の車が止まり、中から顔を出してヘラヘラとしているこの男は来栖くるすいつき

表の顔は大手企業の社長、裏では人身売買や薬など扱える物はなんでも取り扱う収集屋で通っている。


助手席に乗り込み、目的地に向かいがてら今回の依頼内容を聞く。


「今回は美食家たちの晩餐会の手伝いって事で仕事を受けてな、それだけなら別に俺はお呼びじゃないんだわ」

『来栖に仕事って事は、この依頼で使う食材が普通じゃないからってことかな』

「……」


突然ムッとした表情で何も言わなくなった。

数回話しかけてみたが無視。これは…めんどくさいやつ。


『……はぁ、樹』

「んっ、いい子」


仕方なく、本当に仕方なく名前を呼ぶと機嫌よく返事が返ってきて頭を撫でられる。めんどくさい。


その後は機嫌も戻り、改めて依頼の内容確認に入った。

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